それぞれの決意
村人一行はバラバラに解散して行った。
若干残った村人の中にユウキは2人を見つけた。
ガラスとアリサである。
「すげぇなユウキ!」
「本当に凄いわね・・私も魔法の勉強を頑張らないと。」
2人はそれぞれ感想を述べた。
「いつも農作業をしているから、力には自信があるんだ!」
ユウキは笑顔で答える。
そこで村長が言った。
「立ち話も何だ。皆でうちに来るといい。」
そういうと、5人は村長の家に向かった。
途中で子供達は、土魔法とユウキの耕し、どっちが早いか論争を繰り広げていた。
程なくして村長宅に着くとガラスが言った。
「俺は部屋に戻るな。ちょっと母さんの言いつけがあるんだ。」
「「またね!」」
ユウキとアリサは息のあった返事をする。
こうして残りは客間に向かった。
「さて、いきなりですが村長お願いがあります。」
ボストンがいうと村長が怪訝な顔をした。
「岩の正体で気になることがあるのは、ワシも同じだ。それと関係が?」
「全くない訳ではありません。ユウキに鍛錬を積ませようと思っております。
時期が来たら王都学園へ行かせようとも。
まだリースにも言ってませんがね・・」
それを聞いて村長は二つ返事をした。
「別に構わん。子が外に出ると村に影響するが仕方なしだ。ボストン君のように来てくれる若者もおるしな。」
するとアリサの顔が蒼白になった。
「ユウキ・・居なくなっちゃうんですか?」
それを聞いてユウキが答える。
「アリサも来ればいいじゃないか!」
だが現実は甘くない。
学費問題や両親の承諾。とても直ぐに決められることではない。
「ユウキ、無理を言うな。アリサちゃんの家庭の都合もある。」
するとアリサが俯いたまま言った。
「私やるわ!どんな奴にも負けない魔導師になる・・!
だから・・だから!さっき言っていた鍛錬を私にもやらせて下さい!」
「はっはっはっ、我が村の若者は素晴らしい。
活躍すれば出身地も王都とのコネクションが出来て恩恵がある。
まだ時間はあるし、それまでアリサの両親とも考えれば良いとワシは思うぞ。」
するとボストンもそれに同意した。
「村長の言う通りだよ。鍛錬もまずはご両親に相談しなさい。」
それを聞いてアリサは瞳を輝かせる。
「分かったわ、それなら私は帰るわね。皆さま、ありがとうございます!」
そう言うなり立ち上がり、アリサは駆け足で家に帰っていった。
嵐が去ったように静かになり、ボストンが口を開いた。
「さて、岩の件ですが鍛錬と同時に調査しようと思います。村周辺のゴブリンの動向を伺います。」
それを聞いて村長は「うーむ」と唸りを上げた。
「やはり奴らか。ホブが出たか?」
ゴブリンとは小鬼の獣人で何処にでもおり、多少の知性と集団性を持つ。
ホブとは集落のボスを指し、一般的に通常個体より数倍強い。しかも集落全体の統率力が格段に上がる。
ボストンが顎に手を当てながら考えを言う。
「あるいは。恐らく採掘した鉄鉱石混じりの岩を運搬中に崖から落としたんでしょうな。」
「では、この件はボストン君に一任する。
決して無理をするでないぞ?場合によっては冒険者ギルドに依頼を出す。」
それを聞いてボストンは頷いた。
「それではこれで失礼します。ユウキの誕生会もありますので。」
「あぁユウキや。此度は本当にありがとう。ユウキに幸あらんことを。」
ユウキは笑顔で言った。
「ありがとうございます!
ガラス君にもまた遊ぼうねって言っておいてください!」
村長も笑顔で頷いた。
ユウキとボストンが村長宅を後にする。
二階の一室で静かに俯いていた少年は、密かに決意を胸にする。
防音などないので全て聞こえていた。
「俺には俺のやりたいことがある・・!
この村で・・最高の食材生産量をはじいてやる!」
こうして3人の子供達はそれぞれの決意を胸に秘める。
父と歩く少年は、無能でも力を求める。
家路に走る少女は、魔法の真髄を求める。
村長宅の少年は、村の発展を求める。
村で共に遊ぶ少年・少女の未来はここで分かれた。