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開かれた幕(1)

「レナードはよくそこまで努力しましたね。教育者として嬉しい限りです」


 そう言いながら俺が抱きかかえるダルメシア王の許へと歩みを進める。


 だが彼は何をしに来たのだろうか?

 俺達に命令してダルメシア王を追わせ、最後には自ら現地に赴くとは全く合理的ではない。


 それは合理性を重要視するノイントからはかけ離れた行為だった。


「解せないな学園長。何でジーザスを激励するんですか」


 パンッ!


 突然俺の眼前に迫った強力な炎弾が四散した。

 遠くではアリサが両手を突き出ており、魔法障壁を無詠唱で発動させたのが伺える。


「流石です。君の魔術士としての腕前はやはり人族の誰よりも強い」


 そう褒め称えながら、両手を広げて大仰に上空を見上げた。


「あんたが…黒幕なのか?」

「はい。正解です」


 王を抱える傍らでノイントに対して聞いた黒幕と言う言葉。

 返された答えは、あまりにもシンプルすぎた。


 ダルメシア王自身はそこまで強大な魔力を有していない。

 当然のことながら魔法や術耐性などは一般人と同レベルであり、固有血技に対して特別な対処法を持っているわけではない。


 そうであるならば、ダルメシア王の傍に常に仕えていた学園長は…彼に使う事ができるのだ。


 バレル家に代々伝わる固有血技《波長干渉》という強力な技を。


 この《波長干渉》は発動者より魔力の弱い物や相手に対して、魔力の波長を操作して効果を強弱したり、本人の意志に関係なく魔法を操作することが出来る。


「そうか、ダルメシア王は自分自身に《人心掌握》を使わされたのか!」

「ご明察!まさにその通りですよユウキ君」

「王を傀儡にしていた割には…あまり酷い事態じゃないな」


 王を操れるなら戦争だろうが国をつぶす事だって容易い。

 議会を通す必要はあるが、基本的に王が正義を掲げれば右に倣う風習がある。


「魔力の扱いを知ることは人類の羨望であったと私は言いました。魔大陸へ渡りその叡智を育むためならば…私は魔族とだって手を結ぼう」


「なんで!私達は最初から騙されていたの!?」


 なんて事だ…

 もし学園長が魔族と手を結び、情報を流していたのなら繋がる線もある。



 一つは20年前に起きたダルカス大森林の獣人討滅戦。

 あれはゴブリンのグライス一族と、オークのグロッサム一族が森を追われた戦いだ。


 当初魔族のスパイを恐れ、王都の近くに住み着く獣人を排除した戦争だと聞いていた。

 だがそもそも何でそんな話が突然湧いて出てきたのか。


「ダルカス大森林の獣人討滅戦は、あんたのスパイ行為を隠蔽するためか?」


「えぇそうです。闇ギルドにホルアクティとの接触を感知されましたが、人物の特定まで至らず獣人に目を向けることを考えました」


「それのせいで鵙が…ボクの両親が殺されたんだ!ふざけるな!!」

「副次効果にまで責任はないですよ」


 ノイントはあの戦争で発生した魔族スパイ狩り行為は、自分のせいではないとキッパリ否定した。

 闇ギルドは他方から情報の収集を図りにノイントに迫ったが、戦争を起こしてしまえば混乱に乗じる事は容易い。


「だがあの女だけは信じなかった…殲滅予定が狂わされてしまったよ」


 歯車が少しズレたとノイントは言う。

 あの女とは、恐らくグライス達から聞いたドクロの紋様がある女剣士のことだ。


 ダルカス大森林獣人討滅戦の直前に一人で訪れて、獣人へ警告して回った彼女はネームド2体を相手にしても殺されず逃げたきった凄腕剣士だった。


 この警告によって獣人側の被害は最小限に留めることが出来たとグライス達から聞いている。


「あの女とは?」

「当時の闇ギルドリーダーで二代目プレジャー。厄介ですよ彼女は」


 そこで俺はハッっとした。


「ポーク…バーグ!」


 これに三人とも得心したようだった。


 アリサと俺は出会った当初から面倒見がよくて初めての王都でとてもお世話になった。

 でも叱る所では優しさなど吹き飛び、本気になると俺でも動かせないほどの膂力を発揮していた。

 そして各ギルドリーダーとの接点、必要な時に送られてくる的確な情報。


 冒険者とコネクションが出来る宿屋の女将というだけでは、とても説明が出来ないことばかりだった。


「人獣会談には驚かされました。まさかあそこまで辿り着く人物が現れるとは…」


 ノイントからしてみれば、追い払った者たちが帰ってきてしまったのだ。あまつさえ手を取り合おうと言い出す始末。


 しかし時代が否定する事を許さず、ふいに捨て置くよりは一芝居打ち今後の役に立てようとしたのだ。


 ダルメシア王を使って近衛兵長ジーザス・バレルの乱心と投獄。

 魔族との情報のやり取りは一方通行。


 ホルアクティを使って魔族側に情報を送ることができるが、魔族からノイントに対してコンタクトを取ることはしない。


 したがって、腹心が投獄され唯一性のある自分の身が危ぶまれていると送ったのだ。


 結果として魔族はこちらの世界の様子見に現れ、魔血衆によってジーザスを解放してくれた。

 更には魔族側からもたらされた重要な情報を入手することが出来たのだ。


「カーテンの寿命は短いと。ユウキ君、あなたを通じて情報を貰いました」

「チッ!俺を使って情報を受け取っていたのか…だが皇帝の件はなんだ!」

「ゾディアック帝国が動き出さないようにするための抑止です」


 俺が現地に居たので大事にはならないと踏んでいた。

 そして状況のミスリードと、事態を引き起こすための時間稼ぎのために《人心掌握》を使ったとの事だった。


「人の命を何だと思っているのですか!」


 レナードが憤慨してノイントに食って掛かる。

 これまでノイントの会話を邪魔しないようにしていたジーザスも憤慨する。


「レナード、先生は絶対だ!結果として良くなる!!」


 これを機に話し合いは終わりを告げ、状況は一変する事になった。



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