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人魔戦争 〜聖都防衛戦〜(3)

 ダルメシア戦争で帝国が王都に向けて進軍していた時のことだ。

 早馬が聖都の美しく白い教会を駆け抜けた。


「報告します!イーストホープに巨大な渓谷が出現!

 更に…上級魔法とは考えつかない広範囲に、地面の隆起と大爆発を観測。それはほぼ同時に発動した模様!」


 ナルシッサは後に一部の間で大魔導師と呼ばれた。

 その異常な魔力量と制御能力。そして《点穴》による魔力の細密検知。


「ユウキ殿は《点穴》を持つからきっと助言を受け、血も滲む努力で知らずに追いついたのであろう…」


 教皇はアリサを見て、かつての宿敵を思い起こす。


「アリサ殿にかつての英雄ナルシッサに重ねる。

 彼奴は炎剣と即時発動の魔法で近接戦を得意とした魔法剣士じゃった。わしの《結界》を優に破壊する強さじゃ」


 近接戦!?


(得意じゃ無いけど、接近しないとルインを助けられない…か)


「ありがとうごさいます!」


 そう言ってアリサは身体能力を高める魔法、《真・ストロング》を発動さて一気にガーミランまで距離を詰めた。


「来たか宿敵!俺はここニいるぞ!!」


 通りすがりに炎剣でガーミランを斬るが、やはり付け焼き刃では致命傷を与えられない。


 しかも通電させてカウンターを仕掛けてきた。


 あまり慣れていないので、アリサは着地に失敗して無様に転がるもルインの前に到着する事ができた。


 外見的な損傷はないが…


 《ヒール》


「ルイン!起きて!!!」


其奴(きゃつ)は立派に戦った」

「うるさい黙れ!私が、起きろと、言うんだから!!」


 ガーミランは先ほどまでの熱が冷めた様に悲しくなり、やがて怒りを覚えた。


 これほどの魔導師が俺を無視する?ありえない!


「俺は…ここに、いるンだァァァァ!!!」


 《稲妻・乱》


 戦場全体に落雷が発生し、敵味方問わず攻撃を加えていく。

 そしてアリサ向けて雷撃を放った。


「俺をミろ。そしてイね」

「は、あぁ…ルイン……」


 アリサは気が付かない。

 自らの命をも奪う雷撃が放たれた事を。



「……あっンだ?」


 不発。

 そう、ガーミランの攻撃が不発に終わったのだ。


 何が起きたのか理解できず、指先でチリチリと電気を発生させるが問題ない。


 ではなぜ?


