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神聖の地へ…(1)

(……ハッ!)


 ふとして周囲を見渡すと、誰もが自分を見ている。

 いや、正確には自分たちだろうか。


 魔王カイラスと手を取った瞬間、壮大なスケールの時空間が織りなす光景を瞼の裏に見たのだ。

 それは現実に起こったことであって、カイラスを通じて神々の記憶と現在に干渉したのだろうか。


(分からない…けど、分からない事をいま知った!)


 終戦宣言と共に俺達へと駆け寄るアリサたちを見て、カイラスはその手を離し静かにそこから離れた。


 だが俺だけではない。

 カイラスにもまた大切な者達がいる。


「カイラス様…」

「ハウレストよ、よくやってくれた。お前の単独行動は大いに戦局を変えるに至った」

「そないな事、うちはリザードマンを侮って……」

「我らが種族は最強種だ。当たり前じゃないか、ハッハッハ!」

「あんたの眼、怖かったんよ」


 その一言にレクサスは目をつむり少し考えこんだかと思うと、薄目を開けてハウレストをとらえた。


「…それほどまでに、お主は強かった」

「ハウレストも良い経験をしたようだ。感謝する」


 カイラスはそれだけ言うとミミへと視線を向けた。

 ミミはどこかバツの悪そうな感じに視線を泳がせているが…カイラスはそんな事お構いなしにと声をかけた。


「大儀であった。お前は誰よりも早く呪縛から解き放たれ、俺…俺達を正しき道へと進む道しるべとなった」

「そんなこと!ミミは…ミミはたくさんの同胞を殺した…それは罪だよ!」

「そないな事あらへん。言うたらあかんと思うんやけど…うちら、悪なんよ」

「ふっ…お前よりコルモスやガーミランの方がよほど殺していよう。俺たちはそういう場所に生まれたのだ。導き切れなかった俺の責任だ」


 !?


 ミミとハウレストは驚き、そして互いに顔を見た。


 それはなぜか?

 単純な事でカイラスが笑った所を見たことが無かったからだ。

 それほどまでにこの戦いが彼に与えた影響は大きかった。


「ガーミランは死した。これは取り返しがつかぬ損失だ」

「…あの、ごめんなさい!」


 謝ったのはアリサだ。

 彼女はガーミランを止めると言う選択肢が取れず、殺してしまった事に対して謝罪をした。

 だが、謝ってほしくてそんな事を言ったのではない。


「よい。最前線で命を賭した戦った者に正邪を問うべきではない。戦後の復興とは治安の戦いでもあるから言うたまでだ」

「そうだよ。ミミもレナードを殺す所だったしね。返り討ちだよ…あはははっ」


 そう、戦後の復興も大事だがこのままではこの世界が神々の手によって崩壊してしまう。

 それを阻止するためにトージとナルシッサは俺へとバトンを繋げた。


 だから戦う。

 もう、この事実から逃げない。


「…みんな、聴いてほしいことがあるんだ」


 俺の一言に皆が振り向くと、各国の偉い人達も集まりだしていた。


「その話、水晶で共有した方がよいだろう」


 騎士団長バルトフェルドがそう言うと、水晶から三国間の中継機となって各首脳へと映像が送り届けられた。


 すると水晶からダルメシア王の声が周囲に響き渡る。


「皆の者、大変大儀であった。それと魔王カイラスよ」

「あ!戦犯とかないですから!本当に…」

「分かっておるから安心しなさい。さて魔族をこのまま放置してもよいのか?」


「構わぬ。俺の《女王蜂の楽園》の効果を強くしたから、強盗や殺人などを無作為に起こさないであろう」

「ではこの中継が終わった後、各国は魔族を開放すると言う方向でよいかの」

「ふん、帝国は元々実力主義だ。一向にかまわん」

「聖都も罪を犯すなら教会で根気強く説法を説くつもりじゃった」


 各国対応は違えど、命を刈り取るという選択肢は避けているみたいでホッとした。

 正直に言うと憎しみが法の許容力を超えたら…と思うとゾッとする。


 俺自身も父さんを殺されて全部を巻き込んででも燃やし尽くしたい…全部をぶち壊したいって思っているさ!

 でも…けれども、憎しみを募らせてもこの世界は崩壊の一途を辿るだけだ。


 神アヴィスターと邪神ザッハークの計画『ゼロの盤上』を止めなければ。

 俺は周囲の視線が自らに集まっていることにドギマギしながらも、深呼吸をして大きく息を吐いた。


「それじゃ、この世界の成り立ちと…」

「「そこから!?」」


 全員からいきなり突っ込まれタジタジになると、皆が笑って話を促した。


「ごめん…俺は真龍の子。この世界の創成期に産み落とされた4柱のうち赤龍の血を受け継ぐ者だ」


 これにザワザワとしたどよめきが起き、それは波を打つように大きく広がっていく。

 ある者は納得したように頷き、俺を知らぬ者は眉根を潜めた。


 喧騒も豊かになり困り果てていると、事態を収拾してくれたのは一人の男だった。


 ガンッ!


「おいお前ら!雑談ならスピーチが終わってからにしやがれ!!」


 ギルド長オーギスだ。

 彼の声に威圧が含まれており、不思議と皆が口をつぐんだ。


 俺は感謝して一瞥すると、何やらフェニキアがとても嬉しそうに微笑んでいるが…

 それは子供を見守る母の瞳に近かった気がする。


 そして先ほど見た光景と記憶の残滓を説明した。

 魔族であろうと、人族であろうと誰もが半信半疑と言った様子で聞いていた。

 だが、融和のカーテンや先ほどのカイラスの状態から裏付けされ否定できる者はいなかった。



「……これが俺の知る情報だ。神々を撃たなくては世界が終焉を迎える」

「なるほどな。ザッハークの介入の仕方とか納得の行く事がある」


 魔族側への介入もやはり似たようなものだったようだ。

 どうにも二人の神は各々で動いているようだった。


「それで神々の世界に行くための入り口、どっちに行くんだ?」


 オーギスは先を促すようにつづけた。


「神が相手なら大勢で行っても死ぬだけだ。人選して精鋭で行った方がいいな」

「俺が使っていた魔王城の裏にあるザッハークの出入り口は使えない。奴が呼び出した時だけ行き来できるようだった」

「それじゃもう一つは…聖都の西側、ノルアカ海に浮かぶ小島だが…」

「あそこには青龍が居ますわ」


 フェニキアは珍しく忌々しそうに親指を噛んでいた。

 どうにもフェニキア…いや、赤龍と青龍は相性が悪い様だ。


 まぁ先ほど見た記憶で大体想像はつくがな。

 仲よくしようとしたら青龍が吹き飛ばした訳だから、因縁の一つでもあるだろう。


「お姉さま大丈夫ですわ。お姉さまなら何でも服従させられますわ!」

「ソフィア…流石に青龍はそう簡単ではありませんの。青龍だけ刀次郎の意見を聞かず破壊神として全うしているのですから」

「うぁ…頭硬すぎ」



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