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破壊神:真龍のうぶごえ

 とても生命が生存できないような創世記の星。


 噴煙を上げる怒れる山々。

 裂けた大地を流れる超高温の溶岩。


 だが、そんな過酷な星で生まれ落ちた命がある。


 灼熱のマグマが小さな爆発を繰り返して、噴煙が一段と高く上がる頃にそれは起きたのだ。


 一際大きく膨れ上がったマグマから覗き見る眼光。

 それは外界を見ては泳ぎを繰り返す。


 マグマに瞳?

 なぜそんな所に…ありえない。


 だが彼にとっては造作の無いことだった。

 そしてマグマから現れる神々の使いが産声をあげたのだ。


「クアアアアアァァァァ!!」


 その生まれた者の名は…赤龍。


 生後間もなくドロドロの溶岩沐浴を堪能した赤龍は、身体に付着した不要な岩石を吹き飛ばすように翼から一気に排熱した。

 するとマグマが舞い散り、嵐のような強風によって四散していく。


 視界に入る全ての物を暴力によって削り取り、山々を破壊。

 それは当たり前の事であって、なぜそのような行動をしているのかさえも考えも及ばない。



 とある場所では分厚い大気の雲が陽光を隠し、そのせいで極寒の地へとなり果てていた。


 そんな場所でもやはり産まれた命がある。

 何千年とかけて積層された雪と氷の大地に、小さな裂け目…クレパスがあった。


 そのクレパスがわずかに振動したかと思うと、生命の息吹が上がる。


「グアアアアアァァァ!」


 小さなクレパスは一気に数百km先まで広がり、一つの巨大な氷河の大地は真っ二つになり誕生した。


 その生まれた者の名は…青龍。


 鋭い眼光は凍てつく氷塊を破壊し、その勢いで永遠と続く氷雪を壊し続けた。



 とある所では光の届かぬ静かなる洞窟。

 誰にも浸食されることのない静寂を破壊する者が産まれた。


「グオオオオオオォォ!」


 その生まれた者の名は…黒龍。


 かの者の産声で天盤が崩落し、マグマが表面から固まって出来た巨大な洞窟を容易く破壊してしまった。


 天井から降り注ぐ岩盤を黒龍は睨みつけ、ふっ…と吐息を吐いた。

 それが遥か彼方にある地表へと到達し、生後10秒で初めての御来光を拝む。



 とある所では風速200km/hの烈風により巨岩が小石に削り取られ、数日でその地形を変状させる過酷な地があった。


 削り削られ、あと少しでこの巨岩も崩落しようかと言う所で僅かなヒビが入った…

 このヒビが激変を促す事になる。


 ピシピシッ…


「グゥルラァァァァ!」


 その生まれた者の名は…光龍。


 目も開けられぬ烈風の中で、鎌首を天高く伸ばして一気に頭を振り下ろした。


「くしゅん!…………グル?」


 ただ…それだけだった。

 ただそれだけだったはずなのだが、産まれて初めてのクシャミは風速200km/hの烈風を止めてしまった…


 ピタリと空気の循環が止まり、荒れ狂う雲は散らすように霧散していく。

 それに満足し、光龍は大自然が作り出した彫刻の数々を一つ一つ丁寧に破壊して行ったのだった。



 この時は互いの存在をまだ知り得ない。

 四体の真龍は考える事もせず、ただ破壊の限りを尽くした真龍の奇行はこの先何年も続いた。


 だが起こるべくして起きるかな…

 二体の真龍が互いを察知して出会ってしまったのだ。


 当然の如く本能が破壊を求めた。

 相対したのは…光龍と赤龍。


「クアアァァァ…!」

「グゥルラァァ…!」


 二体は動かない。

 だが周囲の大地から水蒸気が吹き出し、上昇気流によって嵐が吹き荒れた。


 何故動かないのか?簡単な話だ。

 動かなくても戦いは既に始まっているからだ。


 光龍は気流を操作して見えない風の槍を赤龍に当て続けていた。

 相対して赤龍は底なしに周辺温度を上昇させている。


 風の槍が赤龍の目前で弾かれるのを見て、光龍は産まれて初めて焦りという感情を覚えた。

 そんな光龍を見て、赤龍もまた不思議な感覚を覚えていた。


 僅かに上がる口角。

 それは愉悦。


 自らを脅かす存在が自らに恐怖した瞬間、本能が対象の破壊を確信した。

 赤龍は翼を大きく開き、眼前の光龍を跡形もなく破壊せんと内なる力を翼から放出した。


 蒸発した大気中の水分で虹を作り出し、後光のようにその御身を曝した瞬間だった。


 不意を突かれた。

 光龍は赤龍を……抱きしめた!


 突然の事に目を見開いた赤龍は、何が起きたのか分からずパニックに陥った。


 思考が廻らない。

 この行動の意味が全く理解できない。


 だが…

 心地良い……


 生まれて初めての抱擁だった。

 今までの行動の全てが無に帰し、力を出す事さえバカバカしく思えてきてしまう。


「クアァァ…」

「グルゥゥ…」


 二体の真龍は破壊行為を止めて静かに移動を始めた。


 あれから数百年。

 再び、あの惨劇が起きてしまった。


 小さな星で強大な力を持つ者同士、いつかは出会ってしまうのも致し方ない事なのかもしれない。


 だが前回の赤龍と光龍の時のようにはいかなかった。

 閉ざされた大地から顕現せし青龍は、捕捉対象に向けて問答無用で体当たりを仕掛けた。


「クアッ!?」


 赤龍は青龍の体当たりで10kmもの距離を飛ばされると、そびえ立つ山脈に大穴を開けてやっと停止した。


 不意を突かれた赤龍は相手が光龍ではないと気付き、大地を蹴り上げ高速で青龍を抱きしめた。


 こうする事で分かり合える事を赤龍は知っていたから。

 本人の気持ちは抱擁なのだが、やっている事はジャンボジェットでラグビーをしているような物だ。


 しかし悲しいかな…

 植え付けられた本能に対する耐性は、若干の個体差があったのだ。


 赤龍の抱擁の意味を理解しないまま、青龍は両の拳を握りしめた。

 そしてそれを一気に赤龍の背中へと叩きつけたのだ。


 ズガガガガガガンッ!


 星が揺らぐほどの大地震と共に周囲の山々からマグマが吹き荒れ、隕石が衝突したかのようなクレーターをこの地に残した。


 何がいけなかったのか?

 なぜ青龍は抱擁を受け入れないのか?


 それが分かる間もなく青龍はその場を飛び去ってしまった。

 赤龍は特にダメージを受けておらず、青龍が飛び去った方角を眺めてからゆっくりと振り返った。


 似たような感覚…誰かが見ている。

 暗闇の洞穴に居たのは黒龍であり一部始終を観察していたのだが、赤龍が困った顔をしているのを見て静かに駆け寄り背中に触れた。


 それは先ほど青龍に打たれた場所で、羽毛が散り散りになっていたのだ。

 一見するとそれは痛々しいようにも見えた。


 黒龍の事をそっと抱擁すると、互いに別々の方向へと動き出した。


 言葉もない原始的なコミュニケーションだ。

 ちょっと山が吹き飛び大地に巨大なクレーターが出来たりするが、この時期の星にはよくある事だった。




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