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魔王カイラスの脅威(1)




 イーストホープ。

 かつてこの地で地形図を塗り替えた男と女がいた。


 男は迫りくる大軍を相手に正面から挑み、絶対的な防御力を誇る敵将を葬った。

 その一撃は天を穿ち大地を抉る事で、イーストホープ大渓谷を創りあげた。


 女は密林に隠れて新たな魔法を創造した。

 その一撃は従来の魔法の概念を覆し、そして天変地異まで引き起こして大軍を退けた。


 魔法の定義はその威力と難易度によって初級・中級・上級魔法に分類されていたが、この時放たれた一撃は新たな定義の産声をあげて超級魔法と呼ばれるようにった。


 そして彼女の死後は“扱える者不在”となり、超級は伝説の存在として語り継がれるようになる。


 そのため、イーストホープは人類史における転換点(ターニングポイント)であったと言える。


 その場所をいま、防衛を任されているのだが…

 イーストホープ自体は小さな農村であり、街道の宿場町としての役割に近い。


 ……故に一人なのだ。

 一般的にそれは防衛を任された…と言うにはほど遠く、斥候に近い戦力だ。


「でさぁ、騎士団も出せないんだって。まぁ、王都とダルカンダの防衛に忙しいのは分かるけどね…」

『相変わらず無茶苦茶ね』

『でも信頼されてるって事じゃないかな~?ボクはいいと思うよ!』

「オーク・聖騎士連合でやっと撃退、しかも今回の相手は赤龍フェニキアさんが取り逃がしたんだぞ?無茶・無理・無謀」

『ははは…そうかもね。わっと…あー!』

『これ通信機?ミミも使う!こんにちはー!』

「『こんにちはー』」


 魔血衆ミミがレナードの通信機に割り込んできた。

 今はその魔血衆の一人と戦うのに苦心している話なんだが…


「ミルキーファームって強いのか?」

『あのねあのね……』

「おう」

『誰それ?!』

『えーっ!?ミミって魔血衆じゃないの!?もしかして下っ端??』

『違うよー!そんなヤツ居なかったよ!?』

「悪い、名前を変えたんだった。元の名前は確か……コルモスだ」


 その名前を聞いてミミのふざけた態度が一変した。


『ユウキ、死ぬよ』

「そこまでか?」

『魔族の中でも長寿って言う事は、強いなんてもんじゃないよ』


 俺は空を見て、密林の木々を、そして大地の裂け目を見た。

 空は青く生い茂る緑は爽やかで、春の陽光を一杯に浴びていた。


「ここが俺の最終防衛ラインだ。ダルカンダには弟子のザックやお世話になった人達がたくさん居る」

『…コルモスは……火属性の砲撃を得意としてる。でもそれは副次効果で本来の力は鉄壁の防御』

「あぁ、フェニキアから聞いてる。なんたってフェニキアの一撃に耐えたんだと」

『はぁ!?赤龍の攻撃に耐えた!?』

「んー、その辺はどうだろうな」


 まぁ通常そういう反応だよな。

 俺も本気の真龍の一撃に耐えられるか…またはそれと同等以上の火力なんて出せる自信がない。

 もしそれが本当なら、戦闘に関してはコルモス…いや、ミルキーファームは最強だろうな。


 だけど、フェニキアとの戦闘については少し引っかかる部分もあった。


「善処するよ。《点穴》で魔族の魔力が見えてるからさ…明日には来るんじゃないかな」

『死なないでね…』

「アリサ……首が飛んだ奴の言うセリフか?」

『もうバカ!』


『僕が言うのも何だけど、君の力を信じているよ』

「おう、負けねぇぞ相棒…いや英雄か?」

『はははっ…相棒の方が良いかな?』


『ボクは待ってるからね?ユウキと歩ける日を』

「ルインは死ぬみたいに言うな!大丈夫だ任せろ」


 通信を終えると大きく息を吐いた。

 仲間からの激励は貰ったし戦うだけだ。俺はフェニキアから譲り受けた籠手の感触を確かめる。


