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正義と忠義(2)

 そして聖都から俺が呼んだのはもちろんこの二人だ。


 ダルカンダの門に向けて突貫した魔族の部隊が次々に凍りつき、火の手が上がって水蒸気が周囲に満たされる。

 それは自然現象か…いや違う。


 霧によって視覚が殺され、右往左往する部隊が倒されていくではないか。


「ユウキおまたせ!いや?ボク達が待たされたかな?」

「会いたかったわ!」

「二人とも気を付けてくれ…状況は混乱している!」

「えぇ、見ればわかるわ。発破!!」


 周囲でクラスターボムが炸裂しながら、氷柱(つらら)が吹き飛び阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 手に持つ炎剣と雹剣で近づく魔族を蹴散らしながら、遠くで氷像が作られていくのを見て思った。


「か弱かったアリサちゃんはもう居ないな……」

「なによ!」


 聴こえてた。

 そんな馬鹿なと思ったが、魔力で五感を強化していると分かり冷や汗をかいてしまった。


「これが俺の背を預ける人たちだ。お前にも居るだろう!だから戻ってこい!カイラス!!」

『我らの命令は絶対だ。駒が歯向かう事はできん!』


 カイラスの物とは思えない声で、上から圧し潰すような魔力を放出しながら威圧する。


 ダンッ!


 ダルカンダに入ろうとした魔族が吹き飛び、戦線を後退させた。


「いけねぇなぁ。ここから先は一歩も入れさせねぇ!」

「オーギスさん!」


 冒険者ギルド長オーギスが、その大斧を掲げて正面から構える。

 その横にはチェストから撤退したゴールド階級の冒険者イージスだ。彼の防御力とオーギスの攻撃力が加われば、早々抜かれる事はないはずだ。


 だが異変はここだけではない。

 あらゆる所から攻め入った魔族が意識を飛ばしていく。


「もうちょっと良い物食べたほうがいいんじゃないのかい!ポークバーグは魔族も歓迎するよ!」

「女将…こえぇよ!」

「違うさね。今の私は…ん?」


 ズガアアアアアアアアアアアン!


 大地に大穴が開いて魔族は吹き飛び、魔法を肉体で弾き飛ばしながら突貫するゴブリン。

 そんな事が出来るのはこの世界で一体だけだ。


「もうちょっと丁寧に仕事なさい」

「ガハハハハ!無理だ。そういう性分じゃないんだ、《ストロング》はな…フンッ!」

「まったく…ユウキが連れてきた時はシオラシサに驚いたよ。でもまぁ、戦場では変わってないね」

「あぁ…ダルカス大森林の恩を返す時だ」

「ふふっ、さぁジャンジャンおいで!プレジャーの名において粛清するわ。隠居してるけどね!」


 闇ギルド『プレジャー』の“元”統領。

 ダルカス大森林の獣人討滅戦においてノイントの謀略を察知し、単独でグライス/グロッサム連合と戦いながら逃げるように警告した人物。

 グライスは獣人の中でも屈指の強さを誇り、一人の人間が勝てるような相手ではない。


 その二人が時を経て誤解を解き、そして肩を並べる。

 そこに魔族の固有血技である岩塊がショットガンのように撃ちだされ、プレジャーに襲い掛かった。


 キンキンッ!


 だがその攻撃は短剣と水流によって阻まれ、有効打にはならない。


「あんたは……ごめんね」

「女将さん。んん、プレジャー……ボクはね、お礼が言いたいの。行こう、陰は光がないと出来ないから」

「そうさね」


 ルインは両親が鵙に殺されたが、ルイン自身は闇ギルドに救助された。

 その後も過酷な人生を送ったが最後には元プレジャーこと、ポークバーグの女将に陰から見守られていたのだ。



 他にもこの地に集まった者達はまだいる。

 世界を廻り多くの人たちに助けられた旅は、出会いの中で大きなうねりとなっていた。


 左手に風を、右手に炎を…


 超級魔法 《火災旋風(かさいせんぷう)


「おうおう、やっとるねぇ」

「ネフィル爺さん巻き込むなよ!てか魔法強くなってねぇか?」

「肉ダルマのグライスじゃないか。いや?一族勢揃いか!くわばらくわばら…これはユウキ殿に教えを乞うてなぁ…」


 ザシュッ!


