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開かれた幕(4)

 アリサはクレパス内部の陽光が届かない深さまで到達すると、暗闇の中で輝く物を見つけた。

 まるで導かれるように光の下へと近づくと、魔力を帯びた青白い美しいブレスレットが目に留まる。


(なんでこんな所に…ハッ!)


 頭の中に直接語りかけてくるような声が聞こえる。


 “あなたは、そして私は互いに導かれました”

「このクレパスは自然現象よ。たまたまブレスレットを見つけただけだわ」


 “ふふっ…いいわ。どこまで大きく美しくなるのかしら。わたしをその美しき腕に、そして終焉を…”

「イビルウェポンって言う奴かしら。私に使えるの?」


 “あなたは私を凌駕しているから、何も悪い事にならないわ”

「そうは思えないけど…でも使える物は使うわ。見ていなさい」


 アリサはいつの時代から存在するかも分からない、氷山に封印されたブレスレットを手に取り腕に通した。


 だが今までの人たちがイビルウェポンで経験したような悪寒や意識は感じない。

 どちらかと言うと、自分のために魔力制御を補助してくれる。


 そんな不思議な感じがした。



 クレパスの上では流石のノイントも眉根を釣り上げて状況を静観していた。

 どうやらノイントが仕掛けた物ではないという事が分かったが、降りて行ったアリサの動向が気になる。


 しかしアリサの魔力制御能力なら、風を操作して上がってくることも容易なはずだ。


 そう考えつつも不安を感じていると、やがてアリサが雪を噴き上げながら上がってくるのを見て安堵した。。


 だがその腕には静けさを保ち、恐ろしいまでの魔力を有した青いブレスレットが付けられていた。

 驚きつつも一見して害はなさそうだし、背中から撃たれる前に決着もつけないといけない。


「学園長…いやノイント。おとなしくお縄に着くんだ」

「いやはや完敗です。前衛三人相手に魔術師…いや魔導士では分が悪い…」


 …―ッ!!