 本当はグライスから貰った金獅子のナックルの方が良かったのだが、破損しているので仕方がない。


 その日の晩は不思議とよく眠れたと思う。

 なんて言うか、落ち着いていたのかもしれない。



 微睡に任せて静かな時間を過ごした。

 意識を僅かに手放すと、黄金に輝く懐かしい景色が広がる。


 そこは生まれ故郷サウスホープ。

 そよ風の小波(さざなみ)の中を歩いていると、背丈よりやや小さい穂から遠くに子供の姿が見える。


 それは幼き日の友人。

 彼らは手を振るが、一向にその距離を縮めることができなかった。


「ガラス…アリサ……はぁはぁ…待ってよ!僕はまだ魔法が……」


 影は立ち止まり、振り返って口元を覆い何かを告げた。

 一体何を言っているのだろうか?


 全く聞き取ることができない。


 すると突然強風が吹き顔を顰めた。そして再び目を開けると父と母の姿が見えた。


「大丈夫かユウキ?」

「ユウキちゃんは元気だけど、おっちょこちょいだからねぇ」

「お父さん?お母さん??あれ、二人は?」

「うん?友達なら先に行ったよ。さぁ、遅れないように行こう」


 父はそう言って手を繋ぎ歩き始めた。

 なんで綺麗な景色なんだろう。黄金の麦が畦道(あぜみち)を隠すが、構わず突き進む。


「さぁユウキちゃん、あと少しよ。頑張って」

「お母さんどこ?お父さん??」

「ユウキ!進め!!必ず、前を見て進むんだ、迷った時は……」

「なに!迷ったらどうするの!!」

「お前の一番したい事をするんだ!!」


 風で揺れる麦を避けながら前に進むと、俺の両手を誰かの手を掴んだ。


「ユウキ、こっちよ」

「ったく。しっかりしろよなユウキ!」


 わぁ!


「アリサ…ガラス君!」


二人を丘の上に捉えて全速力で走り出した。

もうその手を離すまいと、三人は両手を突き出し…


あと少しで指が触れる……!


「おはよう諸君!心地よい眠りを妨げて申し訳ない。私は魔血衆ミルキーファームだ」


 俺は小屋の木壁を見て、耳に響く声が何を言っているのか理解し始めた。


「十分後に攻撃を開始するから非戦闘員は逃げるように」


 魔法で拡張した声に脳が覚醒していく。

 だが攻撃猶予を与えるなど律儀な奴だと感心する一方で、それだけの自信があるのだ。


「ほんと最悪のタイミング…」


 俺は空を切った指に視線を向け、微かに覚えがある二人の顔を思い出しながらベッドから這い降りた。


 そして直ぐに支度して外に飛び出すと欠伸を一つ。


「ほんと最悪なタイミングだな…早すぎないか?」

「ん?なんだ貴様は」

「敵…かな」

「そうか」


 そう言ってミルキーファームは俺に向けて両肩の砲門から射出した。


 ズガアアァァァァァァン!


 凄まじい衝撃が襲い掛かり、木製の看板『ようこそイーストホープ』が吹き飛び舞い散った。

 その土煙が舞い上がる中、魔力風が周囲に漂い出す。


「短気だな」

「ほう…この間の女と同じ…ではないな」

「なんだって?」


 《点穴》を持っていないのに、魔力の事が詳細に分かるのか?


「不思議そうな顔だな。戦いの中に身を置くと自然と分かるようになるのだ」


 超感覚……!

 そんな物、普通は死ぬような状況に置かれなければ体得する事さえ叶わない。


 だがミルキーファームにとっては、そんな些細な事などどうでも良い。ただ目の前の障害を排除し、魔王の命令を遂行するために動くだけだ。


 その先にある自らの野望を叶えるため、彼は協力して最短のルートを通る。


「パージ!」


 ミルキーファームはその重厚な鎧を脱ぎ捨てた。




前話の後書きに戦跡図を追記しました。

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