入学試験(2)
試験官ナーズが言った。
「よーし、受験資格さえない者はここで脱落だ。付いて来た者は続きを受けられる!
続いて魔力測定に移るから、中に入るぞー、付いて来い。」
そこでユウキは不安に駆られた。
肉体的な振い落しがあったのなら、魔力による振い落しがあってもおかしくない。
父は知らなかったのだろうか。
(いや、やってみなければ分からない・・)
一抹の不安を抱えて案内された部屋に入る。
「よし、魔力測定水晶について説明する。
この水晶は潜在的な魔力量を測定することができる。つまり今のお前らの魔力量は関係ない。」
それを聞いてもそもそも魔力がない自分には関係がないため、不安は変わらない。
「水晶に触れると魔法陣が展開される。
黒 > 紫 > 青 > 緑 > 白
この五段階で黒が最も多い魔力を有する。
一般的なのは緑だが、この試験で要求するのは青以上だ。」
(・・・絶望的じゃないか。)
「まずはお前からだ」と言われて前の人が進んでいく。
大体緑と青が半々だ。そして先ほど自分を擁護してくれた人の番が来た。彼は水晶に手を置くと瞑想した。
魔法陣が展開される・・色が変わり青、紫色に変わった。
「おー!流石だな。ドールの血筋は争えんか。合格の右側に行くと良い。」
次にアリサが呼ばれた。彼女は計り知れない潜在能力があると思っていた。
アリサが手を触れると、魔法陣は一気に造形され明確に真っ黒となった。
「・・君の出身は?」
それに笑顔で「サウスホープ!」と答えると、何も恥じる様子もなく右の通路に向かう。
そして最後に自分の番となった。
前に出ると、ナーズとアトリアはユウキを見てその気配を察した。
「お前は・・なるほど、取り敢えずやってみろ。」
絶望に苛まれながら、そっと水晶に手を置いた。
しかし、一向に何も起こらない。
そう、魔法陣さえ浮かび上がらないのだ。
暫くしてナーズとアトリアは見合わせると、ユウキに声をかけた。
「お前はよく頑張った。体力テストでも素晴らしかった。しかしこの先それでは付いて行けない。わか・・」
(俺がここで終わったら、全てが台無しになる!グライス、俺はお前の願いを守りたい!!)
そしてサウスホープを出る時の皆の顔を思い出していた。両親の不安と期待の顔、ガラスの決意した顔。
そして、グライスの寂しそうな顔を。
すると様子が変わった。
ユウキの周りに風が吹き始める。
そして徐々に瞳が真紅に変わっていく。
「ハァァァァァ!!おれは・・諦めない!ここで終わりたくない!!」
ユウキを中心にして突風が吹き荒れる。
1人の男が異変に気がついて入ってきた。
「な・・なんだこれは!」
突然水晶から魔法陣が展開された。放たれる魔法陣は白から緑、青、紫と変わり黒く変化した。
そして魔法陣は大きな円模様が3つ立体的に交差して行く。
あたりでは何が起きたか理解できず、ただただ魔法陣を見つめた。
そしてユウキが魔法陣を見て落ち着いて言った。
「すみません、力んでしまって。どちらの道を行けば良いですか?」
ナーズは答えに迷っていると、先ほど入ってきた男が述べた。
「右の道だ。進むと良い。」
そう言われて、ユウキは右の道を進んで行った。
ユウキは落ち着いて歩いていると、瞳は黒く戻っていった。
そして残された試験官ナーズとアトリアは呆然としていた。
「私は恐怖さえ感じました。それに魔力が・・・彼は一体・・」
すると男が言った。
「分からんが、合格に文句はない。ん?こ・・これは!」
水晶から出る魔法陣が見たこともない立体的な幾何学模様に変化していった。先ほどの大円の魔法陣が立体的に折り重なり、小さな魔法陣が6個出来ていた。
通常は魔力測定用の水晶から手を離すと、魔法陣は魔力供給がなくなるので消える。
しかしユウキの魔力測定はまだ終わっていなかった。しかもその色は黒から赤へと変化して行った。
「ははは、本物の化け物だな。こんな魔法陣と色は1人しか見たことない・・」
そう言いながら花火の残滓のように消えていく魔法陣を眺めていた。
試験官2人が我に帰ると、焦って片付けてから持ち場にもどった。