寮のアクシデント
次の日の朝、ユウキは起きるとクローゼットを開けて驚いた。そこには黒をベースとした気品漂う制服が保管されていた。
「おはようユウキ、クローゼットの前で固まったままどうしたの??」
レナードは若干寝癖がついて眠そうな目を擦りながらユウキに聞いた。そしてユウキの後ろからクローゼットを見て、レナードも固まってしまった。
先に口を開いたのはレナードだった。
「これって・・特待生用の制服じゃないの?部屋を間違ったかな??」
ユウキはレナードを見ると、しっかりと首を横に振った。
「寮長は部屋割りがもう決まっているって言ってた。つまり入寮した時には特待生用の制服が用意がされていたんだ。」
レナードは俯いたまま黙ってしまったため、ユウキが心配そうに聞いた。
「・・・レナード?」
するとガバッと顔を上げた。
レナードは満面の笑みでユウキの手を掴むとダンスを始めた。
「やった・・!僕たちは学園に認められたんだ!」
それを聞いてユウキはやっと納得が行った。
レナードは人に自分を認めさせることが出来た事が嬉しくて堪らないのだ。
ユウキも嬉しくないはずがない。不敵にニヤリと笑い返すと告げた。
「当たり前だろ?」
2人はそれから熱が冷めないまま、身なりを整えてソファーに腰を下ろした。
「まず僕たちがやる事は、着替えと手引きを熟読する事だね。」
そう言ってレナードは手引きをヒラヒラさせた。
「あぁ、この服を着るからには相応の覚悟が必要だ。頼むぜ相棒。」
相棒と言われてレナードは目をパチクリさせ、嬉しそうに呟いた。
「相棒か・・いいね!」
そして2人は制服に着替えると、手引きを熟読した。寮での規則はこんな感じだ。
・閉門は午後9時、基本は7時までに戻る事。
学園の事情でやむを得ない場合を除く。
・朝は5時に開門。
・廊下での魔法行使の禁止。
・寮内での闘争行為の禁止。
・午前6時と午後6時から2時間、食堂で食事を提供。
・武器は各自の部屋にて個人の責任で保管。
・扉は対象者の魔力感知で開閉される。
・中庭の広場は鍛錬場として良い。
・私生活を含めて制服を着用する事。
この手引きを見てユウキはヤバいと思った。扉の開閉の所だ。
「・・・レナード、ちょっと一緒に出て貰っていいか?」
レナードは訝しがると、ユウキについて行った。
2人は一緒に部屋を出ると、ユウキが扉に手をかざした。
全く反応なし。
「レナード・・やってみてくれ。」
頷いて扉に手をかざすと、カチャっと音がした。2人は顔を見合わせる。
「あはは〜、ヤバいね、ユウキ。」
2人は扉の前で笑いあうと、真顔になりユウキがボソッと言った。
「行くぞ!」
ダッシュで2人は寮長の部屋に向かった。
1階ロビー横の寮長室の前に着くとユウキはノックした。暫くして寮長が出てきた。
「昨日入寮したユウキ・ブレイクですが、扉の開閉について問題があります。」
そう言われ、ルイーゼはユウキを見ると驚いた。
「あら貴方、魔力が・・・。分かったわ、直ぐに対策を考えますので、それまでは同居者と一緒に行動しなさい。」
ユウキ達は礼を言うとその場を後にした。
(あの子は何故あれで学園の試験に特待で受かったのかしら?)
1つの疑問を胸にしまってルイーゼは部屋に戻って対策を考えた。
ユウキ達が一旦部屋に戻ると息を整えた。
「レナード悪いな。少し一緒に行動してくれ。」
レナードは気にした様子もなく、一息ついて紅茶を入れ始めた。
「うん、別に構わないよ。むしろちょっと嬉しいな。
なんせ学園に来るまでは対等に話をしてくれる友達もいなかったから。」
そう言えばレナードは貴族の子だった。やはり貴族は貴族で慣れない人だと辛い生活なのだろう。
話をする感じすごく優しいので、威圧的な態度をとる貴族の相手は疲れたのかもしれない。
「はは、それなら心配いらない。俺はお前の友達だ。何かあれば俺も真っ先に駆けつけるさ。」
そう言ってユウキは何かを思い出した。
駆けつける・・ん?
レナードを見た。レナードもユウキを見て紅茶を入れる手が止まる。
「「アリサ!!」」
2人はまたもダッシュで寮を出ると約束の場所、城門に向かって駆け抜けた。