人魔戦争~希望ヶ丘の戦い(3)
未知なる物が近づく恐怖は、生物が持つ本来の生存本能である。
恐怖心が働き、動かけない、逃げると言ったことは全て生きるために繋がっているのだ。
「くっ来る…な!来るな来るな!そっち行きーや!」
だがレクサスはその歩みを止めない。
リザードマンの本能が相手をすり潰すやり方を知っている。
「我らは、なぜ…他の種族より個体数が少ないと思う?」
「弱いからや…。弱者は強者に虐げられて住処を失い、やがて種は滅びるんや」
レクサスは二本の槍を構え、蝕指を破砕しながら魔力を蓄積させていく。
「違う、我らが……」
ズガァァァァン!!
一際大きい幹のように太くした蝕指がレクサスに襲い掛かり、地を抉った衝撃で煙が立ち昇る。
だが爬虫類が二足歩行を経て進化した生物はこの程度では潰えない。
土煙は吹き飛ばされ、そこから露わになる畏怖の象徴。
四つの眼光。
「最強種であるが故だ」
レクサスの偉容なる雄姿。
そして凄まじい威圧は、魔力とかそんな類ではなく『こいつらに手を出しちゃいけなかった』と、そう思わせた。
「ぁぁぁああああ!こんな所で!!」
「どんな自信のある攻撃だろうが、そんな自尊心ごと裁断してやる」
奥義《神眼の軌跡》
レクサスの動きは眼で追うことなど不可能。
そしてハウレストの攻撃も目で追う事など不可能。
地から伸びた蝕指は大小さまざまで、その攻撃はとても予測など出来た物ではなかった。
魔力の残滓を予測して攻撃を回避するユウキならば、その圧倒的な物量で意味を為さなかったかもしれない。
だがレクサスは違う。
生来の動体視力にて全てを完璧に見据えて避ける。
しかも回避不能な場所では強靭な鱗を用いて弾き返し、ノーダメージで発動者に突っ込むのだ。
ハウレストは恐怖に目を細め、そして…口角を上げた。
「あぁ…」
《フラワーブロー》
蝕指の中央、つまりハウレストの後方に巨大な漆黒の花が咲き誇り、吸引した魔力を花弁から一気に放出した。
漆黒の魔力風がその全てを吹き飛ばさんと、レクサスに襲い掛かる。
「うぉ!ぐおおおおおおおおおお!!」
レクサスは両の手に持つ槍を高速回転させて前方に魔法障壁を展開する。
互いに衝突した魔力の塊は空気の摩擦にて雷光を発生させ、周囲に轟音となって降り注ぐ。
レクサスはハウレストの猛攻をしのぎ切り、槍を前に突き出し最終宣告を行った。
「我らの領地は……このレクサスがいる限り渡さん!」
「レクサス…」
ノーデストは自らの負傷を見て、強く育った若き力に安堵を覚えると共に嬉しさが込み上げてきた。
一時は若い声に感化されてゴブリンと戦争だの、年配の意見を無視して突っ走り不安を覚える事もあった。
だが、素質が開花した王は年齢問わず立派な王である。
それもあの人族の青年と出会ったからであろうとノーデストは感じていた。
しかしあと一歩と言う所で、突然ハウレストの周囲に巨大な魔法陣が展開されて周囲の魔力を吸収し始めた。
「なに!?まだ手があるのか!」
「うふふ…またお会いしましょ。レクサス王」
ハウレストはニコリとしてレクサスに別れを告げた。
魔法陣は光を発してハウレストを包み込むと、一気にすべての痕跡が消えてなくなる。
遥か彼方、北の大地にてノイントが魔王カイラスからの命令を受け、遠距離通信用魔道具を介して転移魔法陣を起動させたのだ。
リザードマンは一先ず防衛に成功したものの、攻勢も本腰ではなく逃亡されているため、煮え切らない思いが募るばかりであった。
「ノーデスト、お主は休みこの地を守ってくれ」
その言葉に以前ならば反論の一つでもしたであろうノーデストだったが、今回は素直にそれを聞き入れた。
そして真の王に対して忠誠を示した。
「王の御心のままに。後方はご安心くだされ」
「頼む。信頼するお主にしか託せぬ」
レクサスは通信用魔道具にて皇帝に神無砦へ向かう事を伝えると、帝国側も魔血衆ミルキーファームと戦って防衛に成功した事を聞いた。
いずれも取り逃がした状況で恐らく王都側に対して侵攻すると考えられたが、そこで獣士として人族と合流する事を決意する。
レクサスは同族間で繋がる特殊な音波を用いて、今後の動きを全員に通達した。
『これより我は神無砦に向かい人族と合流、魔族を討つ!血気盛んな勇者は付いて参れ!』
こうして集まったリザードマンの軍勢は100に満たない。
だが最強種の精鋭が100人と言うのは、戦力として十二分であると言えた。