人魔戦争~神無砦の戦い(3)
大将首を獲りに来る冒険者や帝国兵は多く、血気盛んな土地柄なのがわかった。
だが重厚な鎧を装備するミルキーファームに反して、動かずして自走砲が全てを焼き払う。
「獲った!ぐはぁああ!」
自走砲の合間を潜り抜けて来た者はいたが両断されて地に伏せる。
ミルキーファームはその手に持つ超高圧縮した炎剣をつまらなさそうに振った。
「近接なら勝てると?私の炎剣は鉄をも瞬時に蒸発させるぞ」
「厄介ですわね。お父様もういいかしら?」
皇帝はフェニキアに言われて頷いた。
できればフェニキアを出さずに帝国兵だけで勝利したかったのだが、それも叶わないと判断したのだろう。
皇帝の十八番である《重力》も効かず、相手が得意とする遠距離戦を避けても炎剣で蒸発させられる。
彼女の申し出を断る理由がなくなってしまったのだ。
フェニキアは舌なめずりをしてミルキーファームへと告げる。
「やっと約束が果たせますわ。さぁ地を這い、許しを請いなさい」
「クククッ…それはない」
ー!?
フェニキアが炎に包まれるとミルキーファームの眼前に一瞬で移動した。
その速度は凄まじく目で追える者は一人もいなかった。
そして直線状に延びる焔の残滓は、彼女が通過した事を物語っていた。
「クッ!」
自走砲が反応してフェニキアに襲撃を仕掛けるも、全て流れるように避け続けた。
それは美しく舞い踊るバレリーナに近い。
続けざまに全ての熱線を躱し、時に炎で捻じ曲げて別の魔族へと当てる。
《狂想炎舞》
「見惚れなさい」
手から炎が噴き出し、ミルキーファームの炎剣を素手で掴むと顔面を蹴りぬいた。
「ぐがぁぁ!ふぐっぁぁぁぁぁああああ!!」
ミルキーファームは何百年とこのようなダメージを受けたことがなかった。
それは痛みを通り越して屈辱。
だが眼前の少女が織りなす炎はまるで鳥のようであり、美しい羽を広げた雄姿だった。
「私は特異な存在である真龍の中でも、唯一羽毛がありますの」
フェニキアは目の前にビー玉サイズの球体を展開し、双方の間に定着させる。
「なにゴチャゴチャと。消え失せろ!」
《黄金の炎砲》
ミルキーファームの両肩から射出された炎弾と自走砲による熱線がフェニキアを襲い勝利を確信した。
だが眼前に広がる光景にミルキーファームは目を疑った。
フェニキアが射出した球体。
今、ミルキーファームが放った全ての攻撃がそこへ吸い込まれて無に帰したのだ。
それは超巨大な恒星が自らの質量さえも飲み込み、終生を迎えた先に起きる超現象。
周囲の光さえも飲み込むほどの究極の自然現象であり、常闇に隠れ潜む悪魔の心臓。
《ブラックホール》
《ブラックホール》は先ほどから周囲の魔力をも吸い込み始めていたのだ。それは敵味方の区別なんてつく様な代物ではない。
「どちらが先に尽きると言うのか?」
「私の総量を凌駕するとでも?甘いですわ」
「ふん、俺は魔族の中で最も総量が多いと自負している。自滅しろ!」
ミルキーファームはフェニキアの瞳を見た瞬間、背筋から頭の先まで突き抜ける何かを感じた。
それは恐怖であったのだが、産まれて初めて感じた感情であった。
「わたくしを誰と心得る。四神聖獣が一柱、赤龍なるぞ」
瞳孔は猫眼のよう広がり、魔力を帯びて激しく緋色へと変化していく。
真紅の瞳は赤龍への覚醒の証。
「なんだその眼は…!」
「これが私ですわ」
《赤龍の咆哮》
クアアアアアアアアァァァァ!!
フェニキアから発せられた凄まじい魔力の波が周囲を襲い、その声に恐怖し耳を押さえ込む。
真龍の咆哮はこの世界に生きる者全てに恐怖と絶望を与えるが、それは魔族であれど例外ではないのだ。
「吸い込む超重力が発生するという事は、必ず同程度の反力…つまり放出力が生じます。さぁ消えなさい」
《ホワイトホール》
《終焔の息吹》
咆哮により周囲が熱波で満たされた瞬間、《ブラックホール》にて吸収した全魔力を一方向に向けて放出する。
そこに赤龍が放つ熱波ブレスを加えた、超強力な破壊の渦を引き起こす複合技であった。
「ふぅ、ああああああぁぁぁぁ!!」
誰にも止める事ができない融解と破壊と衝撃は、ミルキーファームと周囲の魔族を飲み込み吹き飛ばす。
発動を起点として前方には大地が抉れ、山々は初めから平地であったように錯覚してしまうほどに、とても生物の生存は望めない状態となっていた。
「ふぅ、お父様終わりましたわ…?あらあら」
神無砦の方へと振り返ると、皇帝以下全ての人が耳を抑えて地に伏せていた。
咆哮の影響は強大で、すべからく恐怖していたのだ。
ただ一人を除いては。
「すっごいわ!さすがフェニキアお姉さま!!」
(この子どうなっているのかしら?生来の耐性??…ん~)
ボコボコ……




