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新天地か地獄か

【魔大陸】


 ノイントとジーザスは無事に“崩壊した融和のカーテン”を超えて魔大陸へと辿り着いた。

 そこは雪と氷に覆われた大地であり、とても作物などが実ろうと言う場所ではなかった。


 これで人族ではトージに続き2回目の到達になるのだが、そんな事は知らないのでノイントもジーザスも人族初の到達だと勘違いしていた。


「ふむ、新境地とは年甲斐もなくワクワクしますね。しかし想像を絶する世界ですね」

「またかの地に戻ればよいでしょう。先生は戦後戻らないのですか?」


 これからこの場所で生きていく事への不安を覚えつつも、戦争に勝利すれば大陸へ戻ることが出来るとジーザスは楽観視していた。


 やがてホルアクティが高度を下げると、岩壁めがけて突っ込んで行くではないか。これはにはたまらずノイントも顔をしかめてしまった。


「まてまてまて!殺すつもりか!」

「ケケケケッ…お前らを殺しても徳がないから安心しろ」


 岩壁が目の前に迫り、いざぶつかる!

 眼を閉じて衝撃の姿勢を取るも、その時間は不思議と訪れなかった。


 恐る恐る眼を開けると、そこにある物に目を奪われた。



 先ほどまで世界を埋め尽くした白銀は何処へ行ったのか、溶岩石が露出しており、流れる川はドロドロに溶けた溶岩流。


 その中央に花崗岩(かこうがん)で作られた立派な白城が佇んでいた。それが魔王城であると言う事は直ぐに理解できた。


 この貧相な土壌による食糧難から、魔大陸では強盗や殺人は日常茶飯事。

 計り知れない能力とカリスマ性によって魔大陸を統治した魔王カイラスでさえ、魔王になる前は絶えず戦い続けていた。


 居城が白日の下に晒されていては、狙ってくださいと言っているようなものである。



 その堅牢な守りを有する魔王城の大窓からホルアクティが飛び込むと、その勢いを持って投げ捨てられるように着地された。


「ケケッ!その先に進めばカイラス殿の所だ、後は勝手に行け」

「一応お礼を言っておきましょう」

「いらねぇよ、このムサビ様も準備があるから行くぜ」


 そう言って入ってきた大窓から再び飛び立つと、あのホルアクティへ大量の鳥たちが集まってきた。

 まさかネームドであったとは…よく生きてここまで来られたものだ。


 実はノイントの直感もバカにできないものだった。

 ムサビはカイラスに死んだと報告して連れてくるつもりはなかったのだ。だが連れてくる直前に放った魔力量や技の数々から考えを改めたのだった。


 この戦力は例え死体であっても持ち帰らなかったら、自分が殺されるのではないか?と。



 ノイントのジーザスはムサビに言われた方向へと進み、魔王カイラスの居る場所へと向かう。


 カッカッカッ…


 城の床は一面大理石で作られ、美しく壮大さと威厳を感じさせた。


 だが美しさとは裏腹に、侵入者は音を消して歩行するのが非常に困難である。

 機能性を兼ねそろえた城と言えた。


 やがて開くだけでも大変そうな扉の目の前にやってくると、ノックをして入室の許可を求める。


「ノイント・バレルとジーザス・ドールが参りました」

「入れ」


「ふんゥむ!ん??ひら…けぇぇ」


 扉のあまりの重さに驚いてしまった。

 ジーザスは《光の翼》によって膂力を上げ、やっと扉を開けることが出来た。


 魔王城とは暗いイメージがあったが、全体的に白を基調とした明るいデザインであった。

 暗ければそれだけ暗殺の危険性が伴うというわけだ。


 二人は玉座の前に跪き挨拶を行う。


「他方ご協力感謝致します。無事この地に降り立つ事ができました」

「その知力を存分に振るえ。命が惜しい人族よ」

「違います。私はこの地にて知り得たい知があって参りました」


 魔王カイラスは「ふん」と鼻息を鳴らして見下すように視線を向ける。

 基本的に魔族は生きるために力を持ち、知力のみに頼っても生きる事さえ敵わない世界の住人だ。


 そんな者達からしたら、生存して地位を得ているだけでも可笑しな事象だった。


「なンでそんなヤツを誘ったかね。俺様には理解デきん」

「情報を得るには必至」

「でもミミには要らないなぁ。だって強いもん!」

「そらミミは強いからなぁ。ウチは怖くてしかたありませんわ」


 エッヘンと腰に手を当てて反り返るミミに、ハウレストが笑顔を向けた。



 魔王直属の部下『魔血衆』。

 彼らは魔王カイラスの指示で動き、一人で一国をつぶすのは容易なほど強大な力を持つ。

 他にも政治的な事などを担い、魔大陸の統治に尽力しているのだ。


「魔血衆だ。この者達に逆らう事は我への反逆と心得よ」

「はっ!私はただ貴方様に従うまで」



 巨体な男はガーミラン。

 彼が王都の地下に潜入して鋼鉄の地下牢を破壊しジーザスを救出した者だ。


