人魔戦争~神無砦の戦い(2)
コルモスの素顔は端正な顔立ちで、その身を晒して出歩けば黄色い声が聞こえそうであった。
そして神無砦の人族が見える位置まで、一瞬にして移動する。
兜を抜いでもまだ重厚な鎧は着用いているのだが、そんなものは関係ないほどの膂力。
そして皇帝の前に立つと、右足を前に出して威嚇しながら告げた。
「私は魔族であり、一握りの存在である魔血衆コル…ミルキーファアァァアアムッ!」
がっつりと決めポーズをして戦場となる最前線にて名乗りを上げた。
その姿に一同は目を見開き、ここが戦場である事をしばし忘却の彼方へと誘われる。
「むッ…コルモス様、なぜミルキーファームなのですか?」
同族からも声をかけられて振り向くと、ニコリとスマイルを浮かび上がらせ質問に答える。
「私は今日からミルキーファーム!あの素晴らしい果実を栽培し、産み出す生産者となるのだ!!」
コルモスを知らない人物が偽名で紹介されても分からない。
敵であるがため情報は正しく取り扱わないと命とりに成りかねないから、馬鹿だと一蹴する事もできないのだ。
しかし、茶番劇を披露されては心身共に疲れ切ってしまう。
折角フェニキアが神無砦まで転移魔法陣で移動させてくれたのに意味がなくなってしまう。
「我はゾディアック皇帝である。魔族よ、侵略者に対して排除を以って応えようぞ」
「この地には甘くて赤い果実が生る!私は…それが食べたい!」
ー……??
「我は…」
「この饒舌にて、甘美に酔い痴れたいッ!!」
「お父様……ダメだわ」
言葉は分かるのだが、理解の及ばない相手を目の前にして完全に出鼻を挫かれてしまっている。
そんな皇帝に変わってフェニキアが対話を試みる。
「確かに甘美なる果実がありますわ。でも今は関係ないでしょう?」
「関係あるッ!それは私の…儚い夢の始まり……」
「ミルキー様!ここに赤い果実が!」
「ぬぁんだとぅ!!」
その場に生い茂る謎の果実を手に取り、コルモスもといミルキーファームはゴクリと喉を鳴らした。
それは甘美などとは程遠い草木の実だ。味などするはずもない。
口に入れた瞬間に昨日とは全く異なる味。
無味であり口の中がカラカラに干上がっていく。ミルキーファームから徐々に感情が失われていくのが良く分かった。
「消し飛べ…黄金の炎砲」
実を指し示した魔族は、その強力な熱波により存在していた事さえ分からなくされた。
「貴様らを消して、私がこの地を統べよう!」
「ふん、ミルキーファームとやら、大事なものが落ちたぞ?」
「なに!?」
ミルキーファームが足元を見た瞬間、頭から地面に激突した。
下を向いたタイミングで皇帝が《重力》を操作し、ミルキーファームを頭から突っ込ませたのだ。
「ハハハハハッ!傑作だな!!魔族とはかくも道化の才能があるわ」
これには帝国兵も笑わずにいられなかった。
だが笑い声は他方…魔族からも発せられた。
「ギャハハハ!ミルキィさま直滑降!」
ガハハハハ!
《破滅の天球》
ミルキーファームは頭が地面に刺さったまま、全身から砲塔を突き出し射出した。
それは敵味方構った物ではない。
ギャーーーーー!
どこから上がった悲鳴か、だが強固な魔法障壁に護られた神無砦にダメージはない。
ミルキーファームは何も言わず土から頭を出し、歩き出す。
徐々に踏み込む足は大地へとめり込むが、そんな事など気にも留めない。
《重力》の影響を受けているのに膂力が勝っているのだ。
「貴様らには俺が味わった屈辱と魔力をくれてやる。去ねぇぇぇぇ!」
黄金の炎砲
ズガーーーーーン!!
両肩から放たれた炎の魔力の塊が神無砦へと襲来し、フェニキアも含めて発動した魔法障壁はいとも容易く破壊されてしまった。
その光景はあまりにも衝撃的であり、そして誰も予想しなかった初撃での崩壊。
これを合図として魔族側は神無砦へと一斉に攻撃を開始した。
《超高熱自走砲》射出
ミルキーファームの周囲を6個の自走砲が飛び回り、周囲へと展開される。
すぐに皇帝は《重力》にて自走砲の落下を試みるが、そんな物は関係ないとばかりに無視して飛び続けている。
「なぜ落ちん!」
「重くて飛ばないなら最初から飛びません!」
皇帝の悪態にミルキーファ―ムは華麗に返答した。
風魔法と魔力をコントロールして飛ばしているのだが、人族が考えるそれとは全く違う次元の魔力量を制御しているのだ。
人族に《重力》を使って有効だからと言って、魔血衆に対して有効かは別問題なのだ。




