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決着《人魔戦争》

 

 ーッ!?


 《ブレイズ・スフィア》


 翼を折りたたみ一気に拡げると、周囲に暴風が熱を帯びて全てを焼き尽くす。


「そう…俺たちの炎は消えない」

「なんていう!」


 俺は両手を広げて全周囲に大多数の転移魔法陣を展開した。

 そして拡げた翼の羽根一つ一つで小さな魔法陣を作り出し、そのすべてをカイラスに照準を絞った。


「魔王カイラス、真龍の力を背負いきれるかな?」



 失われた魔法(ロストマジック)焦熱吹鳴(しょうえんすいめい)



 全ての羽根が炎を纏い水蒸気を気化させ、俺の周囲に円環の虹を作りだした。

 そしてそのすべてをカイラスへ向けて射出する。


 凄まじい熱風と爆風は周囲を焼き払合い、土の粒子でさえも気化させていく。


「…この程度!《女王蜂の楽園》よ、魔族の魔力を集めよ…(かいな)の次元を超越した力を!」


 漆黒の腕《無間堅牢》


 カイラスは右腕で時空間を引き裂き、熱波を無理やり捻じ曲げたら左腕で飛来する翼炎を殴って吹き飛ばした。


『ガハハハ!所詮は人のする事よ!故に神にも可能だ!』

「ん?まだいたのかザッハーク。人は反省して進歩する…だからお前は神様止まりなんだよ!」

『なんだと!?』


 全周囲に展開した大型の魔法陣。

 そこに砲門を向ける…


「水を差すなよ。これはカイラスと俺の戦いだぜ?」


 ほんの小さいことだった。


 カイラスは囚われながらも僅かに口元を緩めたのだ。

 その小さい出来事が今まで出来なかった事であって、俺たちが示した最大の光だった。


「いいねカイラス…最高だよ。そこか?」

『調子に乗るなよ…我らの力を」


 ガシャァァァァァン!


 カイラスの周囲で空間が割れて大気が揺らいだ。

 割れたのは魔法陣。


 だがそれは、かつて見たこともないほど緻密に描かれ、高密度の魔力で作られた魔法であると分かる。


『なん…神々の……魔法が!』


 魔法陣の弱い所を破壊する技。

 かつて幼少期にグライスと対峙した際、ゴブリンの魔法陣を壊した事がある。


 《点穴》が最も得意とした能力で《真紅の瞳》と成った今、それは神をも凌駕する。



「いくぜ、カイラス」

「ふっ…死をもって償おう。貴様の命だがな」


 俺が手を横なぎに一閃すると、転移魔法陣がカイラスの周囲に現れた。

 そして、自身の周囲に予め作っておいた魔法陣へと全部の熱線を放出する。


 カイラスは死の熱線を凌がんと漆黒の腕を振るって熱線を弾きながら、破壊の衝撃を放ってきた。

 恐るべきパワーと動体視力だ。


 当たれば即死。

 そんな致死の斬撃を目前にして、上空へと蹴り飛ばして躱すとカイラスは笑顔で飛ばしてきた。


「良いぞ!我が叡智を持ってしても攻撃の全てが無に帰す…これぞ激戦!これぞ死闘!!」

「お楽しみのところ悪いが、こっちも…ギリギリでね!」


 激しい爆発と漆黒の斬撃は周囲に被害を及ぼし始めている。

 人的被害がなくとも、環境破壊や生態系への影響は当然避けたいが、手を抜いていられる相手じゃない。


 俺は攻撃のスピードをわずかに引き上げ、次第にカイラスのテンポを崩していった。

 全ての攻撃が、全ての防御が…その効果空しくキャパシティを超えてその身を焦がす。


 そして見せた一つの転機。

 俺はカイラスが大きく振りかぶった瞬間を見逃さなかった。


 カイラスの眼前に転移すると、一気にその拳から魔力を開放した。


「爆ぜろ…ブレイクアウト!」

「これが……ガァァァ!!」


 強烈な熱波と青い炎が消えて煙が舞う大地のみが静かにその変化を彩る。

 そして輝く七色の光が、ゆっくりと周囲を照らし出した。


 その中心地には漆黒の腕と共に横たわる一人の男。

 俺はカイラスの手を取り、祈るようにその手を額へと当てた。


「カイラス…戻ってこい。今の俺達にはお前が必要なんだ…!」

(今のお前なら魔族をすべて滅ぼせるだろう……)

「それじゃ意味がない…結局は暴力の統制を繰り返すだけだ!」

(何故…我らを必要とする?なにを……)


 僅かに鼓動を繰り返すカイラスの身体。

 その手がわずかに動き、瞳を開けて俺を見据える。


(その瞳は…なぜ手を取ろうとする?)

