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狂気の魔技(1)

 光の先に見えた色…それは例えるなら灰色だ。


 ダルカンダの至る所から煙があがり、戦禍が町に迫っていることが分かった。


 そんな中でいち早く俺に気が付いた存在がいる。


「来たか…報告は上がっていない。という事は君の勝ちかな?」

「勝者だとか敗者だとか…そんな物はないんだ。みんなが傷ついているんだよ!」


 俺は厳しい目でカイラスを睨みつけた。

 その鋭い眼光は耐性のない者が受ければ、それだけで気絶してしまいそうな殺気を含めている。


「ユウキか!」

「バルトフェルド先生…使っているんですね?」

「出し惜しみはなしだ。そうでないと被害が大きくなる」


 《点穴》で見えるその魔力は、バルトフェルドが固有血技 《ソウルイーター》によって強化しているのが分かった。

 その特性は相手の魔力を吸い取り自らの魔力とする事ができる。

 だが反面、己の魂を傷つけて寿命を削り取るような荒業でもあるのだ。


 相手は魔血衆のハウレスト。


 彼女の固有血技 《漆黒の蝕指》は様々な角度から攻撃できるし、応用力もあって非常に強力…

 確かに出し惜しみをしている場合ではない。


 レナードとミミはミルキーファームを相手に善戦しているようだが、いかんせん戦火を広げないように戦うので精一杯のようだった。

 《光の翼》は非常に強力だが本領を発揮するには、いささか町が近すぎた。


(あと一手…あともう一手あれば、その手が届く!)


 レナードの背中からはそんな声が聞こえてきた気がした。


 俺はおもむろにポーチから武器を取り出し、その柄を握りしめて確かめる。


(少し賭けが過ぎるだろうか…?)


 いや、彼ならばきっと……


「受け取れ…ジャック!!」


 俺はこの地で弟子として鍛え上げた男へと大斧を放り投げた。

 彼は人族として平凡な力しかもたないから、下手をしたらイビルウェポンの魔力に呑まれるかもしれない。


 その彼に向けて大斧シュレッケンを放り投げた。

 僅かに揺らぐ真紅の魔力がシュレッケンを覆い、紐のように尾を引いてそれはジャックの前に突き刺さる。


 ザシュ!


「これは…いけます!!」

「よし…レナード、ミミ!」


 黄金の炎砲(グランドファイア)の猛攻を受けつつ、レナードとミミは俺を見て頷いた。

 すると攻撃に専念していたミルキーファームが俺に気が付いて驚いたような声を上げた。


「ん?ふぁ!!お前帰ってきたのか!?…かくなる上は、いでよ城塞、全てを焼き尽くせ!!」


 突如として陽光が遮られダルカンダ周辺が暗がりとなっていく。

 そのことを不思議に思った者達が上空を見上げ、そこに出現した巨大な攻撃砲台に驚きを露わにした。


 ミルキーファームの奥義《幻想城塞》。


 あらゆるものを灰塵と化すその要塞は、もはやミルキーファームでさえも止める事が出来ない。


「ハハハッ!魔族を対象に《ブレイブリーアーマー》を展開する!我が楽園のために!!」


 ……

 …………


 だが一向に破壊の怨嗟が轟く事はなかった。


「なぜ?なぜだ?!…お前か?お前なのかミミィィィ!」

「発射される運命を斬っちゃった。テヘッ」

「さすが…狂乱よ、咲き乱れろ!」


 《終焉の頂》


 レナードから光の翼が大きく広がると、一本の線となって超巨大な攻撃要塞を真っ二つに引き裂いていく。


「なぁ!ばかな?ハッ!」


 《ブレイブリーアーマー》


 ミルキーファームは次の攻撃を警戒して崩れ墜ちる要塞を背に守りを固めた。

 そこに声をかけたのは、このダルカンダで冒険者をするジャック達だ。


「なぁ魔族さんよ、俺たちの町…好き勝手してくれっちゃって」

「ほんと、私たちを舐めるなっていうの!」


 上級魔法トルネードで周囲の魔族を吹き飛ばすと、守りを固めるミルキーファームに向けて大斧を片手で構える。


 右手を後方に下げ、投擲するような動きで全身のバネを使って遠心力を乗せて一気に叩きつける!


 ガキンッ!


 激しい金属音が鳴り響き渡り、シュレッケンはブレイブリーアーマーに激突した。


「ふふふ…前回より濃度を密のだ。私の盾は赤龍の一撃でさえ受けたのだぞ!」

「…大斧の奥義《冥断》。吹っ飛べ」

「へっ?」


 足元から大地へと流れ込んだイビルウェポンとジャックの魔力が、大きな唸りとなって大地から溢れ出そうとしていた。

 それを超感覚で察知したミルキーファームは足元に魔力を集中させ、自走砲で迎撃を試みる。


曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は宵を魅せる。舞いれ、地獄蝶」


 《神速の一撃》


 ミミは自らの身長ほどもある長刀を振るい、自走砲を迎撃していく。

 そのミミに向けて背後から迫る火砲を、レナードが光の翼を使って弾き飛ばした。


「さんきゅー!攻撃の可能性を…消す!!」


 《決定された運命》


「なにいぃ!どこまでも厄介な!」

「厄介なのはコルモスだよ!攻撃が発動する運命を一つ消すだけで死にそ……」


 瞳から流れる血が、その運命を捻じ曲げるのに必要な強さを示していた。

 簡単に攻撃を消しているように見えて、見えない未来で彼女はミルキーファームと激闘を繰り広げていた。


 故にミミの実力では、格上であるミルキーファームのブレイブリーアーマーを完全には不発にはできなかったのだ。


「きた!」

「ふぁ!」


 大地から溢れる魔力の塊が拡散を…しない!

 ブレイブリーアーマーで必死に大地に向けてバリアを張り続けた。


「どうだ!私に出来ない事は…あっ……」


 抑え込まれた《冥断》の魔力が溢れるようにミルキーファームの直下から直上に大爆発を起こした。


「アアアァァァァー……」


 彼にダメージはない。

 だがその威力を押し殺せずミルキーファームは遥か彼方へと吹き飛ばされていった…


「よっし!ジャック凄いな!」

「はは…膝が笑って動けねぇ……でも師匠に近づけたかな?」

「間違いないと思うよ。あとはユウキたちが魔王とハウレストを倒せば…」

「ハーの方は…えぇ…あれはヤダね……うぇ」


 ハウレストを見たミミは絶句すると共に、苦虫を噛み潰したような顔をした。




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