最高に幸せの涙
ユウキたち3人は学園地下室に来ていた。
頑強な扉の前で待機しているとバルトフェルド先生が到着する。
「緊張しているか?ここからは生と死を掛けた本物の洞窟だ。他の3人は既に昨日入った。」
そう言って扉に手をかざした。するとガチャガチャンと鍵の開く音がした。
「引き締めろ。お前達を殺したいんじゃない。死なない為に強くなるんだ。」
ユウキはそれを聞いて呟いた。
「死なない為・・守りたい者がいるからもっと強くなる!」
2人はそれに頷き、3人は扉を潜った。
バルトフェルドは1人残り不敵に笑った。
「守りたい者か・・俺たちと同じじゃないか。だからあいつは強いんだろうな。」
中に入ると灯りがないのに明るい。
授業で習ったダンジョンの事を思い出して復習した。
「前方は俺とレナードでアリサは3歩後ろを、俺が魔力感知で確認するけど、全域に魔力が漂っているから微小な反応は分からない。
敵と遭遇した場合は、アリサは後方に注意してほしい。」
「「了解!」」
一本道を進んでいくと、ウサギやヘビの魔物に遭遇するが、特にサウスホープ森林にいた魔物と同程度だった。
そこで小部屋を発見して中に入ると、ユウキは2人を止めた。
ユウキは壁からも滲み出る魔力から、魔力感知で地図が形成できる事に気が付いた。
「点穴でダンジョンの構造が分かった。今から書くから覚えて。」
1層は広くなく一本道に多少の分岐があって途切れている。
そして小部屋がいくつかあり、恐らくそのどれかが下層に繋がっていると考えた。
「取り敢えず部屋を虱潰しに探そうか。」
同意して先を行くが特にトラップなどもなく、下層への階段を発見したので進んだ。
ー2時間後ー
4層までたどり着いたところで、休憩をとった。
「なんて言うか、魔物も弱いしトラップも無いしでちょっと物足りないわね。」
アリサはそうボヤくが、実際は4層に来るまでに一日はかかる。
ユウキのマッピングが異常なのだ。
これがないと道を間違えて元に戻ったりして疲弊するため、魔物が弱くても徐々に辛くなってくる。
「まぁまだ始まったばかりだし、慢心せずに行こう。」
「そうだね、でも魔法を使うほどでもないのは流石にね・・」
入って2時間の彼らにはダンジョンの難易度が??となるような代物だった。
結局4層も変わらず攻略し、5層についた時にユウキが違和感を示した。
「何かいる。」
ユウキが呟くと、2人が警戒心を上げた。
「どうしたの?魔物の反応が強くなった?」
「一箇所だけ強い奴がいる。」
そこに向けて3人は魔物を倒しながら進んだ。
そして(でもお高いんでしょう?)と言いたくなるような扉があった。
「こんな高級感溢れる扉の先には何がいるんだ・・?」
気を引き締めて押し開けると、中にはクマの魔物がいた。
「こ・こいつは!」
アリサとレナードは魔物を見て警戒心を上げ、レナードが叫んだ。
「ユウキ!いきなり強くなったよ!」
だがユウキは違った。
「いや、王都に来る途中の森にいるビッグベアだよね。通り過ぎざまに瞬殺しました・・」
「「・・・は?」」
2人は息の揃った声を上げた。それもそのはず、ビッグベアは熟練のシルバー冒険者が3人以上で討伐する魔物だ。
魔物がわかってユウキは聞いてみた。
「レナード君、やってみるかい?」
そこでレナードが前に出た。
「ユウキにできたなら僕がやるよ。」
ユウキとアリサは下がると、レナードに防護壁を貼った。
「念のためね、頑張ってレナード!」
レナードは左手を上げて応えると、右手を剣柄に添えた。そしてレナードの接近にビッグベアが突進してきた。
抜刀術のような構えに、ビッグベアの大振りを躱すと一閃した。
だが浅い。
ビッグベアの外皮は意外に頑丈なのだ。(吹き飛ばしたユウキには分からなかったが。)
続くビッグベアの乱撃を捌きながら、剣に風属性を纏うと一気に切り上げた。
ビッグベアの両腕が宙を舞う。
そして隙だらけの胴体に一閃すると、ビッグベアは真っ二つになり倒れた。
レナードは「ふぅ」と息を吐くと、剣から風圧が解放される。
パチパチパチ
ユウキとアリサが拍手している。
「おめでとうレナード!お前も規格外の仲間入りだな!」
そう言われて悪い気はしなかった。
天才魔術師のアリサ、人外の膂力と耐力を持つユウキに、レナードはどこか疎外感を覚えていた。
そしてユウキとアリサが右手をあげる。
そこにレナードはゆっくりと歩いて行き、俯いたまま2人とハイタッチをした。
パンッ!パンッ!!
レナードは俯いたまま涙を流していた。
だがそれは嬉しい時に出るもので、2人にはそれが分かっていた。だから2人はレナードに譲ったのだ。
「レナード、最高に幸せな涙だな。」
そう言われて顔を上げると涙をそのままに、2人に微笑んだ。
「うん・・最高の友達だからさ!」
「違うだろ?親友だ。」
アリサも釣られ泣きをしながら言った。
「ええ・・最高の親友だわ。」
そう言って3人は抱き合った。
レナードとは出会って間もないが、ずっと昔から知っている様な、そんな不思議な感覚があった。