人魔戦争 〜聖都防衛戦〜(4)
ガーミランは首と胴体が繋がっている限り “こいつは何かをする” と感じていた。
こんな相手は一人しか知らない。
それは魔王カイラスだ。
カイラスの前では赤子同然に捻り遊ばれ、どんな負傷も回復してカウンターを仕掛けてくる。
だがそれは別の話で、それを20歳前の少女に感じていたのだ。内心では冷や汗が出て止まらなかった。
ガーミランはブルっと体を震わせると辺りを見回した。
「冷えるナ。こんな強者達に出会えて俺は幸せだ……なぁ、グロッサム、ルイン、そしてアリサよ」
アリサは返事をできない。
首が飛んだ彼女に返事をできるはずがないのだ。
「ふ…ふざけるな……アリサは……アリサ…ふッ、ふぅざけるなぁ!!!」
パンッ!
周囲は一気に霧が立ち込め、1メートル先も見えない状態となる。
ガーミランは周囲から飛来する高水圧の水流と、高圧水球を斧で弾きながらルインを探す。
チリチリ……
「無駄ダ、ルイン!俺にそれはもう効かない!」
「お前は生きてちゃいけない!」
「ハッ?!なぜ雷が効かん!?ソコかぁ!」
ガーミランは大斧を一閃して両断した手応えを得た。
雷によって動けなくし、ルインを切断したのだ。
「良きかナ…」
「なんで…アリサ……ユウキ…」
残すはグロッサムと教皇だが、教皇は勝手に力尽きグロッサムも今や敵でない。
コツコツ……
「む?誰だ?…カ、カイラス様!?」
その場で跪きガーミランは忠誠を示す。
例えそこが戦場であれ、神経を尖らせておけばその程度は造作もない。
それをできるのが魔王と魔血衆だ。
「あと一息か、良くやった」
「恐れ多くも…」
ダンッ!
カイラスの大剣の一撃によって、大地が抉れて凄まじい突風を織りなす。
「何をなさいます?」
「悔恨は捨てられぬ。故にその身に差し戻すまで…」
ガーミランは一歩下がったところで、水球に吹き飛ばされて大きく仰反ると悪態をついた。
「グガッ!おのれ…オノレ!!よくもカイラス様に擬態しおったな!」
ガーミランは戦闘が始まってから、最も強力な電撃を発した。
「アリサは、帰らないから!!」
「うるさい!効かぬハズなかろう!」
ルインは水球でガーミランの電撃を弾き飛ばし、霧によって阻害する。
《貪欲なる霧》
電気は不純物を介して水の中を流れていく。
つまり、不純物を取り除いた水は純水と呼ばれ、その程度によって超純水・理論純粋へと名を変える。
そしてルインの使った技の超純水は絶縁性で言えば申し分ない。
それを全周囲に発生させれば、電気を通さない空間を作り出すことができる。
《漆黒の短剣》
「ガーミラン、その首差し出せぇぇぇ!!」
「漆黒ノ瞳ーッ?!」
ガーミランは首を大斧でガードするも、その大斧ごと切断して斬られた。
「ヌガアァァァ!!」
チリチリ…
雷光を残し、その場に静けさが漂う。
ルインは苦々しげにその顔を見ると、再度霧に隠れる。
「《サイレントミスト》はお前が死ぬまで消えない!」
ガーミランも己の武器を失い、ギリギリの所で命の線を切られるとこであった。
それは命の駆け引き。
ガーミランが望んだものであった。
「良キ!憎しみを超えて愛ヲ感じるぞ!!」
「ふざけるな!アリサは…アリサはッ!!」
ガーミランは懐から片手で納まる小槌を取り出すと、それを天高く放り投げ、思いっきり大地を殴りつけた。
《アースブレイカー》
ルインの《貪欲なる霧》はその名が示す通り、発生直後は超純水により一定空間を絶縁にすることが出来る。
しかし性質上、大気に舞った不純物を貪欲に吸収してしまうので、通電性を有する霧へと変わっていってしまう。
「天地を引き裂け!」
《轟搥》
小槌を通じて魔力が増幅され、一気に放電を開始する。
しかし魔力の動きを精細に読めないルインには、何が起きているかよく分からない。
(ユウキは魔力の塊で守ってた…黒龍もできるはず!)
ルインはユウキが見せた技を発動させる事にした。ユウキと違って魔力の流れが見えず、時間が取られてしまうが出来ないことはない…はず。
「間に合え…間に合って……いや、間に合わせる!!」
《漆黒のヴェール》
ルインから迸る漆黒の魔力が尾を引き翼を形成していく。
「鉄槌に焦がレろぉぉぉ!!」
電気が霧を伝いルインへと迫る。
パキッ!
目を瞑り両手を前に出したまま数秒の時間が経過したが、依然として何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、そこには不思議な光景が広がっていた。
周囲の霧が氷の粒となり、雷の進行を阻害したのだ。
ルインの固有血技が変わったのではない。
何が起きたのか分からなかったが、この機を逃してはまずい!
漆黒の魔力を増幅させ、自らの全魔力を合わせガーミランに照準を合わせる。
ルインからは紺碧色に輝く蕾が膨らみ、そしてガーミランに向けて高圧縮の水流を解き放った。
それはミスト分身から3方向より奏でる浄化の力。
《無限の可能性》
「うあぁぁぁぁぁ!!」
ガーミランは《轟搥》を回収し、即座に魔力をその手に集めて全放出した。
「なっ!」
「ナに!」
相殺。
ガーミランもカウンターの一撃を狙ったのに、相殺で終わってしまったのだ。
だがルインの状態は芳しくなく、継戦能力は不可能と理解できた。
「流石に燃料切れか?……強者よ」
「はぁはぁ…まだ、まだだ!」
聖騎士、グロッサム、ルイン、アリサと戦い、長期戦となっているのに、ガーミランの魔力は底なしに増幅を続ける。
「バケモノが…アリサに手向ができないや……」
「まだ諦めたらダメだよ。ルイン」
えっ?
その声はよく知った声。
でもその声が聞こえることは、もう二度とないはずだった。
「なん…っで!」
ガーミランがその巨体を後ろに下げた。
たった一歩。
だが確実に下げた一歩。




