記憶覚醒と友人
朝日が窓から差し込み、ユウキはベッドから起き上がった。
ユウキの6歳の誕生日で、記憶が戻ると言われた日。
前世の記憶と知識は確かに戻ってきた。
しかし思っていたのとは少し違った。
例えるなら、今の自分が他人の撮影した映像をみて記憶した。と言うのがしっくりくる。
つまり、こう言う事である。
「忘れちゃいけない事もあるんだ・・・でもね!」
ゆえに6歳になった少年が取る行動はただ一つ。
ベッドから飛び起きたユウキは、ダッシュで扉を開けると階段を駆け下りて両親の元へ走った。
そして・・・
「お父さん、お母さん・・・おはよう!」
「おはよう、朝から元気ね。」
「おはよう、その元気が嬉しい。」
そして、二人揃って言った。
「「おめでとう、ユウキ」」
満面の笑みでユウキはそれに答えた。
もちろん地球の心残りは忘れていない。
だが、今は何もできずただ鍛錬を積む事を考えた。
6歳のユウキは6歳の優希でもであった。
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朝食を終え、ボストンは言った。
「よし、そろそろ村長のところへ行くぞ。夕方には戻る。」
「分かったわ。二人とも気をつけて行ってらっしゃい。私張り切っちゃうからね!」
リースはそういうと腕まくりをした。
「お母さん、行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい。無理をしたらダメよ?」
そう言い、ユウキとリースはハグをした。
ボストンもしようとしたがリースに押し返されていた。
(子供の前ではダメよ。今夜ゆっくりね?)
ガッツリ聞こえた。
麦畑に囲まれた農道を500mほど歩くと、二階建ての大きい建物が見えてきた。
すると別の農道から男の子と女の子がやってきた。
男の子は『ガラス』。村長の孫にあたり、スポーツ刈りで太り気味である。
女の子は『アリサ』。元気がトレードマークで、栗色の髪をポニーテールにした可愛らしい幼馴染。
アリサが声をかけてきた。
「ボストンさん、ユウキ、おはよう!」
「「おはよう!」」
挨拶を終えると、ガラスが聞いてきた。
「おいユウキ、これからあの岩壊すんだって?親父は硬すぎて無理だって言ってたぜ。」
そう言うと、2人は魔法を詠唱した。
「水の恵みをもたらさん。《ウォーターボール!》」
初級水魔法だ。生活用水などにも使える。
手から水球を出して遊び始めた。
(この子たちはユウキに魔力がないのを知ってこんな事を・・?)
少しムキになり、ボストンが注意しようとしたとき、ユウキが声をかけた。
「ガラス君、アリサ、僕も岩に一緒に行くから水遊びはまた今度ね!」
すると水球を麦畑に放り投げた。
ガラスの投げた水球はペチャっと落ちたが、アリサの水球は麦の上で弾けてキラキラと虹を作った。
「なんだ、それなら俺たちも後で行くな。」
そう言って立ち去ろうとすると、2人が言った。
「おっとそうだった、ユウキ!おめでとう!」
「私より先に6歳になるなんて・・おめでとうユウキ!」
「ありがとう!!」
そう言いながら2人は向き直り親指を立てた。
それを見てボストンは柔らかい声で言った。
「ユウキは良い友人を持ったな。」
笑みを浮かべてそれに答える。
「うん!いつも遊んでくれるし最高の友達たよ!
ガラス君は良く怒るけど、本当はすごく優しいんだ!」
そこで村長の家に向かい始めた。
途中ふと気になってボストンがユウキに聞いた。
「さっきウォーターボールで水遊びって言ってたけど、ユウキはどうしているんだ?
魔法を使えるのか?」
笑いながらユウキが答える。
「ふふっ、出ないよ。やってみたけど気配もなかった。
だけど僕には力と速さがあるからね。」
そう言うと、少し離れた場所にあるバケツを指差した。
「こうして思いっきり地面を蹴るんだ!そしてバケツの水をかける!」
するとユウキが消えた。
否、不意を突かれてボストンは目で追えなかった。
注視すると、地面を力強く素早く蹴っている。
そしてバケツを持ってボストンの目の前に来た。
驚くボストンを尻目にユウキは続けて言う。
「まだだよ!」
そう言うとボストンの背後に回って足にタッチした。
ボストンは曲がりなりにも上級剣術を扱える技量と動体視力がある。
上級剣術は王都の下級騎士クラスが扱える代物だ。
目で追えたがユウキはまだ6歳だ。
唖然としたボストンは一つの回答にたどり着いた。
(この異常な能力は魔力が関係ない素の力だ。12歳から入れる王都学院に行かせるか)
静かな決意を胸に、落石駆除に向かうのだった。
(まぁ、それまでは基礎鍛錬と実地訓練だな)