上級魔法(2)
「未知なる深遠から賜りし怨嗟、紫炎の名の下に我に従えし魔の力を、時の狭間に道を開けば隔絶させ、終わりの炎が全てを爆ぜさせん。」
すると辺りが暗くなった。
アリサから膨大な魔力が放出されて上空に転移され続ける。
「くぅ!コントロールが・・むずかし・・」
ユウキは焦った。アリサからは膨大な魔力が次々に座標地点に送られているのが見えたからだ。
「アリサ!放出と転移を抑えるんだ!」
アリサは勝手に送られる魔力を何とか止めた。
しかし行き場を失った魔力がアリサを中心にして、突風となって吹き荒れる。
ザックとシンシアは突風に負けて修練場の壁まで飛ばされるが、上空を見ていたアトリアとバルトフェルドは即座に生徒と自分に魔法障壁を展開した。
そこで立体を描く魔法陣を中心にして、上空で魔力の収縮が始まった。
シューン・・・
ユウキとレナードは同時に無防備なアリサを庇うように覆いかぶさった。
次の瞬間、けたたましい炸裂音と共に空気が唸りをあげて振動した。
ドガァァァァァン!!!
修練場に貼られた結界からはピシッと言う音と共に亀裂が幾重にも広がっていく。
黒煙が修練場から上がり、余波で全員が地に伏していた。しかし魔法障壁のおかげで大事には至らなかった。
ユウキ、レナードとバルトフェルドが起き上がるが、皆呆然とした表情を浮かべたまま動かない、いや動けない。
「アリサ・・何故句を変えた?いや、句を変えて何故発動したんだ?」
アリサは魔力切れを起こして動けそうにない。ユウキが代わりに答えた。
「俺が先生の句に欠点があると踏んで考察していましたが、アリサはそれを聞いていたみたいで改善したんだと思います。
ただ結果は魔力をコントロールする技量が足りてなくて暴走しましたが。」
それを聞いていたアリサは小さい声で言った。
「ごめんなさい・・上級の魔力が・・・こんなに暴れるとは思わなくて・・」
アトリアは唖然とした。魔法は大昔に開発されて以来、記録に残る詠唱と結果を想像するだけで発動していた。
故に新たな魔法など増えておらず、既存の魔法も句を間違えれば発動せず、完成されていると考えられていた。
「君は上級魔法を一度見ただけで改善しようとしたと言うのか!?」
アリサは首を横に振った。
「わたしには魔法の真髄は読めません。それが出来るのはユウキだけです。」
一同はユウキを見た。
(この魔力のかけらもない青年が?彼が魔力を持ったら・・)
そこで異変に気がついた先生方が集まってきた。その中に学園長がいる。
「初日からやってくれますね、バルトフェルド先生。皆を保健室に!ユウキ君とバルトフェルド先生は学長室に。」
そう言うと学園長は両手を上空にかざして詠唱を始めた。早過ぎて何言ってるか分からない。
すると修練場に展開された結界が修復され、学園長に指で来るように促された。
そこでアリサが口を開いた。
「私も当事者です・・ただの魔力切れなので一緒に・・」
学園長は考えてから「良いでしょう。」と言った。
レナードが分からないが不安そうな顔をしている。
「学園長、レナードも良いですか?」
「ならば特待生3人は先生と一緒に来てください。」
こうして5人は学長室に向かった。
後に残されたのは破壊された修練場と、呆然とする先生とSクラスの生徒だった。