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魔王カイラスの脅威(2)

 それは攻撃から身を守るための鎧ではない。

 自分の攻撃による反動で身体が汚れないようにするためのエプロンの様な物だった。


 そして俺が瞬きをした一瞬の間にミルキーファームが眼前に現れた。


 膝蹴り。

 ボディブロー。

 肘鉄。


 そして黄金の炎砲グランドファイア・ゼロ


 ズガアアァァァァァァン!


 流れるような連携技と最後の一撃で俺は吹き飛ばされ、村の平屋をいくつも破壊して止まった。

 直ぐに自走砲が追いかけてきて熱波を斉射し、見る見るうちに村々の建屋に火の手が伸びていった。


 ミルキーファームはその様子を眺めて満足そうに頷くのであった。


「まずまず。このまま……ん?おぅぶぁぁぁぁ!」

「まだ村人が逃げられていないだろう…宣告したなら誠意を示せ!」


 ミルキーファームは燃え盛る平屋から飛んできた何かに吹き飛ばされたが、それが殺したと思った人であるとは認識できなかった。


 俺の中にある魔力を解放すれば身体には変化が現れる。


 漏れ出た濃密な魔力は特殊な防御壁《真紅のヴェール》を形成する。

 これが真龍に魔法が効きづらい要因なのだが、自らが使えば鉄壁の防御となる。


 そしてフェニキアから貰った籠手から炎が噴き出し、瞳の形は縦長へと変化する。


 それは全てを見通す龍のまなこ


「これ以上は行かせない!」

「…ッ!くっ…あの女といい…何なのだ!」


 砲弾が雨のように降り注いでくるのが見える。


 ミルキーファームの得意とする攻撃距離は存在しない。

 彼のいる場所全てが攻撃範囲なのだ。


「ちぃ!消し飛べ!」


 《龍の息吹》


 スーッ……ズガアアァァァァァァン!


 高圧縮した空気の塊を打ち出し、上空でそれを一気に解放した。

 それは魔族の攻撃のみならず周囲を吹き飛ばして無に帰す。


 風圧によって全て火砲を消し飛ばしたら、その勢いを持ってミルキーファームへと迫った。

 五指に炎を灯しその全てを相手にぶつける。


 《爆炎乱舞》


「ぬぅ!《ブレイブリーアーマー》!!」

「破砕する!」


 殴りつけるたびに爆炎が発し対象を破壊しようとする。


 だがミルキーファームの《ブレイブリーアーマー》はこの程度ではビクともしない。

 同じところを殴れど全くの無意味。


 そして頑張って壊そうとする者を、ミルキーファームの自走砲が焼き尽くすように放射するのだ。

 奴の攻守に優れた固有血技だからできる妙技。


「無駄だ!そして尽きろ、自らの不甲斐なさと共にな。はははっ!…ぁ?」


 ミルキーファームは爆炎と熱波の中で、目の前の何かに恐怖を覚える。


 それは無いはずの物。

 それは残っていてはいけない物。



 真紅の瞳。



 放たれた自走砲の熱波と炎は皮膚から内に入る。

 そのエネルギーの全ては自らの食料であると言わんばかりに還元するのだ。


「…かはっ!」


 声が…出ない。

 ミルキーファームは呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、口と目を大きく開いたまま動くことが出来ない。


 爆炎の先に露わになる…その御身(おんみ)


