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神聖の地へ…(2)

 ソフィアの一言に場が静まり返ると、雰囲気を察して水晶から中継していたダルメシア王が取り繕った。


「んんっ!では早々に出立するとして誰が行くかだが…魔族は行くのか?」

「俺と魔血衆でザッハークを撃つ。残った魔族は土地を貸してもらえるとありがたい」

「しかし…魔王が不在で問題が生じないか?」

「先ほどの通り《女王蜂の楽園》の効果は離れていても十二分に発揮される」


 確かに固有血技で首輪をつける事ができるだろう。

 だがそれは応急的な対策であって、恒久的に魔族を受け入れる対策にはならない。


 そんな事を考えているとカイラスは苦笑いを浮かべてこう言った。


「いつの時代か平穏な時の中で魔族は変わり、人族は魔族を受け入れてくれる事を信じよう」

「そうだな…」


 どんなに綺麗事を述べても根本の考え方が異なれば争いも起こってしまう。

 それが摩擦となって大きなうねりにならないように今は統治するしかないのだ。


 カイラスは再び魔力を強めると、残った全ての魔族に命令を発した。


『俺と魔血衆は敵である神を撃つ。人族との不和、殺戮や強盗の類を禁じ、平穏と安寧を求めこの豊穣の地にそれを望む事を命じる』


 新たなる命令が下され、魔族は一斉に片膝をつき忠誠を尽くした。


(凄い…)


 これが魔王。

 これが…カイラス。


 世界で初めて魔族と言う個の集団をまとめ上げた男の力だ。

 今更ながらに凄まじさを感じずにはいられなかった。


『この命令が願いに変わる事を…俺は望む』

「「「ハッ!」」」


 俺は何も考えず、ただ自然と手と手を合わせて叩いていた。


 パチパチパチ……


 レナード、アリサ、ルインもそれに続き、やがては大きな喝采へと変わっていった。

 そして静けさを取り戻すと、再び水晶からダルメシア王の声が響き渡った。


「そのためにも『ゼロの盤上』を止める必要がある。三国協定より人族の遠征者を決定した。防衛や救援も加味して少数精鋭とする」


 王から発せられた人選は皆が納得するものであった。

 この人魔戦争の功労者ともいうべき人物であり、これからの激戦に耐えられる者でなくてはならない。


 冒険者ギルド長オーギス

 ユウキ=ブレイク

 レナード=ドール

 アリサ=マルス

 ルイン=エミナス

 フェニキア=ゾディアック


「待ってください!お姉様が行くなら私も行きますわ!」

「ソフィア…流石に今回は無理ですわ。お下がりなさい」

「いいえ下がりません!だって私は…フェニキアの影武者ですもの!」


 ソフィアは昔からこうである。

 少々硬い所があって、こうと言っては中々考えを改める事はなかった。


 幼少期の事、フェニキアが使っていたこの世に二つとない特注の人形があった。


 手に入らないと分かったソフィアはどうしたか。


 自分一人で職人を見つけ出し、瓜二つの人形を仕入れたのだった。

 流石にあの時は、お父様と共に驚いたものだが…


 今回もダメだと言ったら、隠れてついてくるに違いない。

 そうなると逆に守るのも難しい。


「はぁ…仕方ありませんわ。ただし!絶対に私の側を離れない事!」

「はぁい」


 何という間の抜けた返事だろうか…

 しかしそれがソフィアの美点でもあるので無下にできない。


 だがソフィアの他にも異を唱える者がいた。


「俺達も勝手について行くぞ!」

「グライス!願ってもないよ!」


 俺はゴブリン達の申し出に喜んで手を取り合った。

 なんて言うか、グライスとは良き友であり、良き父でもあるのだ。


「何だよ、仕方ねぇなぁユウキは」


 父さん…

 グライスが居てくれて本当に良かった……


「ユウキ様、我々も末席に」


 ダンゾウの一言に俺は大きく首を振った。

「なぜ!」

「末席なんてダメだ。横じゃないと」


 ー!!


「…あり難き」

「ユウキ様ありがとー!」


 リンが喜んで抱き着いてくると、慌ててボブとルインが引きはがしてきた。

 後ろではボブの「無礼だぞ!」と言う諫める声が聞こえてくるが、それを横目で見るカイラスは少し遠い目をして見ているような気がした。


 そして人選から外れたバルトフェルド団長が檄を飛ばしてくれた。


「お前に教えた全てを叩きこんで来い!」

「はい!」

「俺は騎士団の人間だ、王都を護る事が責務。俺の分も…頼んだぞ」

「「はい!」」


 最期は4人で大きく返事をするとバルトフェルドは頷き、統率すべき部下たちの元へと戻って行った。

 彼から学んだことは多く思う所もあるのだろう。


 だから彼の分まで正しに行こう。


「では残った者達は復興を!頼むぞ、勇者たちよ!」


 ダルメシア王から勇者と言う言葉を聞いて、俺は苦笑いを浮かべてしまった。


「師匠!」

「ザック!凄かったよ、まさか魔血衆最強のミルキーを倒すなんて!」

「ははっ、師匠の技とこの斧が無ければ…」


 それは俺が戦闘中に投げた大斧シュレッケンだ。

 イビルウェポンは特殊な魔力で自我を持っており、とてもそのままでは持つことも出来ないから真紅のヴェールでコーティングして渡した。


…だが、その保護はもう解けている。


「ザック、気がついているか?」

「何の事で?」

「そいつはお前の《冥断》を認めて所有者として認識している」

「ハッ!」


ザックはそう言われてシュレッケンを握り直すと、静かに魔力を流し始めた。

その流れに無駄はなく、流れる水のように美しく漂っていた。それを見た俺はザック達なら背を預けられると感じて手を差し出した。


「行こうか」

「えっ?俺たちも良いのですか?」

「自分の身を守れる強さがあれば。王も俺の人選なら文句はないさ」

「それなら…」


ザックは戸惑いながらも俺の手を受け取ると、一気に引っ張ると西側を指差した。


「わたたっ!し、師匠?!」

「よーし、今度は世界の果てだな!」

「「おう(あぁ)」」


 目的地は聖都西側の孤島。

 俺は転移魔法陣を構築した。


 幾重にも折り重なる幾何学模様が時間をかけて構築されていく。

 その大きさは4階建てのビルほどもあろうかと言う巨大さだ。


「ユウキ、右側の部分が短縮できますわ」

「頼む。人数が多くて構築に手いっぱいだ」

「ふふっ。お任せあれ」


 フェニキアが俺の魔法陣を上書きして更に別の場所に派生させていく。


「さぁ出来ましたわ」


 完成した魔法陣から炎が吹きあがり、一瞬にして光のゲートが構築された。


「右はゾディアック帝国、左は聖都サンクチュアリ、後ろは神無砦」

「かたじけない。ユウキ、こちらは任されよ」


 槍を片手に大きく上げたレクサスが一番に神無砦の魔法陣をくぐった。

 それを見た他の者たちも戦々恐々とした様子で徐々に転移していく。


 最後の一人まで見届けた俺達は、死地へと繰り出すゲートへと歩みを寄せる。


 西の孤島。

 それは始まりの地であり、終わりの地でもあった。



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