 俺は後方に殺気を感じてその場に伏せた。

 すると先ほどまで頭のあった場所を大型の鳥が襲来し、ノイントを掴んで飛翔していく。


「「ホルアクティ!」」


 鳥獣人ホルアクティ。

 予てより獣人同士の戦争を招き、外交的諸問題が発生するたびに散見されていた獣人。


 ノイントがあそこまで終始余裕を見せていたのは、それなりの準備があるからだった。

 ホルアクティを使って海の向こうまで運ぶ段取りが出来ていたのだ。



 巨大なクレパスが発生した場所を見ると、ジーザス・ドールもホルアクティに掴まれて出てきていた。

 理性は取り戻しているようだが、非常に憔悴した感じが否めない。


「さて問題です。なぜこの場所で《フラグメントシステム》を使ったでしょう?」

「ジーザスに《天満の翼》を発動させて応戦するためだろう!」


 ノイントは首を振って否定し、その答えを告げる。


「正解は“融和のカーテン”の崩壊を誘発させることです」

「なんですって?そんなことが作為的に起こせるの!?」

「崩壊直前の状態であれば。強大な魔力を集めるととうなるか…さて実験の成否は」


 ノイントは遥か彼方を指さすと、光り輝くオーロラが形を崩し始めているが分かった。


「その水晶の回収は諦めましょう、ですが私のシステムは生き続けます」

「貴様ら次はないぞ…次はその命を散らしてやる!!」


 そう言いながらホルアクティは更に飛翔していく。


「魔族の侵攻が始まると言うのですか!?」

「そうです。君達は見事に食いつき、そして足枷はその役目を果たしました」


 そう言ってノイントはエルザ・ドールの方を見た。

 ノイントは最初からダルメシア王を殺すつもりがなく、人族が統制を取るまでの時間を遅らせる目的だったのだ。


 そしてエルザを連れてきたのは、王都ダルメシアへの帰還を遅らせるための足枷。


「私から最後の課題です。見事クリアしてみてください」


 《インパクトホール》


 ユウキが奪ったノイントの水晶が輝きを増し、大型の魔法陣が展開されていく。


 その形には見覚えがあった。失われた魔法ロストマジックの一つ。

 転移魔法陣だ。



「えっ!どこに飛ばされるの!?」

「僕は貴方を…!」

「ユウキ!ボクたちどうする!!」

「飛んだ先が安全ならその場所で魔族と当たる!最優先は…死ぬな!!」


 下手に再集結を目指すより、何処に飛ぶか分からないなら大きな町で状況を注視した方が良い。

 その言葉に全員が覚悟を決めた様だった。


 それぞれが頷き合い、この戦争にぶつかり合う。

 共に歩いた友人がいないというのは、こんなにも心細い物なのかと思ってしまう。


 だけどそれを相手に見せない。

 だってそれは皆が同じだから。


「ユウキ・ブレイク。教師として最後の講義です」


『窮余の一策と成らん事を』


 最後にそう言い残し北へ向けて急速に遠ざかって行った。

 それを目で追う事しかできず、やがて転移魔法陣が発動した。


 だがしかし俺には発動せず、皆が笑顔で飛散していくのを見送る事になった。

 いや、正確にはダルメシア王とエルザ・ドール、そして俺に対してだ。


「エルザ先輩、大丈夫ですか?」

「あっあ…あなたの方が大丈夫なの!?」


 そう言って彼女に抱き寄せられた。

 彼女は俺達が長い旅を経て帰ってきて、直ぐに追って来たことをルインから聞かされていた。


 そこにあるのは好意や愛情ではない。

 彼女が持つ責任感の強さと他者を思いやる優しさから出た行動だ。


 俺は思わずそれに対してクスッと笑ってしまった。


「何がおかしいのかしら?」

「いや、レナードにそっくりだなって」


 そんな側面を見た俺は、生徒会長やらドール家の人間としてやや固い偏見を持っていたのかもしれないと反省した。


 アリサが初めてレナードに対して仰々しい態度をとって注意したのに。


「人のことは言えないなぁ、ありがとう」


 エルザから離れてお礼を言うと、エルザは今自分のした行動が恥ずかしくなって顔を真っ赤にしていた。


「さて、ダルメシア王」



 俺は赤龍の籠手をポーチに入れ、軽く魔力を込めてダルメシア王の頬をパンパンッと叩いた。

 すると王は喉を鳴らして起き上がり周囲を見渡した。


「うぅ…ここは、何を……」

「ユウキ・ブレイクとエルザ・ドールです。ノイントとジーザスが人族を裏切り、融和のカーテンが崩壊しました。俺達には止められませんでした……」

「…大儀であった」


 そう言って微笑みかけるダルメシア王は、公務から離れた時に時折見せた優しい父の顔だった。国民を我が子のように想い、国の行く末を舵取りし続けた。


 そんな漢は全身全霊をかけて行動したユウキ達を労っても、罵倒するようなことはしなかった。



 ダルメシア王は俺達が一年前に出発する少し前から、少し記憶が飛ぶことがあったそうだ。

 だが《人心掌握》を皇帝に使った経緯は覚えていてくれた。


 俺はゾディアック帝国に到着して皇帝への謁見を果たした日、皇帝と一戦交えることになった。

 このとき接触した隙に、ノイントから持たされた広域通信用魔道具を介して、水晶から《人心掌握》を発動されたのだ。


 全てではないが、俺達が到着してから一部の行動は操作された物だったそうだ。



「皇帝も帝国内も事なきを得ました。今は娘のフェニキアと共にうまくやってます」

「あの娘か。詳細な記憶はないが身体は恐怖を覚えているぞ…」


 そう言いながら震えているが、口元には笑みがこぼれているのを見て、この人も覚悟を決めた主たる王なのかもしれないと思った。


「それより早く王都に戻った方がいいのでは?」

「その通りじゃ、しかしこの雪山を戻るのは難儀じゃなぁ…」


 俺は二人を魔法陣の方へと案内し、トールガルス城塞経由で王都へ戻る事にした。

 だが負傷者がいてこの急こう配を下るのは、少々骨が折れそうだと溜息一つ漏れるのであった。



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