審判と決意
優希はぼんやりするなか目覚めた。
「ここはどこだ・・・」
視界は白くモヤがかかったようにハッキリしない。
すると声が聞こえてきた。
「・・めん・さ・、ごめんなさい・・・、ごめんなさい!でも・・あ゛りがとうぅぅぅ・・・ひっく」
この声はあの時の少年だ。
よく見ると花が綺麗に並べられている。
どうやら葬儀場のようだ。
葬儀の主役は言うまでもなく自分だ。
少年はサトシと言ったか。
「サトシ君、俺は大丈夫だ。死んじまったが何ともないからもう泣かなくていいよ。」
しかし俺の声は彼には届かない。
「ぅぅ・・兄ちゃん・・」
(くそっ!なんで届かないんだ!俺は・・俺は・・!)
声が届かずサトシが悲しみに暮れるのがもどかしく、やり場のない怒りが自分を責める。
そして優希は思いっきり壁を殴りつけた。
そう、殴ることができた。
ピシッ!
殴ったところから奇妙な音がした。
壁に亀裂が入っている。否、空間が割れているのだ。
そしてそれはどんどん大きくなりやがて・・
ピシピシ・・ガシャーン!
ゴオォォ!
空間の穴に吸い込まれるような突風が発生した。
「まずっ、何だこれ!サトシ君、俺は大丈夫だ!もう泣か・・」
そこで優希は穴に吸い込まれた。
「兄ちゃん、ひっく・・ありがとう・・ぅ」
少年の声は静かに木霊した。
———————————————————
「次から次に何なんだ・・・。ここは?」
すると老齢な声がした。
「ヌシは何だ?死者か?生者か?
まぁいい、裁量はワシの一声で全てが決するからな。」
そこには大きな玉座のようなものがあり、周りでは忙しなく人?が書類を持って右往左往している。
「ワシはアヴィスターと呼ばれておる。ここでは死者の生涯を見、善悪をワシが判断しておる。
ワシが見る限りヌシは死者に限りなく近いが・・普通は人の形などしちゃおらん。」
アヴィスターと名乗った者は大きく、座った状態で2m近くある。声は老齢だがガッチリしており威圧は凄まじい。
「俺は少年を助けてそれで・・・」
訳を話そうとすると、アヴィスターに手で遮られた。
「話さなくても良い。ワシには魂の記憶が読める。
人の言葉ほど信用できないものはないからな。」
するとアヴィスターは優希の方に手をかざした。
「ヌシには選択権が与えられる。」
アヴィスターが言う。
1つは別の世界へと行く。
1つは魂の浄化。
1つ目は記憶を保持したまま、異世界へ全く新しい生を得ること。
2つ目は輪廻だ。
この選択肢は似ているが全く別物だ。
2つ目はもはや俺が俺で無くなる。
前世に心残りがあるし、選択肢は1つだ。
故に、こう答えた。
「俺は異世界で新たな生を全うしようと思う。」
アヴィスターは表情を変えずに切り出した。
「ヌシには転生後に1つしてもらいたいことがある。」
回答後の条件である。
「なに単純なことだ。異世界は火種が多いから鎮火して欲しい。ようは平和にしろと言うことだ。」
しかしそんな技能など優希にはない。
「出来ないかもしれないぞ?」
そんな心配をよそにアヴィスターは言う。
「ヌシは運命に絡まれておる。恐らく転生後の住人より少々特殊になるであろう。」
続けて言った。
「異世界の名はジアス。元の世界より文明は未発達だが、魔法と言う特殊なものが発達しておる。」
(うーん、実感が湧かない。)
そう思い、優希は必要なことを聞いた。
「質問が3つある。」
アヴィスターは手を広げて言った。
「必要なことなら答えよう。」
つまり不都合には答えない。と言うことだ。
「1つ目は元の世界への帰還方法の有無。2つ目は特殊な力について知る事を。」
アヴィスターは考えるように答える。
「う〜む・・元の世界への帰還は今のヌシには不可能だ。特殊な力の詳細はワシにも分からん。」
つまり、まるで答えになっていない。
「では最後に、ここは何だ?
何も無い荒地、暗い空。
玉座は豪華だか、とても住んでいて気持ちのいいところでは無いな。」
するとアヴィスターはほんの一瞬だけ口角が吊り上がったが、すぐに無表情に戻り答えた。
「最初に言った通りだ。死者の魂の裁量のみ。
たまにヌシのような善人を手助けするだけだ。」
(たまに?まぁ答えないか・・言葉ほど信用できないとね。)
言っている事と状況は一致する・・が、何か重要なことを隠している感じがする。
すると上空から優しい光が優希を照らす。
「時間だ。ゆめゆめ神託を忘れる事の無いよう。」
すると、アヴィスターの隣まで歩いてきた女性が言った。
「記憶が戻るのは6歳になってからです。脳が持たないのでそれまでは普通の子と同じになります。」
光が強くなる中で優希は答えた。
「了解した。条件は善処するが期待はしないでくれ。」
そして光の中へと消えていった。
この瞬間、高井 優希は17年の生涯に幕を閉じた。
そして、産声と共に新たな歴史を綴る・・・