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トージの書庫

「おかえり、どうだった?」


 寮に帰るなりレナードが声をかけてきた。

 どうだったとは、この一年の旅で村や村民に変わった事は無かったかと言う事だろう。


「あぁ、村の皆は元気だったよ。戦争前とは思えない静けさだ」

「なら良かった」


 レナード…

 正直心苦しかった。


 村民の安否を確認したのは良いが、対照的にレナードの妹は実兄ジーザスに人質を取られて失踪。

 そんな状況でどう言っていいのか分からなかった。


「レナード、必ず連れて帰ろう」

「うん」


 言葉は少なめに口を紡ぐ。

 帰宅してすぐにサウスホープへ向かったため、疲れが溜まっていたのかベッドに入るとすぐに意識が霞んでしまったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(…ここは?)


 そこは草原がどこまでも続き、陽光が心地よい温もりを与えてくれる。

 歩き続けるも、一向に何も見えてこない。


 だが風に揺れる草の合間に、二人の子供を見た気がした。

 俺はそちらに向かうと、楽しそうに遊ぶ声が聞こえる。


「どこに蹴ってるのよ!」

「そっちが…ん?」


 片方の子が俺に気がついて指を差し、二人でこちらへと走って来る。

 その二人に微かな覚えがあるような、どこかに引っかかる何かがあった。


「……てね、…したち……きだよ」


(なに?うまく聞こえない。何を…?)


「前だけを見て。僕たちの未来は紡がれたから」


 そして二人は口元を緩め、そして大手を振って別れを告げた。


「「お誕生日おめでとう!」」


「あっ…」


 俺は子供達に手を伸ばすも、空を掴む。

 眼前の光景は草原ではなく、久しぶりの寮の部屋の壁。


 微かなリラックスする香りが鼻腔をくすぐり、現実へと意識を覚醒させていった。


「おはようユウキ、うなされていたけど大丈夫?」


 そう言ってレナードは口につけたティーカップを置くと、心配そうな顔をして傾げて来る。

 いつものレナードだった。


「あ、あぁ。妙な夢を見てな」

「なるほど、長旅だったからね」

「でも止まってられない。支度して出るぞ」


 その言葉にティーカップを持ちレナードは一口、喉を潤す。


「ユウキ、まずは僕が淹れた紅茶をどうかな?」


 俺はレナードの意外な一言に驚き戸惑ってしまった。焦っていたのは俺の方?


 …あぁ、そうか。


「逆に気を遣わせたな。俺がもっとしっかりしないといけないのに」


「それが気負い過ぎなんだよ。僕達は対等な友であって気を使い合う間柄じゃないさ」


 俺は一口紅茶を飲むと、リラックスした気分へと誘われる。脱力した身体に染み込む香料は一拍置いて別の考えをくれる。


「紅茶は最高の薬だな」

「焦った時ほどティータイムさ。外じゃ中々できないけどね」


 俺たちは寮で朝食を摂ると、学園の地下ダンジョンに向かった。

 一段下がると気温が下がるような雰囲気のある場所を過ぎると、巨大な扉が見えて来る。


 だが先客がいた。


「やっほー」

「遅かったわね、行くわよ」


 アリサとルインだ。

 昨日アリサとの別れ際に、朝ここへ来るように言っておいたのだ。


 目的地は地下ダンジョンのトージの秘密書庫。

 そこには起動しない魔法陣があり、ナルシッサの話からドールガルスへと通じる魔法陣であると推測できた。


 彼に会えば何かがわかる。


 なぜ大陸全土を巻き込んで、血と怨嗟轟くダルメシア戦争が起きたのか。

 なぜ魔族がこの地に攻め寄せるのか。


 そして…何処でそれを知り得たのか。



 過去の英雄は物言わぬ骸ではなく意思を未来へと遺した。俺たちはそれを汲む資格があるのだと思う。


 ドールガルスに直結するならば、王の足取りにも近づき一石二鳥である。


「悪いな紅茶が美味くて。な?レナード」

「うん、とてもリラックスできたよ」

「なら私たちも誘いなさい」


 小言を言い合い気分を紛らわしていく。俺達はまた引き返せない泥沼に足取りを運んでいる。


 いや、もう泥の中なのかもな…


「書庫への直結魔法陣はこっちだ」


 俺は以前アリサ、レナードと共に戻ってきた魔法陣のある小部屋へと誘う。


 そこでルインが俺の腕を抱えるように引っ付いて来る。

 旅の中で色々と成長してきたルインさんから、何やら“ふよふよ”とした感触が腕を伝う。


 俺はそれを気にしないようにするも、やや腰が引けてまった。

 まぁ、健全な男であれば仕方のない事だ。


「怖いか?」

「ん、大丈夫」


 珍しく言葉少なめに彼女の返事が返ってきた。

 修練用でダンジョンの難易度も低いし、入ってすぐは魔物が少ない。


 それはルインも授業で入っているので分かっているはずだが、書庫には入ったことがなかった。


 行き止まりの部屋に着くと、俺は黒龍の鱗を取り出して魔法陣を起動する。


 そういえばナルシッサもリザードキングの首飾りを起動で使っていたが、何かを鍵にしないといけない仕組みなのだろうか?

 ロストマジックは少し謎があり《点穴》でも解析できていない。



 起動した魔法陣から溢れる光の渦の中に目を細めると、そこはカビ臭い匂いが立ち込める書庫に出た。


 レナードは周りの本には目も向けず、一直線で“起動しない魔法陣”へと足速に移動した。

 俺達はその速度にやや着いていくのが精一杯で、アリサが本に躓くも抱き寄せて跡を追った。


 魔法陣の場所へたどり着くとレナードは魔法陣に触れて、あの時見た浮かび上がる文字を再び出現させる。


「黒龍と闘った時は、まだその時ではないと出たな」


「うん、恐らく様々な地を巡ってこの世界の事を知った今なら…」


 レナードは浮かび上がった文字に対して、魔法陣に手をついて小さい声だがハッキリと告げた。


『世界の真実と魔族への対抗手段を…』



 だが何も起こらなかった。

 魔法陣は依然として浮かび上がったままだ。


「なん…で!」


 レナードは拳を地に叩きつけた。

 進む道があるのに進めない状況、何か手掛かりがあるはずだ…


 俺はそう思って書庫を見渡していると、ルインがある事を口にした。


「『ゼロの盤上』?…だったりして。ないかぁ~」


 ルインの発言の直後、魔法陣が輝きを取り戻し複雑な幾何学模様を描きだした。


「ふぁ!?」

「やったなルイン!それが鍵だ!」


 ポカーンとしたルインの肩に手を置くと、俺達は起動した魔法陣に吸い込まれて視界が真っ白になった。


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