真紅の瞳(覚醒)
ユウキは実感していた。
過去に発現した真紅の瞳より遥かに大きな力を。
ナックルを初めて使った時の感覚が蘇る。
ユウキは魔力が皆無ではない。
魔力量が多すぎて、無意識に生命保持からリミットを掛けていたのだ。
これまで感情の爆発でその蓋が外れた時、魔力の奔流が体外に、そして瞳に色として現れていた。
しかし身体が成長し、増幅する魔力量に耐えるほど鍛え上げてきた。
後はこの魔力栓の制御をすれば良い。魔法の行使を様々な人達から観せてもらってきた。
黒龍が無意識に下がった一歩から持ち直し、激怒する。
「なんだ貴様は?我を蜥蜴と愚弄するか!」
更に咆哮をあげる。
グガァァァァァァ!!
しかしユウキは真紅のヴェールに包まれており、最初は竦み上がった咆哮も今は気にも留めない。
ユウキは構えると、黒龍の眼前から消えた。
《アースシザー》
跳躍したユウキは縦に回転しながら黒龍の頭上に踵落としを見舞った。
ズガァァァァン!
咆哮を無理矢理止められ、足元からは地面がせり上がり挟み込まれる。
「グッ!」
そのままナックルに風を圧縮すると、ナックルが紅く光り唸りをあげる。
ユウキは大振りのアッパーで黒龍の顎下に力一杯打ち込むと、その威力と猛烈な風の相乗効果で黒龍を打ち上げた。
ユウキは跳躍すると黒龍を追い越し、一気に右腕に魔力を込めた。
《烈風華》
飛んでくる黒龍の背中に向けブローを見舞い、魔力の奔流が黒龍を襲う。
一気に解放された魔力は、一輪の真紅の薔薇のようであった。
バァァァァン!!
「ガハッ・・」
大きなクレーターを作り、黒龍は沈黙した。
打撃点の高強度の鱗はみるも無残に剥がれ落ち、肉体へもダメージを残した。
「もう一度言ってやる。調子に乗るな、蜥蜴如きが。」
黒龍は尻尾をユウキ目掛けて振り下ろしてきた。
しかしユウキには魔力の残滓が、攻撃する場所を教えてくれるので回避する。
黒龍は起き上がり、尾と両手の鉤爪を使って高速で連撃を繰り出す黒龍に対して、ユウキは全てを見切る。
アリサとレナードにはユウキの回避が目で追えず、只々真紅の残滓が黒龍の周りを舞っていた。
ユウキはテールスマッシュを目の前で回避すると、尾を掴みフルスイングして黒龍を地面に叩きつける。
黒龍は構わずノータイムで《レディアントブレス》を放ってきた。
閃光が晴れて視界がクリアになる。
「もういいか?」
ユウキの周りには真紅のヴェールが漂っていて、閃光の全てを受け流した。
「貴様は・・何者だ?」
「ユウキ・ブレイク。」
それを聞いて黒龍は急に大人しくなった。
「そうか・・我はトージの秘宝の守護者にして、血を受け継ぐものへ試練を貸す。」
レナードに皆が向き直った。
「僕はダルメシア戦争の英雄、トージの子孫だよ。固有血技は彼から受け継がれたものなんだ。」
これには流石に驚いた。ドールガルス城塞都市を収めるドール家が子孫?
「あの力は絶大すぎて使えない者が多いんだ。ドール家がトージの子孫なのは余り知られていないよ。」
そこで黒龍が間に入る。
「戦争時にトージの右腕と称された者がいた。彼女は《点穴》を有していた。」
そしてユウキの瞳を見た。
「綺麗な紅の瞳だ。汝の瞳は・・ふふ・・はははっ」
突然黒龍が笑い出した事に驚き、3人が目を見開いた。
「ナルシッサにはその瞳の力は無かった。汝の瞳は我らと同じ物だ。」
ユウキは問いかけた。
「俺に竜の血が?」
「恐らくはナルシッサが関係している。これ以上は分からん。」
真紅のヴェールは龍と同等以上の魔法障壁があるそうだ。
そして黒龍がアリサを見ると、突然キッと睨みつけた。
アリサは一瞬ビクッとなるが、すぐに黒龍を睨み返した。
「フハハハ!其方の胆力と魔力は底が知れんな。汝にもまだ何かあるぞ。」
そして黒龍は頷くと宣告した。
「トージとナルシッサは世の平定が未完成だと言っていた。そして我らを長寿種を残した。」
黒龍は問いかけるように告げた。
「汝らは何を望む?」
3人は声を揃えて言った。
「「「大切なものを守れる力を!」」」
「我が友等と同じ事を言う・・・我も友の元に行くとしよう。」
黒龍はそう言うと、強力に発光し始めた。
そして魔力を最大限に纏うと光の粒子が舞っていた。
「トージ、約束を今果さんぞ。」
光の粒子は一つ一つが優しく、しかし力強く瞬いていた。
それが3人の中に入り込んでくる。
「黒龍!お前のような、友を思える優しい奴になる!!」
「僕は世界が優しさに包まれる世界になるように頑張るよ!」
「私はそんな世界を守り切るわ!」
3人の決意を受け取り優しく口角を上げると、光の粒子となって消えた。
(トージとナルシッサに良き土産話ができた。)