 鉄扇を扱う女がハウレストで小柄な方がミミ。

 二人はパーミスト洞穴でユウキ達と対峙した人物だ。

 ミミの方は長刀を獲物としてレナードを膂力と技量により圧倒し、ルインから短刀のイビルウェポンを盗み取って返すと言う所業を行っている。


 そして全身重厚な鎧に包まれた者はコルモス。

 彼は無口であり不必要に言葉を発する事は少ない。


「まぁユックリしろ、ナ?部屋の場所は外のやつが案内シテくれる」

「長旅で疲れているだろう。そうしろ」


 そう言ってガーミランは巨大な大斧を片手で持って行くように促した。

 魔王カイラスからも言われ、ノイント達はその場を離れることしかできなかった。


 ……ー


 静まり返った王の間でノイントが離れたことを確認してからカイラスは口を開いた。


「始動を確認した。早ければ4日後には侵攻を開始する」

「配置はどうなさる?」

「決めてある。いつでも行けるようにしろ」


 魔大陸の東西南北4ヵ所にある巨大な魔法陣。

 これは融和のカーテンの崩壊と同時に起動し、三国大陸への転移が可能となるとの伝承があった。


「テストを兼ねた斥候としてミミが単独で北から進め」

「はいな。情報伝達はあいつらを使うの?」

「そうだ」


 通信用魔道具をノイントから受け取り、情報の伝達に齟齬が無いようにする。

 この魔道具のためだけでもノイントには生かす価値があった。


「ミミに続き、東はコルモスとハウレスト、西はガーミランだ。準備を進めよ」

「あれ?南はどうするの??」

「南は、我が行く」


 !?


 カイラスが直々に転移魔法陣を使い移動する。

 だがどこに出るか分からないのに、王将が動いて良いものなのかどうか。


 だが事、カイラスに限ってはそんな心配無用であった。

 今この席についているという事は、この大陸の誰よりも強い証であって格下が心配するような事ではない。


「「「ハッ!仰せのままに…」」」


 指示があれば後は長居無用。

 それぞれが持つ使命に対して、各個人間での打ち合わせなど不要だ。



 良い様に追い出されたノイント達は自分たちが使用する部屋の場所を聞き、移動していた。


「先生、彼らは信用できるのですか?」

「疑問を持つだけでも命がけですよ。どこに耳があるか分かりませんので」


 言われてジーザスは口を閉じた。

 力の差は一見にして分からなかったが、敵に回してよい相手ではない事が本能は分かっていた。


 ドンッ


 ジーザスは魔血衆の強さについて考え事をしていて、正面から何かにぶつかってしまった。

 いや違う。

 物ではなく人であったのだが、その人物に驚き目を見開いてしまった。


 部屋を先に出たはずなのに、なぜ彼女が先に居て自分に突然ぶつかったのか。

 少々理解及ばず眉根を寄せてしまった。


「やっほー。魔道具ちょうだい?」

「あぁ、戦争で使う通信用ですね」

「頭がいいのもいいね!話が早くてたすかるぅ」


 ノイントはミミに首飾りを渡した。

 一見するとユウキ達が手に入れたものと同じようだが、通信規模は段違いの代物だった。


「こいつに話したい相手と言葉を思い浮かべればいいの?」

「そうです。直ぐに理解できるかと思…」


『できそこないにミミは悲しい』


 !?

 いきなり通信を何気なく使用した事にも驚きだが、出来損ないとは一体何のことだ?


「ミミ様、魔族からすると私たちは…」

「ちっがうよー!出来損ないはソッチ」


 そう言ってミミが指をさしたのはジーザス・ドールだった。


「私が何か気に障る事でも?」


 先ほどの会話が聞かれていたのかとジーザスは内心焦ってしまった。

 ノイントに言われた直後だったのもあるのだが。


「ドールでしょ?あんなの《光の翼》じゃないじゃない」

「ふふっ。それはミミ様が私の《天満の翼》を見ていな…」


 ジーザスが饒舌に天満の翼について語ろうとしたところで、首筋に冷たい感触を受けて口が止まる。


「トージの《光の翼》を見ている…お前のアレはマガイ物だ」

「…ッア、うぅ…」


 短剣を袖口にしまい、ミミは何も無かったかのようにニコリとしてノイントに礼を告げた。


「ありがとー便利だねコレ!ハーとおしゃべりできるなぁ」


 そう言いながらミミは戦いに赴くために消え去った。

 ジーザスはミミが居なくなると、忘れていた呼吸を思い出しゼェーゼェーと息を吐いては吸い込んだ。


「魔血衆って何なんだよ…」

「ふかふかのベッドで寝ても、心は常に剣山の上に居るようですね」


 ジーザスはノイントに言われた意味が理解できた。

 この地で生きるためにはもっと強くなる必要がある。と言うより生き残れないと自覚した出来事であった。



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