魔法の真髄
5人は廊下を歩いていた。そして突き当たりにたどり着くと学園長は止まり、壁に手をかざした。
すると何もなかった壁に扉が現れ勝手に開いた。
「入りたまえ。」
皆が部屋に入ると、学園長はソファーに座るように言った。
そしてアリサに青色の液体が入った小瓶を手渡した。貴重な魔力回復薬だ。
「それを飲むと楽になるはずだ。先生は先ほどの経緯を説明してくれ。」
バルトフェルドは頷くと起こったことを包み隠さず話した。
「ーーなるほどね。ユウキ君どう言うことか教えてもらえるかな?《ヒートエンドボム》はよく使われる上級魔法で確立されていたと思っていた。」
ユウキはどうするか考えた。
無詠唱もそうだがもしこれが世に知れ渡ったら常識が覆される。いい意味でも悪い意味でも。
「皆魔力を使っていますが、学園長はそれがどう言う流れか説明して理解できると思いますか?」
質問に質問で返したが、学園長は話すのに必要なステップと判断して明確に答える。
「無理ですね。人並み外れた魔力操作と制御能力が必要で、それに合わせて魔力を機敏に感じ取る天性の才能が必要です。」
恐らくアリサの様な人外の才能が織りなす結果と結論づけて、ユウキは話すことにした。
「ありがとうございます。同じ考えでしたが、確証がなく話すのは躊躇われました。
結論から言うとヒートエンドボムの詠唱は不完全でした。」
学園長は表情を変えずに「何故?」と問いかけた。
「俺はブレイク家の血筋で固有血技の《点穴》が使えます。父曰く伝承から初代以上の深度だと言うことです。」
それには流石にバルトフェルドと学園長、そしてレナードも驚愕した。
「なるほど、一般には初代が最高の力を発揮すると聞きますが。
公開されている《点穴》の情報は、対象の魔力の強弱が見えるとあります。貴方のその眼はどんな世界が見えるのですか?」
ユウキが悩んでいると学園長が付け加えた。
「あぁ、固有血技の詳細は弱点になり得るので気持ちはわかります。私と団長も使えますしね。
他言しないと約束しましょう。」
それを聞いてユウキは話し出した。
「伝承にはダルメシア戦争時に包囲され、半径1Kmの魔力反応を詳細に感知して伏兵と戦力比を見切り、穴をついて逆包囲したそうです。
他にも魔力の強弱が微細でも感知できますが、これを利用して俺は試験の時に剣を砕きました。」
一息ついてユウキは質問の本質に入った。
「つまり俺には魔法詠唱時の魔力の流れが詳細に見えるので、詠唱時の句にどんな魔力反応が起きるか観察しました。
そしてヒートエンドボムの詠唱に欠陥を見抜き、対策を呟いていたら、アリサが即興で改善してしまいました。」
「なるほど、私は対象の魔力に干渉できる《波長干渉》と言うと固有血技を持っています。つまり私がこうすると・・・」
学園長はバルトフェルドに波長干渉で、魔力を少しだけ放出させた。
「はい、先生の魔力を少し出しましたね。学園長の魔力が先生の周りを粉の様に舞っていました。」
学園長は両眼を見開いた。
予想外だったのは、今少し見せただけで術者が特定されたのだ。
これは錯乱や操作系の魔法が絡んでも、ユウキが見れば一発で干渉者が分かることを意味する。
(これは・・彼の存在自体が非常に稀有ですね。)
「分かりました。ユウキ君とアリサ君は詠唱と魔力の相関性について論文を共同で出しませんか?
この話だけでは世間はどうにもなりませんので、安心してください。」
ユウキは考えたが困ったことが1つある。
「根拠はどうすれば良いんですか?点穴で見たなんて感覚論は誰も信じませんよ?せめて魔力を数値化出来れば・・」
学園長はユウキの発言に嬉しそうに答えた。
「思考力や探究心があるのは素晴らしい事です!
数値化は問題ありません。試験の時に使った魔力測定器がアウトプット出来ますので、貸与します。
期限は半年、アトリア先生と私の査読を含めた期間です。」
「分かりました。俺は魔法が使えないからアリサよろしくね。」
アリサは薬で回復して元気になっていた。
「もちろんよ!上級魔法もすぐ物にして書いておくわ!レナード、貴方も手伝いなさい。武術と魔力の相関性について一緒に一筆書いたら良いわ!」
急に話を振られ驚いた。正直今までの会話は夢物語のようで信じられない話ばかりであった。
だが、武術と魔力の相関性と聞いてピンときた。
「はは、アリサすごいね。言われた瞬間にインスピレーションが刺激されたよ。ユウキ、僕も頼むよ!」
「おう、任せておけ。お前を最強の魔剣士にでもしてやろう。」
そう言って親指を立てるユウキに3人は笑いあった。
それを見ていたバルトフェルドとノイントが顔を見合わせて、「ふっ」と口元を緩めた。
2人にもこう言う時代があったが、時間と肩書きは次第に溝を深めていった。
大人と言うものは、時に自身や感情よりも優先させる事がある。
しかし、目の前のやる気に満ちた青年たち見て、年甲斐もなく笑いあうのであった。




