暗部
ギルド長が受付にやってきた。
ハーネスを着込んだスキンヘッドの男だ。
露出する肉体は鍛え抜かれていることが容易に分かる。
「俺はギルド長のオーギス・ブラウンだ。お前らのことは知っている。」
するとユウキを見て言った。
「そこの赤髪は基礎鍛錬を日課にしているだろう。魔力がない分頑張ったようだな、嫌いじゃない。」
次にアリサだ。
「そこのチッコイ栗毛は、流れるような魔力が美しいとさえ言える。」
最後にレナード。
「ボンボンの箱庭で育っただけじゃねぇな。自分を見つけて努力を惜しまなかったようだな。」
そして3人をもう一度一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。
「バルトフェルドが紹介するだけの事はある。俺の部屋に来てくれ。」
どうやら先生が相談を受けて、女将を通じたようだ。
3人は部屋に招かれると、椅子に座るように言われて開口一番にこう切り出した。
「お前たちは闇ギルドについて知っているか?」
それを聞いてレナードが答える。
「ドールガルスでも議題に出ました。本部不明の暗殺、奴隷まで裏側を仕切る集団ですよね。」
オーギスは頷くと立ち上がり、一枚の紙を見せてきた。そこには名前がズラっと並んでいる。
この王都における被害者の一覧で、全て金持ちと貴族達である。
「この中の共通点は汚職にまみれた連中だ。ただし三件ほどそれがないが、奴隷取引を荒らした事が判明した。」
そしてもう一枚出してきた。
「恐らく次のターゲットだ。今夜お前らに頼みたいのは屋敷に行き護衛をしてほしい。」
ユウキはこの街に来た時、奴隷の女の子とぶつかった。
あの時から気にはなっていたが、解決する手段がなかった。
しかし今は実力がついて当事者になるチャンスが到来したが、逆に肩書きが出来てしまった。
「俺たちは学園の特待生です。仮にギルド長からの依頼であっても、学園の意向を無視して内密に依頼は受けられません。」
オーギスはニヤリと笑うとユウキに告げた。
「俺はますますお前が気に入ったぞ。恩を忘れた雛鳥は下衆以下だ。
安心しろ担任の許可を得ている。王都騎士団団体バルトフェルド・ガークスのな。」
それを聞いて3人は顔を合わせ、頷きあった。
「学園の許可があれば、城下町の町民を守る為に善処します。」
それを聞いて嬉しそうに強面を緩めると、オーギスは屋敷の場所を教えてくれた。
因みに正式な依頼となるため、特例でシルバー冒険者として登録をする事になった。
「これが証明書にもなる。紛失した場合は即座にギルドに報告しろ。まぁ魔力検知で悪用はできないがな。」
早速屋敷に向かうと3人は驚いた。庭は花で埋め尽くされ、通路がしっかりと整備されている。
「綺麗ね、こんな所に住んでみたいわ。」
「もう少し自立出来たらこんな庭も持てるさ。」
サラッと言ったが、プロポーズみたいになってしまった事に気がつき、2人は赤面する。
レナードが優しい目で見てくるのが少し辛い。
大仰な玄関はそれだけで来訪者を圧倒してくる。ユウキがノックをすると、使用人の女性が出てきた。
「冒険者ギルドから派遣されて来た者です。護衛を委託されました。」
そう言いながら依頼証を見せると中に通された。屋敷の中も豪華で、客間にシャンデリアまでついていた。
暫くすると屋敷の当主がやってきた。
3人は着席せずに立って待っていると、家主は感心したように頷くと席に着き、3人に着席を促した。
「若いのにしっかりしておる。君たちの実力検定試験は見せてもらったが、実に素晴らしかった。」
レナードが受け答えに応じる。
「恐縮でございます、こ当主様。早速ではありますが、此度の護衛の依頼の件について、屋敷の見取り図などを拝見させて頂けないでしょうか?」
当主は手を振り天を仰ぎ見た。
「代々受け継いだもので、ここに見取り図はない。
少し話をしよう。ワシは1人の奴隷を買い戻そうとしたが、元請と上手く行かんかった。」
そして難しい顔をして告げた。
「昔は街の闇を仕切る正義感溢れる連中だった。だが世代が変わり今は金以外に興味を持っておらん。」
ユウキが昔はという部分に引っかかった。ギルドは昔からあり、暗部を仕切っていて尚且つ老人はそれを知っているという事だ。
「ご当主様、無礼を承知でお伺いしてもよろしいでしょうか?」
察したようで、当主は頷いた。
「ギルドの本部、または類する物の所在をご存知で?」
当主は試験のことを思い出していた。彼らの強さを考え見て暫く考えると、決意したように告げる。
「商業ギルドのさらに東側に古い教会がある。そこの地下から第2門の先、君たちの居住区がある場所に繋がっている。」
これには3人が驚いた。灯台下暗しとはよく言ったものである。
「ワシが知るのはそこまでじゃ。取引などは全てその教会で行われる。」
そして当主は立ち上がると、最後の挨拶をした。
「では、よろしく頼む。あの子を取り戻すまでは死ぬに死ねん。」
3人はバッと立ち上がると、当主に元気よく返事をした。
「「「はい!」」」
それを聞いてにこやかな笑みを浮かべると、部屋を出て行った。
使用人から当主の書斎と寝室以外は自由に見ていいと言われ、拠点を寝室の隣部屋に設定した。
時は昼下がり、長い夜が待ち構えているため3人は準備に一度外へ出る事にした。
「ふう、やっぱり肩こるなぁ。」
レナードは実家での教養なのだろう。彼の教えで今回は助かった。
「レナード助かったわ。片田舎出身の私達じゃあれは無理だったわ。」
ユウキも同意すると、それで褒められたことはないようで、頬をポリポリ掻きながら「ありがとう。」と言っていた。
3人は露店で昼食を済ませると、そのまま干物や飲み物を買い込み、再度屋敷に戻って行った。