入学試験(5)
武器庫に戻るとアリサが満面の笑みで賞賛した。
「おめでとう!ユウキ!」
それに笑顔で答える。
もう一人寄ってくる人がいた。最初にユウキを擁護してくれた人だ。
「やぁおめでとう、素晴らしい手並みだったよ。僕はレナード・ドールよろしくね。」
そう言って手を差し出してきた彼は、金髪で優しい目をした青年だった。
その手を取るとユウキはお礼を言った。
「あの、門のところではありがとうございます。」
「いいってあの程度。次は僕の番かな。」
そう言って闘技場に向かった。
ナーズは対峙すると、右手の騎士剣をだらりと下げて油断なく構える。
それをみてアトリアは告げる。
「はじめ!」
ナーズは若干警戒していた。盾を前方に構えたまま間合いを図る。
しかし無意味とばかりに勝負は一瞬で決した。レナードが腰だめに剣を日本刀の抜刀術のように構える。
《ファストスラッシュ》
一気に跳躍すると去り際に一閃し、横腹を斬られたナーズは片膝を着く。
アトリアが焦って告げた。
「し、勝負あり!」
レナードは頭を下げて武器庫に戻ってきた。
「ユウキ君、君のファストブローを真似させてもらったよ。あれはいいね!」
ユウキは驚いた。ただ見ただけで自分用にアレンジした事もそうだが、ユウキの速度が見えていたのだ。
「凄い!俺が見えていたんだ。」
レナードは笑みを浮かべると、試験官からアリサが呼ばれた。
「アリサ、頑張って!」
アリサは手を挙げてそれに答えると、闘技場に向かった。
短剣を前方に構えると左手を添えた。ナーズは惨敗続きで、ここで一発威厳を取り戻したいところである。
そしてアトリアが告げる。
「はじめ!」
アリサは開始と同時に無詠唱で《真・ストロング》と《防御壁》を自前で重ね掛けした。
それには場が騒然とする。
なんせ詠唱などしていないのに、多重魔法陣が一気に展開されたのだから。
しかも一つはあまりにもクセが強すぎるストロングだ。グライスほどの威圧はなくとも、多少はナーズに届く。
「こ・・・これは!なんて奴だ!今年の受験生は化け物か!!」
そう言ってナーズは一歩下がってしまった。
アリサはそれを見るとゆっくり近く。
ナーズは恐怖しながらも声を上げて剣を構えた。これが彼の出せる精一杯の威勢であった。
「わ、わぁぁぁぁ!!」
何でもない縦切りに、アリサは右手を添えて防御壁を手に集約すると受け止めて、短剣で剣を弾き飛ばした。
すかさずナーズの首元に短剣を突きつけた。
「勝負あり!」
それを聞いてアリサは頭を下げると、武器庫に戻っていった。
「な、何なんだよ・・」
「大丈夫ですか?ナーズ。」
ナーズは顔が青ざめたまま「あぁ。」と答える。
アリサが武器庫に戻ってくるアリサ。皆唖然とした表情でアリサを見る。
トレードマークの栗毛のポニーテールが可愛く揺れているが、妙な目で見るものは誰も居なかった。
「アリサ、おめでとう!あれを使えるようになっていたんだね!」
アリサは両手を上げて答える。
「ええ、でもまだまだよ。師匠のそれとは全然領域が違うわ。」
レナードも賞賛を送る。
「はは、君の師匠は凄いね。おめでとう!」
「ありがとう、貴方の剣技も素晴らしかったわ。」
それを呆然と見る受験生。ピクニックにでも来たかのように会話する3人。次元の違いを感じさせていた。
この後は皆例年通りの試合が行われ、大凡60人程度が残った。
武器庫にナーズ達がやってくると次の試験を説明した。
「次は魔術試験だ。非常に壊れ難い標的に対して、200m離れた場所から攻撃して評価する。」