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人魔戦争 〜ゼリウス攻防戦〜(1)

 ミミは耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた。

 ノイントからの貰い物で、詳細まで知らなかったのだろうか。


「それじゃ、やるかい?」

「はふぅ……うん、大丈夫よん。さて、魔血衆がミミは宣告する。その御霊を貰い受ける」


「ここは通さない!」


 ミミは手を前に伸ばすと、何も無かった所から長刀が現れる。


曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は宵を魅せる。舞いれ、地獄蝶」


 ミミはパーミスト洞穴で見せた2mほどの長刀を構えた。

 あの時は何処から出したのかと疑問だったが、まさか飛んでいる蝶が刀だとは思いもしなかった。


「地獄蝶を抜いたが最後。ミミに隙なし」


 宣告と同時にミミは洞穴で見せた神速にて斬撃を仕掛けてきた。


 ガキンッ!


 《ディヴァイン・ガーディアン》による特殊な防護壁は、レナードを包み込むように護りミミの斬撃から致命傷を避ける。

 だがミミの一方的な攻撃姿勢は、もはや闘いとは呼ぶにはほど遠いものであった。


「怖いな。全然見えなかったよ」

「地力が違いすぎる。今回のミミは本気だよ?」


「ユウキが口を酸っぱくして言ってた事が分かったよ。『魔力に頼りすぎるきらいがある』ってね」

「ユウキは別格、ミミが敵として認めた少ない人族。今の君には届かないよ」

「そうかい!」


 おかしい。

 レナードは先ほどミミに斬られた光の翼が中々再生しない事に気がつく。


 魔力を更に放出し身体能力を向上させて、動眼により左右の刀でミミの斬撃をいなして反撃の一閃を振るう。


「そこ!」


 キンッ!キキンッ!!


「へぇ?でも無理。君の欠片は戻らない」


 やはり魔力生成ができていない。

 固有血技は魔力との結び付きが強い能力なので、魔力を封じられるとそれだけで純粋な剣術勝負となる。


 あの小柄な体型からは想像できないほどの膂力があり、刀を抜く前の子供っぽさなど微塵も感じない。


 気を引き締めないと…殺される。


「後学のために教えて貰えるかな?」


「いいよ。ミミの固有血技は《運命の鍵》。斬った魔力が回復しないのは再生する可能性を消したから」



 可能性を消す?

 つまり未来に起こりうる事情の可能性を消すことができる?


 そんなの強すぎるじゃないか。

 だって単に僕の生きる可能性を殺せば終わってしまう。剣技でも劣って固有血技でも圧倒的に負けている状況。


(ははっ…勝てないかもね。でも何か弱点が!)


「ハアァッ!」


 黒龍の残滓を使う。

 ルインの継承と違って受け取った総量が決まっている。そして恐らく全てを出し切って戦わないととてもじゃないけど勝てる見込みがない。


 使えるのは一回だけ。

 でも今この時を置いて他にはないタイミングなはずだ。


「奥底に眠る気高き魂よ、僕に力を貸してくれ!」


 純白の羽根に交じり漆黒の魔力が周囲に轟き渦を巻く。


(くうぅ!やっぱり強い…!ユウキとルインはこんな魔力を!)


 その時、指に光るアクセサリーが迸る黒龍の魔力を身体に馴染むように、凄まじい魔力を押さえ込んでくれる。

 それはノイントからもらった失敗作とは思えない自称失敗作だった。


(なぜノイントはこんなモノを渡したんだ)


 指輪の補助を受けて一気に魔力を解き放つと、膨大な魔力は漆黒と純白の翼を再形成していく。

 それは羽の形一枚一枚が分かるほど繊細かつ濃密であり、自らの身体能力が先ほどの比ではないほどに上昇しているのが分かる。


 ボクや兄が以前使った《天満(そらみつ)の翼》とは違う。

 あれは強力だが自我を失いかねない諸刃の剣。敵味方問わないまさにバーサーカーだ。


 だが今回は狂気に満ちた魔力は感じず、純粋に基礎を底上げした形だ。


 自分でもニヤリと口角が上がったのがわかる。


(まだ勝機はある!今の僕は…誰よりも強い!)


 かつてトージが握った二本の魂を、今レナードがその手に持ち構える。



 《二刀・反芻》

 脱力するように無駄な力を抜き、だがすべてに対応するように全神経を集中する。


「勝てないさ。僕には」

「勝てるね。ミミには」


 そう言いつつも、ミミは内心ちょっとビックリしていた。


 というかあんな人外な魔力の塊を突然出されたのだ。

 イメージは目の前で突然コインを出して消すようなビックリ加減である。


(何あの力?今までの固有血技とも違うし~…ま、やれば分かるかな?)


 ミミは神速にて高速移動し、抜刀術を繰り出した。

 だがレナードにも目で追うことが出来るようになっていた。


 激しい剣戟の音が周囲を支配し、二人の動きはやがて一陣の風となり光の羽が舞い散る。


「切り裂け!光の翼!!」


 《切羽繚乱》


 散った光の羽根が全周囲からミミへと襲い掛かる。

 だがその身長からは考えられないほどの長身の刀にて、剣圧で切り落としてしまった。


 隙をついて横薙ぎに一閃、更に二刀で素早く返す。


 《清浄なる迅閃》


 だがミミも呆けてはいない。

 羽根を切り捨て、舞うように迅閃を払い落としカウンターを仕掛けた。


「この瞬間あの羽根を使ったら良かったのに」

「後ろに下がるでしょ?結果は同じだよ」

「ミミは下がらない!ミミの後ろには魔族の未来があるから…」


 黒龍の残滓を使っても尚、基礎能力で上を行かれている。

 恐ろしく強い。想いでも負けているというのか?


 いや…


 足を上げていないのに一歩、また一歩とミミに押されている。


 だけど…!


「僕は負けない。何故ならばー…」


 《二刀・八陣》


 ーッ!

 ミミが押される!?そんなわきゃ!


「この程度…らぁ!!」


 一度流して二刀であることを利用した連撃を死角から攻めるも、ミミは全て対応して再度鍔迫り合いへと持ち込まれる。


「大切な者達を護り、相棒と肩を並べる友人でありたいと…僕は願う!」


「天性に呑まれて技が光らない君に、ミミは斬れないよ!」

「天性も努力の内だ!お飾りや持ち腐れじゃない!!」


(だからレナードは恐いッ!)


 ミミはレナードに対して一種の恐怖の様なものを感じていた。先天的な能力にも恵まれている彼が、ミミと戦う事で想いと共に上へ上へと成長を続ける。


 今ここでやらないと、後で必ず趨勢が覆されるような気がしていたのだ。

 だから早々に決着をつけないといけないんだ。


「よくやったよレナード。だけどもう、おしまい」


 《約束の血華》

 突如レナードの《光の翼》が両断され、光を失いながら散り散り飛散する。


 それはレナードの魔力の源泉。

 そして胸に刻まれた横一文字の裂傷から血華が噴き荒れ、その命を散らしていく。


「いつ…のまに?《ディヴァイン・ガーディアン》の守護は…」


 


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