 突然ネフィルの背後に迫る魔族が吹き飛び、視線を向けた。

 その小柄な体躯からは想像もつかない筋力を持った老人が、手斧を投げた姿勢から周囲を警戒していた。


「ゴブリン爺さんが前に出るな!」

「あんたの方がジジイじゃろ…ドワーフのサービック殿」

「ふん!刀次郎、いま俺達の夢が叶いそうだ…この手斧のグリースになりたい奴から前にでろぉぉ!」


 数百年を生きる魔族。

 だか、こちらにも一人だけそれはいる。


 トージと共に歩いたドワーフの生き残り、英傑サービック。彼は200年の時を経て、老齢になりながらも若かりし力を奮っていた。


 その殺気、威圧、眼光。

 すべてが魔族を一歩下がらせるのには十分であった。



 遠くの喧騒は大きな希望となって聞こえてくる。

 だから俺は目の前の敵に集中することができるんだ。


 カイラスは自我が失われたように目を見開いているが、その眼光は常に威圧を忘れていない。

 その背後に生える漆黒の腕は、先ほどからずっと魔力を溜め続けていた。


『…確かにアヴィスターの理論は正当だったようだ。であれば、この世界は滅びるべきだ』


 アヴィスター?

 ではカイラスの背後にいるのは俺の転生に関与した神アヴィスターではなく…


「邪神ザッハークか?なぜ世界を滅ぼす!」

『実験が終われば共試体は破棄する。懐に抱えた爆弾の大きさを理解したからな』

「実験?」

『アヴィスターは言った。“人は絶望の中に一つの光を与えると、闇を打ち消す希望となる”。だが我は“人の心は灯りさえも消し去る虚構の濃霧”と否定した』


 善行か悪業か。

 人類が絶望した時、超カリスマ性を持つ人物の登場にどう行動するか。


 平和のために結束して勝利をもぎ取る。

 だが、その裏では常に私欲のために動く者が現れる。


「だから実験した…と?」

『実証実験は成果を得た。次なる創生における踏み石ということだ。初めから諸君らは消え去る運命だったのだよ』

「ふざけるな!作っておいて、生命の息吹を与えて…それが神の玩具だったというのか!」

『そうだ。グフフ…奇妙だと思わなかったか?融和のカーテン…小さすぎる星の体積……』


 確かにそうだ…誰が作ったかもわからない世界の隔壁。

 そこを境として生態環境が一変するという境界線から、このような戦争まで起こった。


 しかも、いずれは壊れると予言されて…


 星の体積についても王都ダルメシアから国境の神無砦まで1000kmも離れていない。

 ほかに魔大陸があったとしても、それは地球と比べてはるかに小さいく、惑星どころか衛星としても小さい。


 …まさか!


『グフフ…最期のピースは我らがはめてやろう』

「壊すことを前提に作ったのなら、なぜ生命を創ったんだ!」

『失敗した世界の補正に知的生命体が使えるかと言う実験だ。そしてこの星の最期は盤上をリセットするために真龍とイビルウェポンを創造した…さぁ、会話はお終いだ』

「おのれザッハーク!おのれ神々!!」


 その時だった。

 カイラスの右腕が空を切った。


『漆黒の右腕よ…引き裂け!』


 次の瞬間、突然目の前に新たな斬撃が刻まれる。

 それは時空間を超越した能力。


『邪神の力を思い知れ!過去の不出来など容易に粛清できる』


 不意の斬撃。

 漆黒の魔力に彩られ、それが俺を覆い隠すように襲い掛かった。


「しまった!」


 これは…避けられない!


 カイラス…いや、ザッハークは確信した。






『終ワリダッ!』




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