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帰還の準備

 俺たちは汗だくの服を着替えてシャワーを浴びると食堂へと向かった。


 そこでアリサとルインを見つけ、2人に挨拶をした。


「おはよう。今日帰るぞ」


 その一言に察したのか2人は力強く頷いた。皇帝にかけられた《人身掌握》と音信不通。

 この二つの要素で只事ではないと言うのは容易に想像がつく。


「ボクたちはユウキについ回ればいいの?」


 ルインからの質問に、レナードと朝食セットを頼みながら返答した。


「あぁ、状況がわからない中で分断する理由がないな」

「そうね、王都の状況からゆっくり(いとま)と言うわけには行かなさそうだし…」


 レナードは何も言わずに、テーブルへと置かれたパンをモシャモシャと食べている。

 同意という事だろうか。


「ルインは必要ならギルドに情報をもらってくれ」

「りょうーかい」

「聖都にも行くの?」

「いや、昨日の二国間通信の様子から焦る必要はないな。ただ魔族との戦争前に顔合わせはしたいが…」


 そこでグイッとミルクを流し込んで一息ついたレナードが、カップを置いて尋ねてきた。


「ボクはドールガルスに行っていいかい?」


 このタイミングでか?

 あ、いや違うな。レナードはあれをやりに行くのか。


「トージの秘宝か?」

「そう」


 レナードはそれに頷いて真剣な表情へと変わる。

 レナードが力をつけるに当たって、ナルシッサと同様に実体を持った残滓であれば手合わせも叶う。

 それは書物100冊をも超える意味があるだろう。


 なんせレナードは図解だけで技を盗んだのだから、ステップアップしたければ、それが一番の近道だ。


「だめだな」

「なぜ!」


 レナードは俺の一言に声を荒げて抗議してくる。


「ユウキ、ここは行かせてあげるべきよ!」

「ボクもそう思うなー」


 俺は四方から飛んでくる抗議に肩をすくめた。

 まさにその通りだ。


 レナードを行かせない理由がない。



「違うよ、俺たちも一緒に行く。例の件で話がある」

「「「あぁ〜」」」


 三人揃った声にガックシと肩を落としてしまった。

 王都の状態もそうだが、まずはナルシッサに言われた事をしなければいけない。


 手遅れになってからでは遅いのだ。

 王都の事は王都の人間に任せて、自分たちの仕事を優先する。


 アチコチ手をつけて、何も手付かずが一番怖い。


「という事で、全員で帰還したら地下ダンジョンに行ってみるぞ」


「「「おー!」」」


 方向性が決まった事で、朝食を流し込んで帰還の準備に入る。

 さして多くはない荷物をまとめあげると、ずっと長い間旅をしてきた気分になってくる。


 本当に色々あった。



 最初の街ダルカンダではジャック、カーミラ、ナタリー達と出会い、師匠など柄にもない事をした。


 道に迷って老ゴブリンのネフィルに世話になり、副首都チェストでは、かつての英雄トージの仲間であったドワーフのサービックに出会った。


 そこで馬車改造の素材を集めていたら、アリサが盗賊団“荒野の鵙”に誘拐されて助け出しに行くも、ルインの両親を手にかけた張本人である事が判明。

 その確執を乗り越え、ルインは本当の意味で強くなった。

 しかもグライス一族とネフィル一族による、種族の壁を超えて初めて獣士の名を轟かせた案件でもある。



 支度を終えて馬車を引きながら黒城を目指す。

 周囲の空気の悪さと、鍛治屋が奏でる騒音公害は慣れた物ではない。


 不思議なものだ。


 もう帰ると思うと、それも感慨深いものであった。


 そう考えながら道を歩いていると、レクサスから預かったリザードキングの首飾りがキラリと光った気がした。




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