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不穏な空気(2)

 レナードは通信用魔道具を借りて、王都ダルメシアにいるユウキと連絡をとっていた。


「魔大陸の方角に巨大な魔力のうねりが確認できた」

「開戦間近って事かい?」

「分からない。アリサ達の安否は確認できたが…」

「心配だね」


 正直に言ってアリサは戦闘向きではなかった。

 彼女は類い稀なる魔術師としての才能を持っているが、優しさが戦争には向いていないのだ。


「でもそれならユウキも同じだね。ふふっ」

「ったく。俺の場合は全力で殴って止めてやるよ」

「流石だね。でも君が行かない道があるなら、僕が切り開くよ」


 ユウキはそうならないようにと考えていた。

 自分の甘さで友人が殺人を犯すなど、到底許せないものだった。

 だからこその葛藤であるのだが、本格的な戦いになれば死者が出ないなど不可能であるとも言えた。


「とにかくゼリウス大雪山に、この間までなかった魔力を確認したから注意してくれ」

「分かった。今度時間があるから調査してみる」

「頼んだ。大人達は準備に慌ただしくて人を割けない」


 冒険者とはこう言う時に便利屋として動ける側面がある。

 だからかつてダルメシア戦争でも義勇兵が戦力として大いに充当されたのだろう。



 ユウキとの通信を切ると、今度は帝国領へと念話を飛ばした。

 目的はフェニキアだ。


「お久しぶりですわ。相引きなど嬉しく…」

「あっ!レナードね!元気だったー?」


 フェニキアに割って入ったのは、影武者として雇われ義理の妹となったソフィアだ。

 二人は本当にそっくりだが、どうやら重役を降りてからソフィアは良い方に変わったようだった。


「ソフィアも元気そうでよかった。それが本当の君なんだね」

「そうよー、お姉さまは時々怖いけ…んぼが」

「ソフィア…んんっ。レナード、要件はわかっていますわ」


 彼女は赤龍であり、恐らく死ぬことはない。


 死ぬとしたら自分だ。

 だから悔いがないように告げなくてはならない。


 父とは和解できて今まで自分に甘い考えがあったと自覚したし、余裕が生まれた事で色々と経験した事を思い返していた。


 その中で向き合わなければいけない感情も確かにあった。


「あの時は返事に詰まったけど、僕は君が好き…なのかもしれない」


 ーッ!


「そそその事だったの!えっと、その…うん」

「やだお姉さま!私も嬉しいわ!」

「また連絡するよ。多分最初に来るのは…ここだから」


 また連絡する。

 そして続く状況報告。


 死ぬ気はないが、どうなるか分からないと言った含みがあった。


「必ず連絡をお待ちしておりますわ、愛するレナード」

「私もまってるよー」


 ここで通信は途切れた。

 僕は伝えるべき相手に伝える事をした。


 さぁ、僕に今できることは何か。

 ユウキから聞いた状況の確認だが、そのためにはバッカス王に許可を求める必要があった。


 急ぎ父部屋へと急ぐと、使用人から静止されてしまった。


「火急故、御目通り願いたい」

「今はなりません。何人も通すなと固く言われております」

「火急でもダメなのかい?」

「お妃様と王は共に大事な話だと…」


 ……


 使用人の眼を見ると必ず目を逸らす。


「ゼリウス大雪山にて不穏分子あり、日を改め調査に向かうと伝えて下さい」

「ゼリウス大雪山の調査に後日向かわれる。承知しました」


 かつて友人達と向かった場所へ今度は一人で向かう。

 少し恐怖を感じるが、いずれは一人で動かなければならない時が来る。


 それが今だったと言うだけの話だ。不安と自信が入り乱れる複雑な気持ちの中でふと良心のいる方に眼が向いた。


 僕は去り際に使用人へこう告げていた。


「妹がいいです」


 苦笑いを浮かべる彼女の顔は、当分忘れそうになかった。




 防衛要塞の準備に自らも志願して手伝い、矢継ぎ早に日が過ぎていく。

 時に熟練の兵士が我が子に自分の仕事を自慢するかのように、優しく分からない事を教えてくれた。

 今までは貴族としての振る舞いが多く、現場の兵士とこんなに話をしたのは初めてだったかもしれない。


 現地の仕事を教えて貰う一方で、運搬先などの指示を行っていた。

 そこである程度他者に任せられるところまで来たので、ユウキに頼まれた調査に行くことにした。


 一人早馬を走らせて雪が残る街道を走り抜ける。

 ゼリウス大雪山にはノルアカ海と融和のカーテンの観測地点があり、そこまでは馬車道が整備されていた。


 天候は曇りで少し雪が舞っているが、風は穏やかで静かさを感じるほどであった。


 山道を九十九折に登り、短距離で急勾配を登っていき山腹の平坦な場所に出る。

 そこはノイント達と戦った戦場からそう離れた場所ではなく、見上げれば兄が放った《清浄なる一閃》で出来た山傷が見て取れた。


「ユウキが言っていた気配ってこれのことか…」


 魔法陣と思われる何かが赤く光っていた。

 まだ起動していないが、恐らく起動準備が進められているのだろう。



 一先ず異変をユウキに伝達するため帰還しようとした。だが誰もいない筈のこの場所で、聞いたことのある声が響いた。


 なぜ一人だけここにいるのか、今は合間見えたくない人物であった。


「ねぇ、レナードは出来損ないじゃないよね?」

「それは君が判断するといい」


 顔は見ていないが、その人物がニヤリと笑った。


 ー…そんな気がした。



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