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ゼリウス大雪山(1)

 レナードは消えたトージの横を通り過ぎ、雪結晶の魔法陣へと向かっていく。


 俺達も遅れまいとその後に続くが、転送先の状況が分からず安易に飛ぶのはいかがな物だろうか。

 少し不安になってレナードに静止をかけた。


「レナード…気持ちはわかるけど防寒対策は大丈夫なの?」

「火と風の魔法で大丈夫かな。ユウキはどうする?」


 このまま融和のカーテンが解かれたら、すぐにでも魔族の大侵攻が始まるかもしれない。

 だがそれはジーザス・ドールや国王を一緒に追っても同じだ。


 結局自分一人にできることは限られるのだから、学園長から依頼されている国王捜索を優先させるべきだ。


「いや、俺も同行するよ。ここで魔法陣が起動するのを待っていたら真っ白になっちまう」


「それならボクも白髪になるまで待ってるよー」


 そう言ってルインはまた俺の腕にしがみ付いてきた。

 もう少し恥じらいという物をだな…


 ふょんふょん…


「やべぇ…」


 プニプニ弾力が…もっと触りたい……


「ん?あ!ちょっ、ユウキ!ルイン!」


 アリサに言われて俺の手が止まり、完全に行き場を失った俺の手は頭へ方へと誘われていく。


「行こうか。王に近づくことが出来るのだから!」


 ……ちぇ


「ん?何か言ったか?」

「なんにも!寒くないといいねぇ~」


 そう言いながら俺達は綺麗な雪の結晶の魔法陣を通過した。


 しかしルインは良く成長している。


 精神面も肉体面も…そしてそれは俺自身も。あの旅の間での成長は目を見張るものがあった。


 まぁあれだ。

 仕方ないじゃないか、だって男の子だもん。


 レナードとアリサから向けられた視線は大雪山よりも冷ややかだった。



 転移後の景色は…晴れ!

 その絶景に心奪われるのも無理はない。


 見渡す限りの白銀と、岩肌が際立った連峰の数々。ゼリウス大雪山とは名前負けしていない。


「うわぁー凄い眺めね!」


「絶景だね。僕もドールガルスに住んでいたけど、ゼリウスには来たことが無かったんだ」


 これがピクニックであったのならなんて最高だったんだろう。

 だが今は王の行方を追う身であるので、直ぐに魔力の痕跡を探すことにした。


 《点穴》にて魔力の微かな痕跡を探ると、すぐに見つかった。


 理由は単純で、ろくな装備もない状態で大雪山の山移動など魔法を使わずにできないのだ。

 これがもし前世であったのならば、滑落死か凍死を選べと宣告されたような物である。


「えーっと…ここから100mほど山頂に向かったところに魔力痕跡だ」

「ぇ…これ登るの?」


 ルインの心配そうな声に対して、山頂方面を見上げた全員が半ば絶句してしまった。


 稜線(山の高い位置にある線)沿い進めばいいのだが、そのこう配がキツく更にサラサラの新雪が積もる。

 下手に火をつけて歩けば、振動や融解で表層雪崩を起こしかねない。


「飛んで行こうか。できるだけ着地を減らしていこう」

「そうだな。アリサ先導してくれ」


 この中で最も魔力の操作に長けたアリサが飛翔して足場を探す。風を纏ってジャンプ力を高め移動していく事にした。


「たかが100mがこんなに辛いなんて…山って怖いわ」


 辿り着いての第一声が精神的な辛さを物語っていた。


 だがその甲斐あって収穫は十分である。

 目標地点の魔力痕跡はキャンプ跡で、岩穴になった場所に入り込み火をくべた様だ。


 そして足跡の形から三人であるため、全員の生存を物語る喜ぶべき情報でもある。


「よしルイン、匂いで分かるか?」

「任せて!ってボクはウルフじゃ…あっ、こっちに穴がある」

「さすがルイン!この奥の洞窟に進んだみたいだな」


 ルインにポカポカと叩かれながら俺は魔力探知を進めると、洞窟になっている奥に進んでいた。


 冬眠したベアに注意を払いつつも、穴の中を進んでいく。


「きゃっ!」


 鍾乳石のような突起が沢山あり、アリサがポニーテールに引っ掛かり転倒しそうになったのだ。


 後ろを歩くレナードはアリサを引き寄せて回避した。


「あ、ありがとうレナード」

「うん、気を付けて」


 どこかアリサは照れたような顔をして直ぐに前を向きなおした。

 先の見えない中で灯した篝火だけが頼りだ。


 アリサでなくても気をつけないと取り返しのつかない負傷をしてしまう。


 どの程度の距離を進んだのか感覚で分からなくなるほどゆっくりと進むと、やがて前方が白んできた。


「明かりだ。雪の舞い方から多分吹雪いているな」


 そう言って指さす方向からは、近づくほどに猛烈な風が体感できた。それは寒さを通り越して痛さを覚えるほどに。


「わぉ……ホワイトアウト」

「これは…待つかい?」


 ホワイトアウト。


 それは雪が風で舞い上がり、視界を著しく低下させる自然現象だ。

 恐らく洞窟の出口はくぼ地になっていて、吹き込んだ風が堆積した雪を巻き上げているのだ。


「相当待たないと変わらないと思う。それにな…見つけたぞ」

「えっ?居たの??」


 ルインは目を凝らしてホワイトアウトした雪の中を探るも何も見えない。


 俺は《点穴》で魔力の動きからその場所を特定できたのだ。

 と言うよりは《人心掌握》の禍々しい魔力が、眼前にいると分からせてくれる。


「よく来たユウキ・ブレイク。歓迎しよう」


「なぜだダルメシア王!なぜ掌握している…ジーザスを!!」


「ふふふ…はははっ!行け、ジーザス!!」


 レナードの兄で元近衛隊長ジーザス・ドール。


 彼はレナードと同様に《光の翼》を行使できるが、始めて人族と獣人が円卓に着いた人獣会談で俺に剣を向けて拿捕された。


 そして俺達がゾディアック帝国にいる間に、ダルメシア王と妹を人質にとり逃走を図ったと聞いていた。


 だが実際はダルメシア王がジーザスを連れ立っていた。


「来るぞ、レナードはジーザスを頼む!ルインはエルザを捜してくれ!」


「「了解」」


 へぶッ!


 俺は突然正面に転倒した。


 何が起きた?敵の攻撃か??

 全員が目を見開いて俺を見ている。



 理由は単純だった。


 ダルメシア王へ一気に間合いを詰めようと地を蹴った瞬間、雪ですっころんだのだ。


「ハハハハッ…曲芸がお得意のようだな?《光の翼》」


 キンッ!


 甲高い音共に俺の首筋めがけて放たれた斬撃が止められる。


 先ほどトージから譲り受けた『狂乱』がジーザスの刀を受け止ていた。


「再び私の刃を止めるか?レナードよ」

「はい、兄上は…ジーザスは間違っていますので!」


 レナードは二本の刀を振るい、風圧で新雪を吹き飛ばしながらジーザスを徐々に押していく。




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