「魔血衆やカイラスの想いから、グライスと同じ気持ちを感じたからだ……」


 グライスは自らが言われた事ではないのに言葉を詰まらせた。


「ユウキ…」


 どんなに望んでも手に入らない平穏。

 それを脅かす事しか出来ない者達。


 誰か殴ってでも止めて、楽しく生きようと手を添えてくれたのだ。

 そんなグライスを見てカイラスは大きく息を吐いた。


「ふぅ……だがもう再生はできん…」

「大丈夫だよ…」


 ブワッ……


 七色の輝きが満たし、あらゆる生命の活動に癒しを与える技。

 今までは紅が周囲へと広がっていたが、今回は尾から波状に魔力が広がりを見せた。


 《龍の囁き》


 その魔力に触れて全部隊が戦闘を中断した。



 その光を前にして、戦場の全てが理解されたのだ。

 傷つき痛みに耐える者は暖かい光にユウキを見た。


「んん…俺はいったい……《ジェネラル・ガークス》が解けてる?…勝利したのか」

「ちゃいます!まだ蝶々追っかけてるんとちゃいます?このお肉は!」

「いや参ったねハハ……騎士団長バルトフェルドともあろう者が…」


 時にその力を知る者は、触れた魔力の本質に気が付きユウキを見た。


「えっ!?ユウキが…お姉さま!」

「えぇ……ユウキ、あなたは本当に…。やりましたわ、ナルシッサ、トージ……」


 最終防衛ラインを一身に引き受け、守り通した者達もユウキを見た。


「オーギスさん、ユウキが!」

「あぁ?おいおい…こいつぁ参ったね。ハハハ……盤上が崩壊を始めたか」

「オーギスさん?」

「いや、イージス。もう終わりでいいだろう」


 ガスッ!


 オーギスはこの光景を目の当たりにしても向かってくる魔族を足蹴にしてそう答えた。

 それだけで魔族側も一定の理解があったようで、ユウキとカイラスの方に視線を向けた。



 大きな光の影に徹し、光を守り続けたギルドの人たちも暖かい光にユウキを見た。


「ルイン、彼から離れちゃいけないよ…」

「うん。ボクは絶対にはなれないよ。だって…ユウキが好きなんだもん」

「仕事でも家庭でも、辛くなったらいつでもウチにおいで」

「プレジャー……いや、女将さんありがとう」



 最もユウキを知り、最もユウキの近くにいた人も彼を見た。


「レクサスさん、ユウキは…変わらなかったわ!」

「そのようだな。あれを変わったと言う輩はヤツを知らん。アリサよ、行くがよい」

「ありがとうございます!」



 アリサはレクサスに深々とお辞儀をすると、大地を凍らせて一目散に滑りだした。


「アリサ!」

「ルイン!」


 同じように彼の元に駆け寄る者達が自然と集まりだす。

 それは彼が歩いた時間の中で、共に行きたいと思う大切な人たちだ。


「「ユウキ!」」

「終わったよ…みんな」


 立ち上がるその手には宿敵の手がある。

 茨の鎖はひどくそれぞれを痛めつけたが、逆にその痛みを知るからこそ外れた意味の大きさを知る。


「共存の道を取り会おうと思う」

「ふむ…我ら魔族も世界を呪縛から解放する事を目指すとしよう……勝算は得た」


 二人の男は高く手を掲げ、そして宣言する。

 それを待ちわびた人たちは傾聴し、それぞれが思い悩んだ。


だが、一つの終わりはその考えを置き去るようにして歩みを進める。

 真紅と漆黒の魔力の炎が高く打ち上げられたのだ。

 それはどこまでも昇りつめ、そして波紋をなびかせるように広がり大陸全土にそれが示された。


「この戦争は神がもたらす大罪だった」

「この戦争に勝者も敗者もない」


「「…終わろう。共に人魔戦争の終戦を宣言する!」」






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