最後の矜持(2)
「このゾゾ様が折れば良いんだね!ソラぁ!」
限界まで引き絞った弦を開放すると、暴風が吹き荒れて森林の木々を一直線に薙ぎ倒した。
「《ソリッドフィールド》行け!突っ込め!」
「「オオ!!」」
「スズ!」
「あたいに任せな!疾風乱破!!」
ボブの固有血技、《ソリッドフィールド》でゴブリンを守りながら倒した巨木を押していく。
スズの魔法隊が凄まじい風圧でボブ隊の背中を押し出し、ゾゾがなぎ倒した大量の巨木を数か所に束ねた。
それを見ていたムサビはイラ立ちを覚え、早々に決着をつけることにした。
ムサビの固有血技は《変光星》。
光による分解エネルギーを照射する技で攻撃力としては類を見ない高さを誇る。
だが分解エネルギーのコントロールができないため、味方や自分自身に対しても作用してしまう。
故にムサビはこの技を距離の取れる滑空時、または高高度からの使用に限定していた。
キンキンッ!
飛翔しながら飛ばされた羽根と火球を刀で弾くダンゾウは、詰められない距離に僅かながら焦りを見せていた。
そんな中で起きた悲劇。
ガキンッ!!
ダンゾウの刀が中ほどで折れて宙を舞ったのだ。
ムサビが羽根に交じって《変光星》を放ち刀を分解させた。
「ムッ!だが!」
「ケケッ!これでお終いだ!」
「ボストン氏…あれはなんだ?」
ダンゾウに言われて破壊された我が家を見ると、瓦礫の中から特異な魔力の塊を《点穴》で見つけた。
だが家にそんなものはあったか?
とても身に覚えはないな。
「分からない。あんな物は……たしか、戦争前にユウキが来たぞ!」
ーッ!
ガガガッ!!
「ケケーッ!おしゃべりが多いな」
「ふむ確かにな。では終わらせよう」
固有血技《陽炎》
ダンゾウは大気が揺らめくほどの超高熱を持つ分身体を作り出した。
触れただけで命取りになる危険な分身体だ。だがムサビもそれをすぐに察知して上空に避難した。
「飛べはせんだろう!」
「上々、対策としては最善の一手だが…今は悪手!」
ダンゾウは《陽炎》を囮にして、ブレイク邸にある何かに向けて疾走した。
それが正しい行動なのか分からない。
だがユウキが残したのならば……
「させるかッ!」
ムサビは上空から一気にブレイク邸に突っ込み、高速飛行から勢いを殺さず何かを掴み上げた。
「刀…?いやこれは!むゥガァァァーーー!」
刀に触れたムサビは、突然は苦しみの声を上げてそれを手放した。
ムサビの翼の一部が燃え上がっており、それが高熱を発していることが分かった。
ダンゾウは放棄された刀に一瞥をくれると、一瞬戸惑いながらもそれを手にかけた。
“汝は灼熱の身に生きられる者か?”
「我は常に焦がす者なり」
“…我が名はピュルガトワール。使いこなしてみよ”
「言われずとも…」
凄まじい力をこの刀は与えてくれた。
《陽炎》はその炎の密度を上げて、赤い炎は青色へと変化していく。
そして本体と同じように炎の刀を作り出した。
その刀はユウキがパーミスト洞穴で、ナルシッサから譲り受けたイビルウェポン。
自分には使い所がないが、熱すぎて使える者が居ないため他人に扱えず困って家に置いてきた物だった。
「ユウキ様の御霊を賜りました」
「ふざけるなァ!俺を舐めるなよ…ムサビ様だぞッ!!」
滑空して一気に高高度まで上昇すると、そこからダンゾウに向けて照準を合わせた。
「塵と化せ!地を這いつくばる小鬼がァァァ!!」
《爆発変光星》
対象を中心として分解エネルギーを発散させる。
「陽炎が揺らぎを…《炎跡》」
「ふむ…《ソリッドフィールド》!!」
ボブのソリッドフィールドが変光星の光を包み込み、全てを抱擁するように囲い込んで四散した。
「なん…だとッ!不発だと言うのかッ!!ん?」
「遅い!」
「ぐあァ!」
ダンゾウの陽炎がムサビの魔力を追跡して炎剣を振りかざした。
炎を見てムサビは回避したのだが、なぜか避けたはずの斬撃で翼を負傷した。
《円環変光星》
陽炎の周囲を立体的に分解エネルギーが包囲し、それに触れた部分から分身体は霧散して消えていった。
だがダンゾウは再び新たな分身体を作り出し、それを見たムサビはやや焦り気味に同族へ念話で招集をかける。
『集まれェ…高高度まで後退せよ!』
『ケケッ!』
ムサビの一声で各地に散らばるホルアクティは上空に集まりだした。
だが上昇するさなかにもゾゾ連弩隊やスズ魔法隊によって撃ち落されるホルアクティがおり、ムサビは自らの甘さにイラ立ちを覚えた。




