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人魔戦争~神無砦の戦い(4)

 フェニキアは物音がした方向を振り返ると、ありえない物を見つけてしまった。


 それは全身をカメのように丸めて生き永らえた生物。


「これほどとは…魔血衆!!」


 ミルキーファームの固有血技、《ブレイブリーアーマー》。


 全身を覆う鎧は堅固な守りとなり、超強力な遠隔攻撃能力を持つ非常に強力な固有血技。

 だがしかし、発動している間は常に魔力を消費するデメリットがある。

 つまり寝ている間も常に魔力を消耗しているのだ。


 まさに悪魔の能力と言える固有血技だが、このデメリットのせいで尖った能力となり十全に扱える者はそう多くない。

 ミルキーファームだからこそ、この固有血技が強いと言えるのだ。


「あぁ…久方ぶりに受けた……良き心地」


 直線上にいた魔族はミルキーファームを除いて壊滅していた。

 全体で見れば、まだ半数ほどの魔族が残っている。

 しかし彼がこの地に一人居れば戦力は十分であると、焦土が物語っている。


「安心したまえ、魔血衆と言えどこれを受けられるのは私だけだ」

「ならば貴方を倒せば勝利ですわ」


 チッチッチッ…


 ミルキーファームは指を立てて左右に振ると、その勝利条件が間違っていると指摘した。


「魔王はもっと強い。そして…自然の命を弄んだ蛮行は……万死に値する!!」


 ミルキーファームの周囲に凄まじい魔力が放出され、魔力風によって土埃が舞い上がっていく。


「えぇッ!その言い草じゃ私が悪者みたいじゃないの!」

「違うのか?生命の破壊者よ!」


 ミルキーファームが両手を左右に力強く押し出すと、先ほどまで視界を遮っていた砂竜巻は消え去り、巻き上げた土は地面へと落下を始める。


 巻き上げた総量が凄まじく、雹が降り始めたのかと思う程の轟音を周囲に響かせた。


 それと同時に大地に日の陰りを見せ始める。

 雲が出てきたかと思えばそうではない。何故なら雲はフェニキアが全て吹き飛ばしたからだ。


 晴天に差し込む陰りに皆が上空を見る。そして絶望するのだ。


 ある者は逃げ場などないのに逃げようとする。

 ある者は破壊を試みようとする。


 それは生物が持つ生存本能だから、無意味だと咎めようがない。


 《幻想城塞》


 ミルキーファームの固有血技、《ブレイブリーアーマー》の最狂なる攻撃技。

 先ほどの小型自走砲を限りなく巨大化した自動攻撃要塞。


「ハッハー!私の魔力が尽きようとも、あの城塞はこの地に死の雨を降らせようぞ!」

「馬鹿なことを…」

「何が馬鹿か…私はいつだって本気さ。夢を追う事が悪であると言うなら別だがな」

「あんな高火力城塞で焼け野原にしたら、私と同じですわよ…?」


 先ほど私の事を破壊者とか罵っておきながら、自らが無差別に攻撃しては自然の破壊者の汚名は返納せざるを得ない。


 肥沃な大地を破壊しては農地が確保できない。それはミルキーファームが望むところではなかったはずだ。


「アッ…?馬鹿な!」

「だから馬鹿だと言ったでしょう!」

「ふふふっ…かくなる上は草木を守るぞ!」


 ふざけているようで笑えない事をやってのけるミルキーファーム。

 その魔法障壁は戦場となっている全ての草木を埋め尽くし、本当の意味で美しい大自然を守ろうとしている。


 そして《ブレイブリーアーマー》の真価は護りにこそある。


「どうだ!これが…ミルキーファーム様の実力だ」

「まだまだね、この地に根差す愛すべき生命は私達も同じはずよ?」


 ミルキーファームは完全に意表を突かれた。

 魔族にとって他者は敵であり、同盟相手であっても味方ではない。

 人族の考えは人生において一度も考えたことがなかった。


「なるほど…ではお前達も愛でようではないか」


 《黄金の華冠》


 ミルキーファームを覆う強固な鎧は分解し、代わりに生きとし生けるもの全てに障壁の恩恵をもたらす。


「さぁ、解放しよう…私の全てを!!」


 上空に鎮座した《幻想城塞》。

 そのすべての砲身が大地へと照準を合わせ破壊の限りを尽くそうとしていた。


 固有血技の発動者であるミルキーファームでさえ、止めることはもうできない。


 ズダン…ズダン!

 ズガガガガッガッガ!!


 巨砲から発せられる手法は大地を抉り、炎は地を焦がす。

 細かく圧縮した魔力の塊が雨のように降り注ぎ、衝突と同時に石や岩の塊がさく裂する。


 回避の手段など皆無だ。

 凄まじい砲火が鳴りを潜めるのに要した時間は3分程度だった。



 通常であれば、その間に残る生物はなど存在しないが今回は違う。

 全員が生き残っているのだ。


 だがしかし見当たらない人物がいた。技の発動者であるミルキーファームと魔王軍があの集中砲火で消え去っていた。


「どうなっている…フェニキア!奴らは!」

「…逃げましたわ。恐らく魔力切れ」


 凄まじい死の嵐を浴びせた《幻想城塞》と、鉄壁の守護である《黄金の華冠》を同時に発動したのだ。

 通常であれば不発に終わるほどの魔力量を消費しているはず。


 その状態で高速移動して逃げ去ったミルキーファームは、計り知れない力を持っていると言っても過言ではなかった。


「一先ず神無砦の防衛には成功しましたわ。私達の勝利です!」


 この勝鬨(かちどき)(せき)を切ったかのように歓声があがり、安堵した空気が生まれた。

 だがいつまたミルキーファームが攻め込むかも分からない状況。


 そう易々と安全宣言は下せない状況であるのだが、それを許してくれる人物がいた。


「お姉さま!やっぱりお姉さまは私のお姉さまですわ!」


 そう言ってソフィアはフェニキアに抱き着いた。

 フェニキアもソフィアの頭を撫でて、一先ず護れた目の前の宝に自画自賛をする事に決めたのだった。


「私がいる限り安心なさい。そしてその(かいな)を天高く舞い上げよ!」


 ワアァァーーーーー!


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 神無砦の戦い(魔血衆ミルキーファーム(コルモス)vs帝国軍)

 勝者:フェニキア(ゾディアック帝国)

 魔族:半壊、魔力切れにて逃亡

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