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信仰の町サンクチュアリ

 目を開けばそこは真っ白な壁だった。

 いや、正確には壁ではない。今まで経験した事の無いような高さのある天井だった。


「わたし…ここは」


 アリサはノイントに飛ばされてから、大変な経験をした事を思い出してブルッと震えた。

 それは遥か上空に転送させられたことに起因するのだが、これ自体には特に問題はなかった。


 むしろ遥か上空(たかいところ)から巨大な教会を見て感動さえ覚えたほどだ。

 その美しい壮大な眺めを独り占めできた事に、うれしさを感じてしまった。


 初めて訪れた場所だが、鐘楼と純白の教会が鎮座する都市は、聖都サンクチュアリであると直ぐに理解できた。


 では何が悪かったのか。

 答えはこの地域特有の事を知らなかったことだ。


 ーー……


「こんな上から教会を見たの、私が初めてだろうなぁ」


 なんて誰にも聞こえないほど上空から余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で笑っていたのも束の間。

 まさか聖都全域に超強力な魔法障壁が展開されているとも露知らず、激突して墜落したのだった。


「よく生きてたものね…」


 いま思い出しても冷や汗が止まらず肩をすくめた。

 そんな私のボヤきが聞こえてか、扉を開ける音共に少女が駆け寄ってきた。


 ガバッ!


「アリサーーーー!ボクはもう…っう」

「ルイン…ごめんなさい。心配をかけたみたいね」


 アリサは心配をかけてしまったルインに対して謝罪し、涙を流すルインの顔を胸元へと抱き寄せた。

 彼女も同じ場所に転送されて、だいぶ心配をかけてしまったようだ。


 オーヨシヨシと頭を撫でていると、突然身体に電気が駆け抜ける感覚と共に吐息が漏れだした。


「んぁっ…ちょぉっと、ルイン!あっ」


 ルインが顔と手をもぞもぞして動かすものだから、くすくぐったい。


「アリサも大きくなったねぇ」

「やめてよもう」


 久しぶりにおふざけをして、ルインはアリサが元気になった事を確認していた。



 ルインの方はと言うと、地上に飛べたので転移先は何の問題もなかった。

 なんで自分だけ上空に飛んだのかは不明だが、詳細な場所まではノイントも設定できなかったのかもしれない。


「でもさぁ、さすがにカネの中に出るとは思わなかったよ」

「えっ…?どこって?」

「カネだよ鐘。教会の鐘の中でさ、焦って飛び出したら地上まで真っ逆さま」


 ケタケタとルインは笑っているが、結構笑えない状況だったようである。

 中に居て鐘が始動したら鼓膜がヤバい事になるし、そう思って飛び出したら鐘楼で落っこちたと。


 しかも危うくシスターを下敷きにする所だったので、避けたら着地失敗。

 超心配されるというオマケつきだった。


「目覚めたようだね?」

「あなたは…教皇様」


 教皇は優しい笑みを浮かべて頷いた。

 彼とは一度通信用魔道具で対面しているが、やり取りはユウキが行っていた。


 それでユウキのことを思い出し、無礼などと言う事も忘れて、焦り言葉を捲し立ててしまった。


「教皇様!魔族が攻め寄せて、守らないとで!」

「君が上空で衝突した魔法障壁は、私の固有血技、《結界》です。安心なさい」


 かつてダルメシア戦争で猛威を奮った《結界》の使い手が今も継承され、聖都を守っている。

 確かに彼がいればこの都市は護られるので大丈夫だろう。


「良かった…ごめんなさい。ルイン、ユウキと連絡は?」

「うん。エルザとダルメシア王も無事だって」


 ユウキはダルメシア王とエルザを連れてトージの魔法陣から翌日には王都に帰還。

 レナードはドールガルス城塞の自室に転送され、そのまま避難誘導と防衛準備に当たっている。


「そう、レナードは貴族として本来の仕事ができたのね」

「副首都チェストで議員にあれだけキレてたんだもん。誇りの高さは一級品だよ」


 レナードはチェストで市民を危険に晒したら死罪が妥当だとまで言ってのけた。

 それほどまで貴族が持つ特権は、平福有責『平時の裕福は有事の責任と表裏一体』と考えていたのだ。


 平時に至福を凝らし、有事になったら逃げてしまうのでは穀潰しでしかない。


「私達もダルメシアに行った方がいいのかしら」

「いやさ、ボクたちは聖都の防衛にあたるって」


 ユウキとは政治用の通信魔道具で話をして、各人がゴールド階級を持つ冒険者として都市防衛任務に当たる事になった。

 王都は王都騎士団やゴブリン、帝国領も皇帝を筆頭に帝国兵やリザードマンが各々で対応する。


 兵糧や兵配備の関係上もう動き出しており、その状態で冒険者が気ままに移動しては情報が混乱してしまう。


「わしはもう行くが、汝らにも助力願いたい」

「「おっけー、です」」


 二人はそれに笑顔で返し、教皇もまた二人に屈託のない笑顔を向けた。


「汝らに神のご加護があらんことを」



 そう言って部屋を出た教皇は引き締める。

 人前ではあまりそのような顔を見せず、絶えず余裕をもって接する。


 だがいま二人の少女に託した願いは到底許される物ではなく、不甲斐なさを感じてしまうのだった。

 人族が生き残りをかけた戦争であろうが、子供と大人の中間である歳月の人に『命を懸けてくれ』とお願いしたのだ。


 例え状況がそれを許しても、教皇ミーゼスはそれを良しとはできなかった。


「コロミナ聖騎士長、此度の神の試練は一段と険しい。できれば…」

「承知。神の御御心のままに」


 そう言って柱の陰で待機していた一人の男は、足早に去って行った。



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