開幕は突然に
ゼリウス大雪山に調査に赴いたレナードは、ノイント達と戦った場所の近くで出会いたくない人物に遭遇していた。
転移魔法陣は恐らく不完全。
まだ、魔族が本格的に乗り込んでくる事はないと踏んでの調査だったが…
「ミミは嬉しいんだよ?だってね」
嬉々として屈託のない笑顔を振り撒き、手を頭の後ろに乗せて喜ぶその姿は…
まるで遊び道具を見つけた子供にしか見えなかった。
「最初に会敵したのがレナードだから」
「始動前に渡ったのかい?君は強いね」
そうだ。
このまま戦っても勝てる見込みは薄い。しかし今回は一人で乗り込んできている。
そう考えればチャンスでもあるのではないだろうか?
「ミミはね、戦争でトージを見て嬉しくなったの!だって一撃であの渓谷を作るんだよ?ヒビッと来たわぁ〜」
恍惚とした表情に口元の笑顔は、それが本心であると伺えた。
だがダルメシア戦争は何百年も前の話だ。
魔族の寿命とは一体どの程度なのだろうか?
いや、むしろ長い年月を魔大陸で生き残った事の方が凄まじいとさえ言えるのだ。
「君は自分であの戦争を見てきたんだ?」
「んだよ〜。カーテン越しで戦えなかったけどね…ぶぅー」
戦争が起きて嬉々として最高の好敵手を見つけるも、戦えなかったことが不満であったらしい。
なんて好戦的で…そして向上心が強いんだろう。
本当に平和な人族は彼らに勝つことができるのかと心配になってしまうほどだ。
「それじゃ君が来た目的は?」
「斥候だけど…決まってるじゃん。いまから殺ろうよ?」
一瞬、時が止まったかのように錯覚してしまう。
雪が舞い散る中、美しい蝶がミミの周囲を漂い始める。
あの蝶はパーミスト洞穴でも見かけたが、やはりミミの何かなのだろう。
固有血技と関係するものなのか?
「ドールガルス城塞城主の子、レナード・ドール。魔族の侵攻を食い止める」
「いいね!ミミはね、強いんだよ!…あっ、ちょっと待ってね」
口上に満足して来るのかと思ったら、制止をかけられてしまった。
なんか調子が狂うなぁ。
「んっ、そうそう。誰にあったと思う?レナードだよ!もう最高でね……」
ー…5分後
「だから言ったじゃ〜ん。ミミは…」
ー…30分後
「ぇ〜。カイラス様捕まらないの?ハーは…」
ー……長い。
誰かと通信しているようだが、雑談に熱が入ってさらにヒートアップしていく。
僕は寒いが彼女はホットなようだ。
「…ってことで、開戦するからカイラス様によろしくー」
首飾りを胸元にしまうと、ミミはレナードを見てハッとして頭を下げた。
「ごめんなさい!つい夢中になって…ってあれ?レナードは人族に開戦合図しないの?」
「長距離用の通信魔道具がないよ。調査したら帰るつもりだったからね」
それならと胸元にしまった首飾りを取り、レナードへと投げてよこした。
小柄ながらも出るところは出ていて、思わず目を背けてしまう。
「見ちゃった?ねぇ、見えちゃったの〜??うふっ、使っていいよ」
受け取ったレナードは真っ先にユウキの顔を思い浮かべた。
ここで父やダルメシア王ではないと言うのが、いかに彼を信頼しているか。
『ユウキ、聞こえるかい?』
『どうしたレナード?』
ゼリウス大雪山で魔法陣を見つけたが、まだ稼働しておらず近く起動しそうなこと。
そして魔血衆ミミが単騎で乗り込み戦闘になると告げた。
『無理そうなら逃げろ』
『それが出来る相手なら勝てるさ』
その通りだった。
地の利があるにせよ、それを無視してでも進める地力の差。土台が違い過ぎれば逃げるも困難なのだ。
『開戦の合図をするってミミが言っていたから、こちらも流すように伝えて』
『分かった。死ぬなよ?』
『善処するよ』
通信を終えてミミに首差飾りを返した。
「ありがとう、君に善悪の区別があってよかった」
意に反してミミは口をぱくぱくして、こちらを指刺し驚いていた。
僕はまだ何もしていない。
「それ…声出さなくていいのん?!恥ずかしいんですけど…!」
そこだったか…