試験報告
王都騎士団団長バルトフェルド・ガークスは長い廊下を歩いていた。
途中数名の学生が通りかかるが、端によって跪く。
それを右手を挙げて通り過ぎると、誰も通らない廊下を歩き続けて突き当たりに出た。
そこは何もなく、ただの壁があるように見える。
バルトフェルドは気にした様子もなく、その壁に手を添える。
するとバルトフェルドの魔力が壁に吸い上げられ、壁が水面のように揺れると扉が現れた。
バルトフェルドはノックをすると返事も待たずに扉を開けた。
中は執務室のようで、豪華な机と椅子や書棚がある。バルトフェルドは奥の椅子に座る人物に話しかけた。
「ノイント待たせたな。いや、ここでは学園長か。」
学園長と呼ばれた者は、見た目30台、銀髪の優しい感じを受ける一見普通の男である。
ただ一点、恐ろしいほど膨大な魔力量を別にして。
「遅れていないよ。私が呼び出したのだしね。
それで今年はどうだい?」
どうとは、王都学園の受験生のことである。
「ハッ!いつも通りさ。冴えねぇヒヨッコ集団さ。」
それを聞いてもノイントは何も言わず、笑みを浮かべたままバルトフェルドを見続ける。
「ったく、お前の情報網はどうなってるんだ?
あぁそうだよ、今年はヤバい奴がいる。しかも3人もだ。」
それを聞いても何も言わないので、バルトフェルドはソファーに腰掛けた。
「1人目はドール家の三男、血技と剣技の才能、覚悟が半端じゃない。
2人目はアリサという女の子だ。無詠唱で人外の魔力制御と威力を持っている。ストロングも使いやがった。」
それには流石にノイントが反応を示した。
「ほう、その子は黒の反応だろう?どの位持続した?」
バルトフェルドは顎に手を当てて答える。
「そう長くはなかったが、ナーズが瞬殺されたせいだ。
防御壁と併用で使ってたし、普通に魔術試験をクリアした。無詠唱でファイアボールを5個も同時に出してな。」
ノイントは嬉しそうに頷いた。
「うん素晴らしい、黒なら数秒で魔力切れを起こすから、ストロングの欠陥を改善していそうだ。
無詠唱とは人類の悲願だが直接見てみたいな。」
バルトフェルドはノイントがここまで人に興味を示したのは初めて見た。
「最後はユウキ・ブレイクだ。魔力が一切ない。
恐らく《点穴》を使える。だがあそこまでの深度は記録にない。」
ノイントは魔力がないという部分で酷く興醒めしたようだ。
「それは固有血技があるだけで、別に何もなくないかな?」
それを否定した。
「いや、あいつはまだ何かある。魔力検査で赤が出た。最初は魔法陣さえ浮かばない本当の無能だったがな。」
それを聞いてノイントの表情が晴れやかになると思ったが、逆に険しくなった。
「赤だと?魔法陣形は?」
「おれはそっちに詳しくないが、三重円が立体に織り成して小円が6個だ。一度だけ見た奴だ。」
ノイントは驚愕していた。その陣形はノイントの魔力量と同等かそれ以上を意味した。
測定器を作ったのはノイントだ。つまり自分より強大な魔力はノイントと同じ陣形になる。
「だが、それだけでは君は通さないだろう。何が気に入った?」
するとバルトフェルドが嬉しそうに答えた。
「魔力がねぇのに俺と対等にやり合ったんだよ。まぁ俺も魔法や固有血技は使ってないがな。
それに魔法を使わずに、視認できない速度で的壊して帰ってくるとかバカしか思いつかねぇよ!ハハハハハッ」
それを聞いてもノイントは納得いかなかった。
「固有血技が記録にない深度と言うのはどこで?」
「ナーズが持ってた正規軍用の騎士剣を砕きやがったんだよ。
他にもほれ、鎧の腰の所が若干変形しているだろう。これがあいつに合格を言い渡した理由さ。」
それを見てノイントは目を見開いた。
「馬鹿な。防護壁も張っていたのに、その鎧もオリハルコンを織り交ぜているんだぞ。」
バルトフェルドは頷く。
「その通りだ。だがもしここのオリハルコン比率が少なかったら?」
「ユウキ・ブレイクには、魔力的にその物の微小な強弱が見える?」
ノイントは自問するように答えた。
バルトフェルドは立ち上がりながら、ノイントに告げる。
「俺はそこから推測した。さて、組分けはどうする?」
するとノイントも立ち上がり、水晶に手をかざすと2、3やり取りをして言葉を切った。
「もう決まった。君は兼務でSクラスの担任をしたまえ。」
それにはバルトフェルドも驚いた。
「はぁ?俺は騎士団団長だぞ?」
ノイントは事もなげに言った。
「王の許可は取った。」
(今までの会話を王に横流ししてやがったな。あんな直ぐ回答できる訳がねぇ。)
バルトフェルドは表情を変えずに答えた。
「へいへい、精々兼務を頑張らせて頂きますよ。」
「そう言うな、最優先は騎士団団長だと仰られている。」
それを聞いてか聞かずか、バルトフェルドは片手を上げて部屋を後にした。
(あいつも変わっちまったなぁ)
バルトフェルドは誰も居ない廊下で、盛大に溜息を吐いた。