異世界の無能力者
ここは小さい農村の一角。
周りには民家がまばらにあり、一面畑が広がっている。
畑で耕す男に向かって、一人の少年が農具を抱えて走ってきた。
「お父さん!村長からクワを借りてきたよ!」
黒髪の少年は健康に育ち、今度6歳になろうとしていた。
その少年の名は『ユウキ・ブレイク』。
ブレイク家の一人っ子で、転生した優希だ。
「おーユウキ、良かったな!村長も鉄が少なくなっているのによく子供用のクワを貸してくれたな。」
父は『ボストン・ブレイク』。
身長はやや高く、よく目立つ赤毛である。
農家の他に上級剣術と中級魔法を扱えるため、農村周辺の警護もしている。
この世界では基本的に皆魔法が使える。
生まれつき魔力を持ち、大抵は生活用の初級魔法を使える。
「男手が減っているから、やる気があるならイイって!」
そう言ってユウキは早速耕し始めた。
慣れたもので大人用のクワでこれまでやっていたが、先日力が強すぎて壊してしまった。
普通の子供の筋力では無い。
少しすると家の方から声が聞こえた。
「二人とも、ご飯ができたわよー!」
母親である。名は『リース・ブレイク』。
優しい性格で、金髪を背中までストレートで伸ばし、整った顔立ちをしている。
「「いま行く(よー)!」」
作業を終えて家に戻った二人はテーブルについた。
そこにはパンと芋のスープがあった。
豪華ではないが、十分な食事である。
台所から来たリースは席に着いて全員で食事を始めた。
「お隣さんから頂いたお芋なのよ〜。いつも助かるわ。」
それを聞いてボストンが答える。
「あそこの芋はいつも良い出来だな。今度モロコシを持って行こうか。」
「僕もいく!」
父は笑顔をユウキに向けた。
「お前も明日で6歳だな。段々と成長するな。
村長から村はずれの落石除去を依頼されているんだ。
明日一緒にくるか?」
「うん!行く!」
それを聞いてリースが顔をしかめた。
「あなた・・・本当に連れて行くの?この子は・・」
ボストンは要領を得たように答える。
「あぁ、ユウキなら乗り越えられる。見えている子はもうユウキの特異体質には気がついている。」
これは魔力が全く無い事を指していた。
この世界で魔力が無いというのは異例で、それが原因で仲間外れにされたりする事を懸念していた。
「畑作業を見る限り、ユウキにも魔力の流れは見えているようだ。なら、ブレイクの血は必ず助けになる。」
よく分かっていないようにユウキが話に入る。
「モヤッとしたもの?みんな出ているけど自分のは見えないの?」
それを聞いてリースは手で顔を覆った。
「でもこのモヤモヤ面白いよね!お父さんがスプーンを持つとモヤモヤは手の方に動くし飽きないよ!」
それを聞いたリースは手を顔から離して目を見開き、ボストンはスプーンを落とした。
本来魔力の動きまでは見えない。
物体や生物から発する魔力が大きいか小さいか程度で、微量の差は判断つかない。
そしてボストンは決意を改めて言った。
「連れて行くけどいいね?」
リースは静かに頷いた。そして笑顔になり言った。
「帰ったらお誕生会とお祝いね!忙しくなるわ!」
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その日の夜、ユウキはなかなか寝付けなかった。
(なんだろう・・・怖いような懐かしいような)
不安なのか、興奮なのかはユウキにも分からない。
しかし明日の誕生日と落石除却を思いながら、ユウキは静かにその目を閉じた。