 真紅の魔力は鱗と尾を顕現し、終焉の破壊者へと誘う。


「真龍に壊せぬモノなし」

「なぜ……!なぜ赤龍が二人いるのだ!!…だがもう一方の一撃には耐えたぞ…ふふ、そうだ!私は耐えたのだぞ!!」


 両の手に魔力を集めると、それは唸りを上げて一気に燃え上がる。


 ミルキーファームはフェニキアの渾身の一撃に耐えた。この事実は覆らないし正しい事だ。


 俺は大勢の攻めてくる魔族の群れに対して、尾を振り上げて大地へと叩きつけた。

 ただこの一つの動作で大地を穿ち、近づく魔族を魔力風で吹き飛ばした。


 これに目の前で耐えるミルキーファームはやはり強い。


「なぁミルキー、それは若い女の姿をしていたか?」

「そうだ。あんな若輩が放つ力に驚いたがな」

「そうか…なら正真正銘フェニキアの一撃だ」

「そうだろう。だからそう言っているだろう!」


 だが彼は一番大切なことを勘違いしているのだ。

 人族だろうが魔族だろうが、決して手の届かない孤高の存在がいるという前提条件を。


「それは赤龍の一撃じゃない」

「えっ…?」


 呑まれる。

 ミルキーファームはその眼から目が逸らせない。


「怖いんだろうな……戻れなかった時が」

「なに…を、ゴチャゴチャと!!」

「俺には見えているんだ…《点穴》という固有血技でね」


 吹き上がる炎は誰のための拳か。

 狙い定める砲身は誰の望みか。



 それは常に自分だ。



 砲口を手で塞ぎ力任せに砲身を捻じ曲げる。

 ミルキーファームはその姿に恐れながらも躊躇なく発砲した。


 ゼロ距離からの砲撃を翼で受け止め、そして振り上げた拳で弱点(ブラックスポット)へと叩きつける。

 それにより堅固たる《ブレイブリーアーマー》のわずかな綻びは華開く。


 《烈風華》


 ガンッ!

 ピシッ……ピシピシッ………ガシャァァァァァン!!


 美しく舞い散る魔力の残滓。

 一輪の華が起きた事柄を物語っていた。



 一瞬の静寂。

 壊れるはずのない物が壊れた。

 この事実を受け入れられない者ほど、硬直する時間は長かった。


「ミルキーは強いよ。だけど俺と相性が悪すぎたんだ」

「……うつく…しぃ」

「それじゃ、寝ててくれ」


 魔力を尾に集中させると、やがて炎の羽根が形成されていく。


 《燕尾撃(えんびげき)


 それをミルキーファームへと叩きつけた瞬間、爆散して周囲に破壊の怨嗟を轟かせた。

 壊れていなければ耐えられただろうが、受けられる状態ではなかった。


 だが、彼は生きていた。



 漆黒の(かいな)が、俺の形成した尾を受け止めていたのだ。

 そして過去に一度だけ耳にしたあの声が響き渡る。


「ユウキ・ブレイク。久しい再会だ」

「魔王…カイラス!」


 彼の登場と共に続々と魔族が上空から飛来してくるが、それは魔大陸にある大型転移魔法陣による転送だ。


 魔王はどうしたか?

 彼の背後は大気が暗く揺らいでおり、彼だけは自らの能力で移動してきたと思われた。


「王が自ら最前線に出陣とは余裕だな」


 地を蹴りカイラスへと迫った所で、地面に不穏な魔力を感じてその場を避けた。

 すると先ほどの場所に漆黒の触手が沸き上がり、俺を捕らえようと蠢いた。


「二度目はあきまへんなぁ」

「パーミストの…ハウレストかっ!」

「あら嬉しい。でももう覚えなくてええんよ」


 ハウレスト…リザードマンの本拠地でレクサスと戦闘中に消えたと言っていたな。

 そうか、転移先はイーストホープ付近だったのか。


 負傷しながらも立ち上がったミルキーファームは、ハウレストと共に魔王カイラスを守るように位置を変えた。


「魔王、見苦しい所を」

「よい。あ奴が異質なのだ」

「カイラス、なぜこの大陸を攻める?共存という選択肢もあるだろう?」


 ハウレストが何かを言おうとしたが、カイラスはそれを制した。

 今は話をする時だと諭しているように見えるのだが、それが出来るならば常に暴力に訴える意味が分からない。


「不可能だ。それを許さない者がいるからな」

「お前以上の存在がいるというのか?」

「左様。ゼロの盤上…聞いたことはあるか?すべからく終焉を迎える」

「侵攻は神の命令だと言うのか!」

「神託だ。そして俺は……それを実行する“力”を授かっている」


 そう言ってカイラスは背後から《漆黒の腕》を顕現させる。


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