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開かれた幕(3)

 この世界には魔道具という特殊な力を持った物が存在する。

 ユウキも王都の雑貨屋で買った通信可能な首飾りや、父から貰った特殊な空間拡張型ポーチを持っている。


 それら魔道具は一般市民の知らぬ前に市場へと流れ、不思議な力を持つアクセサリーとして大陸全土へと渡り現在に至る。

 出回った当初は、高額品として貴族が持つものだったが、劣化品が出回りだしてからは庶民の手にも届くようになって行ったのだ。


 古くから存在するアーティファクトなのか。

 それともイビルウェポンのように得体のしれない物なのか。


 これらは広く普及するにしたがって市民の生活必需品となり、やがて誰が作ったのかと言う事は誰も気に留めなくなっていった。



 では誰が広めたのか。

 答えは単純(シンプル)で、固有血技《波長干渉》を持つバレル一族によるものだった。


 しかし世間に広まった理由は、当初想定していた事とは違った物になっていた。


 バレル家に発現した固有血技《波長干渉》は、物体の魔力をある程度操作できる。

 初代発現者であるノーザス・バレルは、この《波長干渉》を使って物質に宿る微小魔力を繋げることを思いついた。


 結果として試みは成功し、物質に伝播させることで特殊な力を持つ『魔道具』の試作に成功する。

 これらはダルメシア戦争でノーザス・バレルとトージが研究開発を続け、実戦投入にまで漕ぎ着けて大いに影響を与えた。


 しかしアクセサリー自体に強度が必要だったため、ドワーフのサービッグが製作する特殊品でしか付与できず生産性に課題が残った。


 ノーザスは研究を続け、通常の物にも付与できるよう試行錯誤を行ったため、失敗品も含めて山のような在庫が出来上ってしまったのだ。

 ノーザスはこれらの品物が必ず役に立つ日が来ると信じ、王都学園の自らの隠し部屋へと保管する事にした。


 いつか魔族との戦争が起きた時に使えるように…と。


 だが誰かに読まれては困る内容が含まれていたので、トージが使っていた日本語を暗号として遺すことにした。

 子孫にはこれが解読できるであろうと推測し…



 そして時は流れ、ノイントがノーザスの遺した大量のアクセサリーと文献を発見する。

 自ら固有血技や魔力を対象として研究していたから、ノイントにはそれらアクセサリーや武具が特殊な能力を有している事は直ぐに理解した。


 だがこの時ノイントは《波長干渉》に対して、非情に稀有な可能性を見出していたのだ。


 それは魔力線を共有した世界ネットワークの構築である。



 まず先祖とノイント自身が大量に創造した失敗魔道具を、徐々に流布し始めた。

 そして貧困層にも行き渡るようになった時に完成した。


 自らの持つ水晶玉へと、情報と共に魔力が集められるように細工をしていたのだ。


 つまり大陸のあらゆる場所から、自分のために使える魔力と情報を集められる。

 それも所持者が無自覚な状態で回収されるのだ。



 魔道具という物を生み出したノーザス・バレルは天才であった。


 だがそれを応用したノイント・バレルは鬼才だったのである。




「レナード、やれるか?」

「オーケーユウキ、そっちは?」

「未知!でもこいつを試せる」


 俺はポーチから赤龍の籠手を取り出し装着した。

 握りしめて感触を確かめると、始めから自分のために作られたかのような一体感を感じる。


 魔力が全身に行き渡るよう沿わせていくと、炎のように煌びやかで滑らかな蒸気のようなものが、溢れた魔力として現れた。

 瞬き一つで瞳孔は形状を変え、人族のそれとは違った威圧を放つ。


「海は渡らせない」

「無理…ですね。講義の時間です」



 ジーザスは刀を天高く持ち上げると、そこに雷が落ちて帯電を始める。


「レエェェェニィィィ!いっくぜぇぇぇぇ!!」

「兄上…狂ってると言えましょう。《光の翼》!」


 最初に仕掛けたのはジーザスだった。


「こいつはいいぜぇ…トンじゃうよ?ソラミツ!」


 《虚空見(そらみつ)