「俺達の森を好き勝手してくれるじゃねぇか。え?」


 《火災旋風》の中をヒタ歩く巨大な獣人の姿。


 そして飛びかかる魔族を蹴散らしながら、その歩みを止めることは無い。


「オークが獣士グロッサム、共に森を守ろう」

「歓迎する。敬虔なる者たちに神のご加護を」


 教皇はそう言って頷き、グロッサム達オークの介入に感謝した。


 正直に危なかった。

 聖騎士長も負傷し聖騎士の数も限られる。


 アリサとルインで大将首を狙うも、善戦しているとは言い難かった。



 しかし、ガーミランは獣人の増援に目を輝かせていた。

 魔族にとっては今の状況があまり好ましくないはすだ。


 聖都はガーミラン一人でも落とせると考えていたが、戦後を考えると魔王軍の数を減らされるのも面白くない。


 しかし、それ以上に感じるものがあった。

 強者の存在だ。


 強き力を手にした時、弱者を痛ぶっても何も楽しくない。それは魔族も同じである。

 共に戦える技量を持ち、合間見える事で初めて次へと進める。


 ガーミランはこの世に生を受けてからずっとこの繰り返しであった。


「役者はそろっタか?」

「もうすぐ王都から救援が駆け付けるやもしれんぞ?」


「違う…そうじゃないンだ。アー、戦略なぞ屑籠(くずかご)に捨てろ。ナ?俺様に対するご褒美だよ……もう終いなノか?」



 グロッサムが剣を取り出し構えると、剣全体に風が流れているのが分かった。


 以前レナードやガルシアがやっていた、武器に属性を持たせる技だ。

 繊細な魔力操作と壊れない武器が必要となるため、そう簡単には扱える技ではない。


 まして実戦となれば尚のことである。


「グライスの友人を傷つけるな。このグロッサムが参る」


 ガーミランはグロッサムに向けて雷を放つも、また不発に終わる。


「むッ?ぐあああああああああああああ!」


 直後、ガーミラン自身に稲光が走った。


 間髪入れずにグロッサムは剣を振るうも、ギリギリで躱されてしまった。

 流石に自分の固有血技では耐性があるようで、大した効果は得られていない。


 だが、回避したはずの斬撃をガーミランは受けていた。


「こノ斬撃は…それなら!」


 雷を全身から放出しながら電光石火の勢いで大斧を乱舞しグロッサムへと襲い掛かる。

 その筐体(くたい)からは想像つかない速度で応戦し、互いに傷を増やしていく。


 グロッサムは一歩下がった位置に動き、突然空を斬った。

 ガーミランは何かを察して大斧を振り払うと『キンッ!』という甲高い音が発し、今度はグロッサムが剣を落とした。


「ガハハ…帯電状態にしてて良かっタぜ」


 ガーミランは大斧で地を割り足場を悪くした後、飛び退いた所へ()()()()()()雷を2本落とした。


「ぎうううううぁああああ!」

「ぐが…ははははは!」


 ガーミランは大斧を引きずりながら、倒れたグロッサムへと近寄る。


「お前のトリックは…そうだな、攻撃位置を変えテいるな?」

「その通り。《遠近換装》だ…お嬢!」


 アリサの周囲に20個の炎の球体が浮き上がり、炎剣を振り払った。


 アリサには、なぜ固有血技の効果をバラしてしまったのか分からなかった。

 しかし突然呼ばれてその意味を理解した。


 グロッサムの《遠近換装》により、炎剣がガーミランを捉えて背中を攻撃する。

 ガーミランは焦り回避するも、自分の作ったき裂に足が嵌ってしまった。


「アッ!そんなバカナッ!」


 《ブラスタークラッシュ》

 《スターダストフレア》


 ズガアアアアアアアアアン!


 凄まじい爆発と同時に、炎球を全方位から当てて破壊の連鎖を呼び起こす。


 アリサは最後に炎剣を地面に一刺しした。


 《遠近換装》


「『爆炎の魔術師』の名は伊達じゃないわ!」

「素晴らしき魔導士だ」

「だから魔導士なんて大それた者じゃないって!」


 この二つ名だって王都学園の生徒が勝手につけたもので、あまり自負する物ではなかったのに…


 だけど大将首を取って勝利を確信した。

 次はルインを安全なところに運んで治癒する必要がある。



「ルイン、もうちょっとだからね」

「うん…」

「良かった!意識が戻ったのね!」

「見てたよ。すごかった…」


 意識が戻ったことが嬉しくて、涙が自然と零れだしてきた。彼女は恋敵ではあったけど、大事な友人であり大好きな人だ。


 そんな友人を、人は親友と呼ぶ。


「教会に行けば治癒士が…けふ」

「アリ…サ?」



 チリチリチリチリ…


 奴は……生きていた。




「死ぬかと思っタぞ。《雷電(らいでん)》にこんな力があるトは」


 《雷電の羽衣(はごろも)


 全身から放電するほど、自らの体内で帯電しているのがわかる。


 それは光速で動けるほど神経の伝達速度を向上させ、肉体のリミットを外してる。

 それも魔族であるが故に、人族では考えられない程絶大な効果をもたらしたのだ。


 アリサはその勢いを以って腹部を貫かれたのだ。


 油断して《真・ストロング》は解除していたし、グロッサムや他の者達では反応できなかった。


「あぁ楽しかっタ……何か言い残スことは?」


 ゆっくりと時間が流れる。

 アリサの髪ゴムは切れ、ポニーテールが背に広がる。


(ルイン…落としちゃだめ…)


 倒れる最中にルインを抱き寄せて庇う様に地に伏せる。

 意識が朦朧(もうろう)として視界がぼやけるが、あまりの事に痛みを感じない。


「ルインね、私ね…ずっとユウキが好きだったの……」

「知ってる!ボクも…動け……身体!」


 ルインが手を伸ばし手と手が触れ合う。

 ルインの手は冷たい。


 でも心の中には暖かさを求めて、ユウキと接触してからは心も温かくなった。


「私もルインの一助に…なれたのかな?」

「うん、アリサはもう私の一部だよ…だから!」


 二人は手を伸ばして…そして届く……あと少し。




 ザシュッ!




 無機質な音であるが、確実に命を断つ最後の音が響き渡る。


「ア…リ……?アリサァァァァァァ!!!!」



 ガーミランの大斧が…

 …アリサの首を飛ばした。



 いかなる魔法も回復不能な絶対的な事象が目の前に惨劇として広がる。


「真に恐ろしきはこの魔導師ノ少女よ。俺は畏怖を抱き、そして余裕がナかった」



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