狂気の魔技(2)
様々な角度から織りなす攻撃をバルトフェルドは見事に……いや違う。
筋肉と力業によってなぎ倒しながら接近していた。
ガキンッ!
「そないに猛り狂ったら、美人も逃げていきます」
「何を言うか…!得意な鉄扇を見て距離を離したら、実は固有血技が遠隔でしたとか」
「おおきに。でもウチは魔族です。人の外におります故…」
鉄扇で剣を受けられ、合間に足元から固有血技の蝕指。
人が…いや、魔が悪すぎるぜ!
(アレをやるしかないか…)
バルトフェルドは蝕指を弾き飛ばすと、左手をハウレストの方に突き出した。
そしてハウレストの心臓を握りしめるような動作をする。
「遊びはおしまいだ。俺が…俺達が過去、現在に至るまで騎士団長であり続けられたのには理由がある!たとえ魔族だろうが関係ない……俺は強い!そう、ガークスの名の下に!」
バルトフェルドの掌から徐々に黒い液体が流れ落ち、それを見たバルトフェルドは一瞬の戸惑いを見せるも、それを口に放り込んだ。
「なんなん?えぐいわぁ…うぐっ!」
「はぁはぁ…カカカッ……元祖ストロングを、見せてやる……!」
ストロング。
それはゴブリンのグライスが使っていた強化魔法だ。
強靭な肉体を手にする代わりに、魔力は穴の開いたボールのように消耗されていく諸刃の剣。
通常使用においては必要な時に短時間だけならば問題はない。
だが本来のストロングとはそう言った物ではないのだ。理論とか使用感とかそう言う次元の話ではない。
生まれるべくして生まれた技にはデメリットと隣り合わせの理由とメリットが存在する。
「本来のストロングはな、ウグッ!……俺達ガークス家が考案した魔法だ…!」
「はわわわわ…こっち来んといて!」
ハウレストの魔力がバルトフェルドに吸い込まれ始める。
そしてバルトフェルドの肉体がボディビルダーのように姿を変え始めた…
黄金の鎧は隆起した筋肉により可動領域を超えて破損させられる…
露わになる驚異の肉体。
そしてあふれ出る狂気の魔力。
「はぁはぁ…さぁ魔族よ、デスマッチだ。俺の肉体とお前の魔力のどちらが先に尽きるかな?」
固有血技ソウルイーターが奥義…《ジェネラル=ガークス》発動。
発動した瞬間、ハウレストはグイッと一気に引っ張られるような感覚を覚えた。
超強力な扇風機に吸い込まれるような感覚で、抗おうとしてもグイグイ引っ張られる。
「ちぃ!ウチの蝕指をなめるな!」
地中から出現した蝕指は、バルトフェルドへと到達する前に光の粒となって分解され、彼の中へと取り込まれていく。
魔力関係は全てバルトフェルドへと吸い込まれ、純粋な力勝負へと持ち込まれる…
無理やり相手の土俵に合わせられ戦わせられるのだ。
しかも元祖ストロングによる超肉体。
殴られただけで四肢が吹き飛ぶ、狂気のボンレスハム。
「さぁ!さぁさぁ!」
「やめぇや!変態とオカンはあかんねん!」
ハウレストは後ろに下がり、同族を弾きながら逃げ続けるその姿はまるで…変態ストーカーから逃げ纏う女子だ。
「ちょっ!どいって……そこどきぃや!あかんあかん!!」
ハウレストは逃げるのに邪魔な魔族を払い除けながら必死に距離を取ろうとした。
たが彼の技の効果なのか後ろに引っ張られ、更には足がもつれて上手く走ることができない。
常に強者であり続けたハウレストには、それが恐怖によるものだと理解する事が出来なかった。
ドンッ!ブシャッ!ズシャ!!
「ひいぃ!嫌や!!そないな音させんといて!!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
「正解だ。この技への対応は逃げる事のみ!ダルメシア戦争で後退する帝国将兵ヴィルジェ・サーマス大佐を執拗にこの地まで追いかけた男がいた」
「だから何なん!」
「それが俺の祖先デルタ・ガークスだ!この技は発動すると…相手を殺すまで技の発動が止まらないのだ!」
「知らんて!ウチにそれ関係あらへん!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
ドスッ!ドスッ!ドスッ!ズシャ!
「故に発動者は殺戮者となり、敵は逃亡者となるのだよ…ハハハッ!!私はな、血筋から変態の素質を持つのだ!」
(嫌やわぁ…思ってたんとベクトルがちゃうねん!)
美味しい物を食べて、綺麗な景色を見て、おめかしして…
そんな当たり前の様な生活を望んで、何があかんのや!!
「ミィミィー!もうウチ、帰りたいぃーーー!!」
ふっ… ガキンッ!
「むっ!はやり貴様は魔族なのだな?そうなんだな!?」
「逃げる女子を追いかけ回すのが騎士の流儀?ミミは失望するよ」
「しゃらくせぇぇぇ!!」
ズオオオオオオォォォォ!!
凄まじい勢いで周囲の魔族から魔力が吸い上げられ、より一層肉体が巨体化するバルトフェルド。
彼はもはや狙った獲物を是が非でも逃さない殺戮者であって、騎士道の通じる人物ではなくなっていた。
「自らの業に喰われる愚か者!女子の敵を断罪する!!」
「待ってミミ!!」
「止めるなレナード!」
ニヤリ…
「好機!」
バルトフェルドは歪んだ笑顔を向けると、ミミを殴りつけた。
ミチミチミチ…ズダァァァン!!
「「ミミ!!」」
隙を着いた完全な不意打ち。
凄まじい勢いで吹き飛ばされたミミだったが、地獄蝶で受け止めていたのでダメージはなさそうだ。
だが腹はたつ。
「ふざけるな!正気に戻れ!!」
《清浄なる迅閃》
狂乱を峰撃ちにしてバルトフェルドに向けて技を放った。
しかしそれを平然と両手で受け止め、微動だにしないバルトフェルドがそこにいた。
「なんだって!」
「レナード!追試だ!!」
狂乱でバルトフェルドの一撃を受け止めると、ミミの方へと一度後退した。
「何あれ?あいつ一人でコルモスと戦えるじゃん……ミミもビックリなんですけど」
「ミミィ…怖ったよー……」
「はいはい。あとでお饅頭食べようね」
「先生は強すぎだよ全く…くるよ!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
ドンッ!
ズダァァァァン!!
突然何かの襲来と共に、猛り狂っていたバルトフェルドが土煙をあげて沈黙を許した。
その土煙を作った原因が、二色の魔力風を当ててお互いに誇示し合っているようだった。
真紅の魔力。
漆黒の魔力。
二つは混じり合いながらも威嚇しあっている。
「なんだ、殺さなくても技の発動は止まるじゃないか」
「余計なことをするなカイラス。お前の相手は俺だ」
ユウキとカイラスが、共に違う目的でバルトフェルドを止めたのだった。
ユウキは三人とバルトフェルドを助けるために。
カイラスはミミとハウレストを助けるために。