 帯電したままの状態で漆黒の魔力を長刀に纏わせる。

 そしてそのまま《清浄なる一閃》のように斬撃を放つつもりである。


「《ディヴァイン・ガーディアン》護れ!」

「なんで凄い魔力…!」


 《魔法障壁》

 《タービュランス》


 アリサは左手で魔法障壁、右手で風属性上級魔法を発動した。

 周囲に風力が生まれて雪を巻き込みながら猛吹雪となり、ジーザスとノイントを襲うが相手が悪い。


 だがノイントの固有血技は厄介だった。


 《干渉崩壊》

 精細な魔力操作を必要とする技は、ノイントによって歪められて簡単に不発とされた。


「強力な魔法ほどコントロールが難しくなる。私の前では使えないと思いなさい」


 俺はノイントから発せられた魔法陣を見るや、地表を殴りつけて岩片と氷をノイントに投げ飛ばした。


「チッ!我に守護の力を与えたまえ…《魔法障壁》」

「おせぇ、無詠唱の勉強しとけ!」


 《点穴》によって魔力供給と《波長干渉》の魔法陣を凝視する。そして最も脆い場所、ブラックスポットを看破した。


「コントロールが難しいのはお互い様だな!」


 地を蹴り一気に加速してノイントへの距離を詰めると、加速度をつけたままノイントが発動した魔法陣を殴りつける


 だがしかし破壊には至らない。


「うぉおおおおおおおおおおお!破砕する!!」


 《焔の流血》


 赤龍の籠手から炎が噴き出し、再び殴りつけた魔法陣を粉砕した。


 ガシャアアアアアアン!


「なっ…!おぞましい!」


 激しい衝撃と共にノイントが展開した魔法陣が崩壊すると、炎の軌跡が流れ出して大気中で流血のように滴り落ちる。

 それを見たノイントは思わず顔をしかめると、俺はその隙にコアとなっていた水晶を奪い取った。



「神号は発せられた…天満(そらみつ)が発する調律《虚空見(そらみつ)》!」


 ジーザスは魔力供給が止まるも構わずに《虚空見》を発動した瞬間、全周囲に帯電した衝撃波が走り全員が知覚した。


 それは自らの心臓の鼓動が高鳴るのを。


 ジーザスは天から降り注ぐ一筋の雷光を刀身に受け止めて魔力を際限なく放出させ、大きかった漆黒の翼は更に大きを増し、次の一撃へとその力を蓄え続ける。


(私達死んじゃうの?やだ…もっとしたい事がある……)


 アリサは今まで経験した事が走馬灯のように駆け巡っていた。

 共に歩く人たちと楽しかった日々や苦い思い出もある。


 この歳では経験し足りない事が沢山あって、死にたくないと本心からそう願っていた。


 その時、ふわりと舞った一筋の雪が戦場を駆け抜け、ジーザスの足元に着雪する。

 魔力風によって雪が吹き飛ばされ、ジーザスの足元には巨大なクレパス(氷の地割れ)が出現したのだ。


「ひょ!?うぅぅぁぁああ!」


 ジーザスは突然足場を失い、《虚空見》による雷を伴う強力な剣閃はあらぬ方向へと発動されてしまった。

 遥か上空へ向けて放たれたそれは、雲を引き裂き天を穿つ。


 もし正面から受けていたのならば、ただでは済まないと誰もが感じ取った。


「先生ーーー!!」


 発生したクレパスの深さは不明。

 その青白き深淵からはとても生存が期待できない感じであった。


「兄上…どんな強力な固有血技も自然現象には勝てません…」


 レナードはクレパスを覗き込み複雑な心境に苛まれていた。

 しかし遠くから聞こえたアリサの声で、クレパスがアリサの所まで浸食している事に気が付いた。


「アリサーーー!」


 必死の問いかけも虚しく、レナードの叫びは氷壁へと木霊するだけだった。


 しかし落下するアリサは不思議と恐怖を抱いていなかった。このクレパスは大丈夫、自分でどうにかできると感じていたのだ。


「不思議な感じ…呼んでる」


 魔力で風力の向きを調節しながら常闇の深淵に向け、下へ下へと降りて行った。



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