幼馴染の少女
眩しい光に目も開けられず歩き続けると、やがて異なる地面の感触に目を開けた。
そこは一度来たことがある場所。
ダルメシア王国の“謁見の間”であった。
「どう言うことか説明して頂きますよ?」
よく知った声に厳しく咎められて、馬車と共に矛が突きつけられていることを知った。
相手は学園長ノイントだった。
「学園長こそ、なぜ通信を途中から切ったのですか?」
「通信?そんな物はパーミスト洞穴に入ると連絡があってから来ていません」
何だと?
ではパーミスト洞穴に入ったせいで壊れてしまったのか?
「それは失礼しました。過去に残された転移魔法陣で今帰還しました」
「転移魔法陣?なるほど。地下ダンジョンの様な奴ですか」
敵意がない事を確認して、矛を下ろされたが納得いかない。
謁見の間に突然現れたと言えど、外交から帰ってきた奴らにいきなり矛を向けるか?
「王に何かあったのですか?」
レナードの問いかけに学園長はピクリと反応を示した。
「ここ数日、王の行方が分かっていません…」
「何ですって!?」
「国民は知りませんので内密に」
ダルメシア王が失踪?
そうだ、魔族だ!
「パーミスト洞穴で魔族と会敵、これを退けましたが宣戦布告を受けています」
「何ですって!?すぐに三国会談を…」
学園長を静止すると、パーミスト洞穴から帰還までの間にあった出来事を伝えた。
・魔族に関する二国会談は終わっている事。
・二国は獣士と共存調停を結んだ事。
・魔族からの宣戦布告。
・融和のカーテンが崩壊直前。
・ナルシッサからイビルウェポンを託された事。
・一本が魔王カイラスに盗まれた事。
そして学園長からも、王都で起きた重大事変が重なったと話があった。
一つは王の失踪。
そして失踪の直前に何者かによって監獄が破壊され、元近衛兵長ジーザス・ドールが脱獄した。
檻は鋼鉄製で、超高温で溶かされた壊され方をしていたそうだ。
「兄上…」
「追いかけるか?」
「その事について、ホルアクティが北に向かうのを衛兵が見ていました」
鳥獣人ホルアクティ。
ナルシッサからの情報で、奴らは唯一魔族と繋がっているとされていた。
怪しさ満点じゃないか。
「ドールガルスなら方角が同じだな」
「そうね、行かない道理はないわ」
学園長も特に反対はない様で、すでに捜索隊が出ているから後追いをする様に言われた。
「それと、脱獄したジーザスが妹の生徒会長エルザ・ドールを人質に逃走しました」
ドール家立て続けの事案に、レナードは足を地面に叩きつけて憤慨した。
「なんッ!何をやっているんだあの人は!!」
俺はレナードの肩にポンッと手を置き、落ち着く様に告げた。
「はやる気持ちは分かるが、俺たちなら追いつける」
その言葉に深呼吸をして、レナードは気持ちを落ち着かせようと努めた。
いくら脱獄犯とは言え、人質に取ったのが身内であったのは救いか。そうそう邪険にはしないだろう。
「学園長、俺達も北上します」
「ダルメシア王のことをお願いします」
それに頷き、扉を開けて馬車を引っ張って行く。
馬を引っ張りながら激しくため息を吐いたが、当然である。
(馬車が出られる広い場所で良かったー…)
些細な問題点を回避できた事に安堵し、ルインに耳打ちをする。
「ルイン、頼む」
「はいはーい、後でね」
一言で通じる素晴らしい思考力だ。
ルインには先程話した通り、闇ギルド長のガルドに会って情報収集を行ってもらう。
学園長からの情報だけではなく、複数からの裏どりと新情報の獲得が狙いだ。
「レナード、寮の方に頼む。こいつを…」
そう言って手綱を手渡した。
レナードは硬い表情で頷く…
しかし分かってくれた様だが、いまいち納得していない感じである。
「ユウキ、これは僕じゃなくても良かったよね?」
「あ、あぁ、バレたか?」
何てことだ…
アリサと別の場所に行くのに、荷物運びを頼んだことがバレてしまった。
「貸しだからね?」
「悪いな、それと帰りは遅くなる」
レナードは頷き、馬車を外まで運び出しにいった。
ふぅ…
「おつかれさま。ユウキ」
「それは皆同じだよ」
それに首を横に振るアリサ。
彼女はどこか優しげな瞳で見てくると、俺の頭をガシッと掴んで胸元へと寄せる。
「全部を見過ぎよ。たまには自分を見て頂戴ね?」
あぁ、少し頑張りすぎただろうか…
皆を頼ってここまで来ることができた。
だが皆それぞれに葛藤があり、深い傷を負ってでも這い上がってきた者もいる。
そんな子達を全員まとめてきたと言えば痴がましいが、少しは頑張った。
そして共に育った少女が労ってくれたのだ。
俺は一年近く旅をした中で身長がかなり伸びた。それはアリサより頭ひとつ分でる程に。
「大きくなったね」
「アリサこそ大人びてきたね。可愛いから美人の間くらい」
「なによそれ…喜んでいいわけ?」
「あぁ、もう少しだけ。こうしていたい」
「もぅ…おつかれさま」
あぁ、そうか。
俺はこう言って欲しかったのかもしれない。
誰かに“お前は頑張った”と、言って欲しかったのかもしれない。
決して自分自身で掴む事が出来ない不思議な言葉。
それを言ってくれる少女は、ただただ俺にとっての救いの女神であった。
どのくらいの時間が過ぎたのか分からない。しかしやる事があるのは事実であった。
「アリサ、家に帰るぞ」
「うん、荷物は明日でいいかしら」
そう言って寮の方へ向かおうとするアリサを引き止めた。
「俺達の故郷の方だよ」
あぁ!とアリサは一瞬呆けて思い出した様に相槌を打った。
目的地はサウスホープ、久々の帰省だ。




