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ジアスの誕生(1)

 何もない荒野の地…

 ここは数多ある世界の、数多ある星々のいずれでもない。


 他の世界から隔離された場所であり至高の者が在る。

 普段は物音一つしないこの世界だが、今日という日は怒声が空気を振動させていた。


「何故だ!駒の分際で俺様の最高傑作をこうも揺るがすか!」

「その駒はワシの最高傑作だがね。しかし騒ぐな、駒が倒れる」

「あぁそうさ!倒してくれるぜ!!」


 そう言ってザッハークはチェス盤を掴み取ると、一気にひっくり返そうとした。

 だがそれは叶わない。


 神の力によって、神の力は制された。


「まだ盤上が動いている。光は確実に…ワシの言う仮説へと動いておる。契約により終盤まで返せぬよ」


「ふんっ!奴は危険だ、駒のソレを逸脱している!」

「……」

「黙して…か。貴様はいつもそうだな!」

「ゼロの盤上を始動する。ワシの勝ちで良いな?」


 チッ!


 ザッハークは忌々しそうにアヴィスターを睨みつけると、大きく舌打ちをして漆黒の空間を発生させ、その中へと消え去った。


「ゼロの盤上の始動には条件が……あぁ、これが使えるな」


 ゼロの盤上。

 それはテストケースとなる世界が不要になった際に、発生させたイレギュラーを浄化するためのシステムだ。


 当初からこのテストケースには普通の魂が持つ力を凌駕する事が想定されていた。


 そう…ユウキ・ブレイクの発生は意図されたものであって、ザッハークの言う『駒の逸脱』はあれど全くの想定外ではない。


 故に神は慌てない。

 故に神は至高であり頂点なのだ。


 アヴィスターが独り言を言っていると、盤上で一際大きく光る白のルークと黒のキングが動き出す。

 二つは横に並び、ザッハークの居た方向へと向きを揃えた。


「うぅむ、やはり…ぐふふ……」


 それを見ていたアヴィスターは一人笑い、思考を加速させた。


 興味のないことは大して覚えてはいない。

 アヴィスターはザッハークが大嫌いだったが、この時ばかりは好奇の時を得られたと感じずにはいられなかった。


「いつほど前だったかな…良き日が訪れたわ……」


 アヴィスターはぶつぶつと独り言を言いながら、次の計画へとコマを進めた。

 そしてゲームが始まった時のことを思い出していた。




(千年前の神々の世界)


 また一つ…

 とある星から生命の息吹が消えた。


 食物連鎖の因果を消すと生命はバランスを崩す。

 知識を与えると他種族を淘汰し、最後は破滅の道を辿って自滅する。


 生命が誕生するだけでも天文学的な確率の条件が揃わなければならない。それが複数個である。


 創造神アヴィスターとしては、世界が自立して運用される星を創りたい。

 そうする事で更に他の多くの星々を創造し、観察する事ができるからだ。


 だが残念ながら神々の世界にも一筋縄ではいかない。神々にはそれぞれの目的があるのだから。


 アヴィスターが星々を創り生命を育む事に尽力するのであれば、それは創造神と言えよう。

 だが相容れぬ存在もまた神である。


「よう、また上手くいかなかったのか?」


 …こいつはザッハーク。

 他の神々からは邪神と呼ばれている存在だ。


「事が簡単に進めば我らは存在しえぬ」

「ガハハ!違いない…ん~?こいつは面白いな」


 チッ!

 つまらぬケチが入りそうだ。だからこいつに関わるのは良くないのだ…


 アヴィスターは表情一つ変えずに心の奥底で舌打ちをすると、さっさと退散願いたくザッハークから球体模型を見えないようにした。


「なんだよ隠す事ないじゃないか」

「どうせすぐに壊れる。ほら、ここが薄汚れた大地になっているだろう」


 アヴィスターは仕方なしと再び球体模型を出現させると、一つの大陸が真っ黒に変色している箇所を指し示した。

 それは地球で言えば北アメリカ大陸ほどもある広大な土地であった。


「生命がいるのに大気圏が薄いのか?」

「隕石群の衝突などではない。知的生命体同士が衝突して生態環境を破壊し尽くした」

「お前のソレを見ていると時々思うね」

「何をだ?」


 アヴィスターは眉根を寄せて邪神を伺った。


 こやつは邪神と呼ばれているが特に何もをする神ではない。

 一体何のために存在するのか…神である者でも測りかねていた。


 ザッハークはアヴィスターを見るとニンマリと笑みを浮かべてこう答えた。


「知性を持った生物が一番の邪神だな…とね」

「それなら君は何のために存在すると言うのかね」

「簡単な事だ。俺はあいつらの『心』だよ」


 アヴィスターは鼻息を吐き、その答えにあまり気持ちの良いものを感じなかった。

 生命を創造する立場としては、いつかは正しい道へと歩んでほしいと願っているのも嘘ではない。


「確かに奴らの心は良心だけではない。創造する際に猜疑心(さいぎしん)虚栄心(きょえいしん)なども必要な条件だ。これがないと成長を阻害し、やがては身を亡ぼすからな」

「ガハハハッ!良心である親切心や忠誠心、老婆心だけでは足りぬと?」

「成長に必要な好奇心は邪心がないと育めないのだ」


 皆が「どうぞどうぞ」と譲り合えば、それは素晴らしい世界となるだろう。

 だが抜きん出た競争心や探求心を持つ者が産まれないと、新たなステップへと踏み出せずに文明はやがて衰退してしまう。


 その副産物として、どうしても邪な心と言うのは発生してしまうのだ。


「そんな中でも輝く者が現れれば、きっと正しい道へ行けるはずなんだ」

「それがお前の創りたい自立した世界か?ガハハッ!無理だ無理」

「なんじゃと?」

「邪心は常に横にあり、光など覆い隠してしまうのだ」

「…闇を照らすほど強い光なら、導くこともできよう」


 ダンッ!


 ザッハークは突然平盤を出したかと思うと、いくつかの駒を並べた。

 それはチェスに似た物で遊戯に使うもののように感じた。



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