人魔戦争 〜聖都防衛戦〜(6)
ガーミランが持つ《轟搥》という武器には3つの特殊な効果があった。
一つ、《雷電》の中継と魔力増幅効果。
二つ、投げた《轟搥》は必ず手元に戻る。
三つ、その大きさと質量を自由に変えることができる。
この二つ目の効果によって、投擲した《轟鎚》がアリサの作った氷塊で弾かれた後、氷漬けにされたガーミランの元に帰ってきたのだ。
そして最後の効果でその真価を発揮する。
「《雷電》ガ奥義…」
《秘奥・雷霆》
カリカリ…バリバリバリッ!
空気を引き裂く凄まじい雷鳴と共に、目標へ突き進む雷光。
一瞬にして空気を膨張させ、本来絶縁体である空気を引き裂き進む稲妻。
その温度は摂氏3万℃にも達し、あらゆる物を融解させ塵も残さない威力となる。
ガーミランらしく、そして最終奥義の名に相応しい。
…圧倒的破壊力!
アリサは顔色も変えずに、ただやるべき事をやる。
(死地は乗り越えた。私にできることは子供を泣かさないことだけ)
前面に多重魔法陣を直線的に展開し、《融和の小窓》を幾重にも重ねて《雷霆》を受け止める。
その魔法陣から氷の結晶は吹き荒れ、固有血技の防御も併せている。
「艶美なる蒼海に召されよ」
《奥義・ブライクニル》
アリサからゆったりと冷気が渦を巻いて地表へと降り立つ。
地表は少しずつ凍り、美しい結晶が舞いながら円形状に広がっていく。
それは自然界における現象の上位に位置するパワーを秘めた一撃であり、奥義の名に恥じない。
油断して好奇の眼差しに触れたものを、徐々に浸食凍結させる死の渦だ。
「なンだ!?堕チろ!ガアアアアアアアアア!!」
《融和の小窓》が音を立てて破壊されていく。
だが徐々に近づく《雷霆》に対し《ブライクニル》が接触した瞬間…
全てが凍る。
そこに《雷霆》の破壊的衝撃が、形を保ったまま凍っていく。
触れた瞬間に伝播し、ガーミランと轟搥はその姿勢のまま凍り付く。
「…サイッ……コォ」
《氷華爆砕》
パチンッ!
右手で指を弾くと《ブライクニル》で氷結したあらゆる物が業火に包まれ、破砕されていく。
「もう、涙を流さないで…」
アリサは燃え盛る業火に氷が舞い踊り、天使の羽衣を着飾った美しさを魅せた。
それを見た聖都の信者は、自然と地に膝をついて額に両の手を乗せ祈りを捧げた。
「ママ…女神様が来てくれたよ…」
「そうね…女神様は護ってくださったわ!」
「雹炎の女神様…」
「おぉ…」
アリサはこの事に気が付いていなかった。
ただ相対し、命を懸けて戦ったガーミランに敬意を表していた。
「皆生きよ…なんで話し合わないの?もうやめよぅよ…?」
その言葉を聞き姿を見た魔族は、自然と戦意を失い武器をその手から落とした。
アリサは戦場となった大地へと両足をつけると、安心感からか固有血技が解除された。
まだうまくコントロール出来ていないのだ。
(まずいまずい…ヤバイ!)
「わぉ…ヌーディスト」
「やだぁ!ルイン助けて…服がぁ~」
ドスドスドス…
「お嬢!」
そこへ勝利した嬉しさからグロッサムが満面の笑みを浮かべ、手を振りながらアリサ達の方へと駆け寄ってくる。
その巨躯において、その行動は些か恐怖を覚える物があった。
「来ちゃダメェェェェ!!」
ズザァァァ!
グロッサムの足が凍りつき、凄まじい勢いで大地へ愛のキスをカマス事になってしまった。
3mの巨躯が走っている最中に、である。
「えっ!固有血技って感情でも発動するの!?」
「その威力でコントロールできないってヤバイね…アリサ」
「グロッサムさん!ごめんね!」
アリサは焦って氷の服を作ると、グロッサムを介抱に走った。
「勝っちゃうんだから凄いなぁ…ボクが守って貰う立場かな?」
“異様な事を言うな?我等は負けない”
「でもこの刃はね、届かなかったよ…」
“深淵は深いから深淵なのだ。ユウキは気がついたようだが、まだまだ我の力を引き出せる”
「それはボクの実力じゃないよね?」
“ならばユウキも弱者か?”
「違う…と思う。ユウキは何処までも高みに行ける。そんな気がする」
“ならば成就してみせよ。これが我から言える最大の温情である”
「…ごめんね。アリサァァァアアア!心配かけて、このぅ」
ルインはアリサに向かって走っていき、背中から抱きしめた。
ユウキに言われたからとかそんなのじゃなくて、アリサはボクの一部であって居なくなったら嫌だ。
「若き力に助けられたな。ワシらも成長する必要がある様じゃ」
「はい、不甲斐ない事この上ありません」
肩を落とすコロミナ聖騎士長に向かって教皇は微笑みかける。
彼らは彼らで生死をかけ、魔族軍の侵攻を一手に引き受けて守り抜いた。
その意志は強く、誰よりも崇高であったと言える。
「背を見よ、我等が誇りたる美麗を映し見よ」
コロミナは言われて後ろを振り向くと、そこには笑顔を向ける人達で溢れかえっていた。
「ガーミランの他にも強大な脅威はおった。それを全て阻止したのはオークと、そして聖騎士の力と言えよう」
「しかし、あの子達がいなければ…」
コロミナの言葉を教皇はピシリと遮る。
「誇ってよい。いま己が課す最大の責務じゃ」
コロミナはその場で槍を高く掲げた。
飛んでくるのは罵声か?卵か?石か?
パチパチパチ……
そんな者はいない。
一人がする拍手は、やがて大きなうねりと鳴って喝采へと変わる。
「「聖騎士様ありがとう!」」
それを満足そうに見守っていた教皇は聖騎士長に告げた。
「時に男の涙もいいものじゃ」
「はい…」
『諸君、よく耐えた。神は強大なる友人を呼び、“雹炎の女神様”によって我等に勝利を導いてくれた。
じゃが不用意に魔族を罰するのは、神がお許しにならぬ。良き生活が戻る事を…』
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聖都防衛戦(魔血衆ガーミランvs聖都・オーク連合)
勝者:聖都・オーク連合
魔族戦意喪失、魔血衆ガーミラン粉砕死亡
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