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最後の扉

 ゲートをくぐり抜けた先は円形状の草原がどこまでも広がる場所に出た。

 ルインとリンが草原の切れ目まで小走りで向かうと、かがみ込んでヒソヒソと話しをしたかと思えば揃ってプルルッと小刻みに震え、小走りで帰ってきた。


「…落ちたら死ぬ」

「ヤバイやばい!ボクが石を落とした音が消えた!」

「何をしているんだよ。景色を見たらわかるさ」


 崖の下はどこまでも青い海が広がり、高台にあるにも関わらず陸地や島は見当たらなかった。

 俺はすぐに周囲を探索すると、一ヵ所だけ魔力に違和感を感じる部分を発見した。


「あれがそうか」

「流石の眼だな。あれは魔王城の裏にあるのと同じ形をしている」


 カイラスが感心したように言うと、指で示した方角にある物の説明を始めた。

 それは扉と言うより、岩石を重ね合わせた石垣に近い物だった。パッと見た限りでは苔むしていて、自然と一体化しているから何かがある事に気づきもしない。


「隠ぺいね…」

「見つけられては困るけど、干渉に必要な扉ってことだね」


 石垣に近づくと、カイラスは魔力を流し込んだ。

 すると、僅かだがカイラスの魔力が小さく栓の抜けた水のように渦を巻いて消えていった。


「ふむ、どうなっているのだ?」


 カイラスは渦に気が付いた様子もなく調査を続けている。俺はフェニキアを見ると、彼女もあまり違和感を感じた様子はなかった。


「あぁ《真紅の瞳》だから分かるのか。そこに魔力の穴があるぞ」


 俺の手が栓の部分に触れた瞬間、石垣が波紋のように揺れて漆黒の空間が発生した。

 その光景に思わず友の顔を見ると、互いに目が合い頷いていた。

 これを俺たちは見たことがある。


「学長室の出入り口ね」

「ボクたちを騙していただけじゃないね」

「あぁ、だが学長室の扉はノイント学園長が製作に関わっていない可能性もある」

「《波長干渉》の始祖、ノーザス・バレルね」

「彼の文献は少ない。トージの時代にどこまで研究を進めて魔法を開発していたのか…」


 だがここで議論しても詮無い事だった。

 カイラスはそれよりも、目の前の事象に興味があった。


「お前の眼にはどう見えているのだ」

「魔力ならなんでも」


 そこで女性陣が突然、胸部を覆い隠すように手を当て睨みつけてきた。


「ユウキ…もしかして……」

「えっ?見えないよ?!服なんか透けて見えないよ!」

「魔力の動きから輪郭がみえるんじゃないの?ボクを見てよ、ほーらほーら」

「見えません!フェニキアさん?何であなたも?」


 フェニキアは赤龍だ。

 彼女には俺の見る世界が…


「私には理解できませんわ。だって《点穴》と合わせて初めて手にした力ですもの」

「あっ…隠さなくても見えないから大丈夫だよ…集中しなければ」

「「なんですって!?」」


 アリサが叩いてくるのでそれを躱すと、カイラスは溜息を吐いて制止してした。


「遠足じゃないんだ。早くしてくれ」

「…こうでもしないとマトモじゃいられないのさ」

「弱いな」

「人だからね」


 さて、改めて見るとこれが入り口だろうか?

 しかし何かを忘れている気がする。そう感じつつゲートに触れようとした瞬間…


 ダンッ!


 あまりに強い衝撃は周囲の大地に亀裂を入れ、全員が巻き込まれないように飛び退いた。


 大斧による一撃。


「オーギス…さん?」

「うそ…うそでしょ!」

「お前たちはこれ以上は進めない。守護者を倒し進むのだ」


 一番困惑していたのはルインだ。

 それも当然。幼少期から守っていた人が…


「青龍…」


 フェニキアが周囲に殺気を振りまいた。


「改めて久しいな赤龍。女に転生はさすがに笑ったぞ」

「かはっ!」


 フェニキアが突然喉を押さえて血を噴き出した。


「あなたはいつもそう…一人で突っ走って話も聞かずに暴力に訴えて」


 カイラスは言葉を遮るように、ゲートを親指で指してフェニキアに問いかけた。


「赤龍、行って良いか?」

「どうぞご随意に。目的は終焉の終わりですので、青龍を倒しても終わりませんわ」

「そうか、任せたぞ」


 トンッ


「ちょっ!一人で戦わせる気か?!」


 カイラスを止めようと声をかけたが、既に魔血衆と共にゲートへと向かっていた。


 キンッ!

 キンッ!

 キンッ!


 数回、何かが弾けるような音を発しながらカイラス達はゲートを入って行った。


「何をしているのです!あなた達も早く行きなさい!」

「くっ!フェニキア、良いんだな!?」

「私を誰だと思ってるの!」


 全員に視線を向けると互いに頷き合った。


「行くぞ、グライス!ザック!みんな!」

「「おう!」」


 掛け声と共に全力でゲートへ走り出すと、魔力の壁が目の前に生じた。


(これがさっきの音の正体か!)


「レナード!正面だ!」

「分かった!」


 《光の翼》によってオーギスの斬撃を弾き飛ばすと、その足で一気にゲートまで駆け抜けた。



 駆け抜けた先は何度か見たことのある殺風景な場所。

 何もない荒野だった。


 振返りゲートを見ると、徐々にその入り口が小さくなっているのが分かった。


「ユウキ!ルインが居ないわ!!」

「なんだって!?」


 俺は急いでゲートに向かって声を張り上げた。


「ルイン!早く来い!」

「大丈夫、彼とは話さないといけない事があるから」

「ルイン!」


 くそっ!


「オーギスさん何でだよ!」


 ルインはオーギスによって荒野の鵙から守れらた事を知り、とても近い…本当に心の中で近い存在となっていたんだ!

 それが青龍で…最後の敵対者だったなんて冗談にもならない!


「ゲートは閉じた、進むほかあるまい」


 合理的なカイラスの考え方に肩をすくめ、グライスはカイラスに時間が必要だと訴えた。


「魔王、人族は気持ちの整理が早い方じゃない。少し時間が要る」

「そうなのか?」


 グライスに言われて小首をかしげるカイラスを見て思った。

 やはり魔族とは大事な所で何かが違うと感じてしまった…


「あれ?ソフィアも居ないぞ!」

「まじか…あのシスコン」



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