事故と友
会談を終えた四人は集落を歩いていた。
「ところでグライス、数年前に村外れに鉄鉱石混じりの大岩が落ちてきたんだけど、あれゴブリンで良いよね?」
ユウキは世間話でもするように聞くが、グライスは難しい顔をした。
「確かにそうだが妙なことが起きた。あの岩を運搬中に魔法が行使されたと。故に戦力増強を急務にした。
ここから離れたところにいくつも似たような集落があり、洞窟に精錬所を設けている。」
それを聞いて皆驚いた。
「総力戦だったら僕達死んでたね・・」
グライスは思い出したようにアリサに問いかけた。
「そんな事はない。それより無茶苦茶な魔法を使っていた女子は大丈夫か?」
「私は女子じゃないわ!アリサよ!全然ダメだったわ!!未熟すぎて涙が出てくる・・ありがとう心配してくれて。」
グライスは戦士に敬意を評して、彼なりの無骨な笑顔を向ける。
ユウキはふと戦いの最中に思ったことを聞いた。
「グライス、《ストロング》は欠点だらけだ。使ってみて。」
「なに?」と訝しんで《ストロング》を詠唱する。
「我が身の強靭な肉体を刃と化せ。求める者はその身を守らんとす。《ストロング!》
するとグライスから凄まじい魔力が溢れ出した。それは暴力的なまでに周囲を圧倒した。
「ぐっ・・これだ!あの時の・・凄まじい!」
そう言いながらボストンとガルシアは片膝をついて冷や汗をかく。
ユウキはどこ吹く風と言った調子で言った。
「ダメだね、魔力が暴走しちゃってる。
一章で一気に魔力が増幅して、二章で体内に吸収されているんだ。
だけど吸収より増幅する魔力量が圧倒的に多いよ。」
それを聞いて皆唖然とし、ガルシアが突っ込んだ。
「イヤイヤイヤ、魔法ってのはそもそも王都学園の魔術部でも解き明かしていない不思議現象だぞ。
そも詠唱すると魔法が出る程度しか・・」
しかしユウキには聞こえていない。
「詠唱が魔力の流れだとすると、恐らく三章必要で飽和状態から安定させる句が必要なはず。
詠唱なんて捨てて魔力だけに集中して二章目の吸収後に増幅量を抑えてるか、吸収量を上げるんだ!」
「詠唱を捨てる?うーむこうか?」
すると暴力的な威圧は静かな威圧に変化した。
例えるなら、危険な感じから初めから戦う気が失せる感じに変わった!
「おお?なんだこれは!魔力を殆ど食わん!!」
「紛らわしいから《真・ストロング》って言おっか。
魔力の増幅を最初のままに、吸収効率を上げるともっと凄いと思うけど、これは短期決戦用だね。
こっちは《ストロング・極》かな。」
それを聞いてグライスは試したくなった。腰溜めに構えると精神統一した。
時はダルカス大森林の討滅戦、理由もなく同胞を殺していく人族、それを煽るように笑う指揮官の姿。
グライスはイメージする予定だったが、感情が爆発してしまった。
「むー・・・ガアァァァァァ!!ァァァアアアーーー!!!」
辺り一面突風が吹きすさむ。近くにあった家屋が倒れてしまうほどだ。
彼の怒りの奔流は治ろうとしない。周りではユウキを除く3人とゴブリン達も腰を抜かしていた。
ユウキが声を張り上げた。
「グライス!」
グライスはハッと一瞬我に帰り制御を試みたが上手くいかない。
「ガアァァ・・やめろ・・ソイツはもう動けない・・・ユウキ?何処だ?・・指揮はヤツだ!」
ユウキはグライスの魔力が著しく吹き出す部分をそっと撫でた。
すると暴れていた魔力が落ち着き出し、グライスの中に無駄なく吸収されていく。
「グゴガガガ・・・」
(グライス・・ごめんね、調子に乗っちゃって・・)
ユウキは自分に怒りを覚えた。戦友を危険な目に合わせたことに。
ユウキからも風が流れていた。真紅の瞳が浮かんでいた。
「グライス!!」
グライスは「死ネェ!同胞ヲ、家ヲ返セー!!」と言いながらユウキを殴ろうとした。
ユウキは内側から外側にいなした。
そのまま飛び上がり、グライスの頭を思いっきり引っ叩くとガジャーン!!と音が響いて《ストロング》の効果が切れる。
グライスは魔力の暴走が途切れると、正気に戻った。
ユウキは真紅の瞳で柔らかく微笑んだ。
良かった。と言いながら小柄な体でグライスに抱きついた。
そしてユウキは涙を流しながら、グライスを見て言った。
「辛かったんだね・・同胞を、家を無下に焼かれることが許せなかったんだね・・」
誰もが何も言えず、動けなかった。
グライスがそっとユウキを抱きしめ返した。
「すまぬ、もっと守れるほど強くなる。親愛なる友に感謝する。」
ユウキは、あぁこの人も一緒だったんだと悟った。
この瞬間、ユウキとグライスは戦友から親友になった。
いつしかユウキの瞳は黒く戻っていた。