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レナードの葛藤(2)

「流れるような技の数々…ドールを捨てるのか?」


 技と技を繋げるというのは、そこに無駄がなく隙を作らない。

 それが難しいと言うのは、徒手空拳で戦う俺にはよくわかる。


 特に《光の翼》により一撃で屠る事を得意としてきたドールの流派から乖離している。それはとても難儀だったかもしれない。

 つまり、一つの流派を捨てると同義であった。


「ドールは元々繋技を得意としてきたんだよ。今に伝わる技は《光の翼》にあぐらを描いた最低な物さ」

「書庫の記録か…図解があったのか」

「うん。そして僕は…君にできない未来へと進もうと思う」


(やはりレナード…天才だ!)


 達筆とは言えない筆で描かれた図を見て、その技を盗み取ったと言うのだ。常軌を逸している。

 しかしそれよりも、俺に出来ない未来…袂を分つと言うのか。


「…血の海に心が沈むぞ!レナード!!」


 互いに引くことはない、意地と意地のぶつかり合い。


 俺は未だ人を殺す事への戸惑いが消えない。それは前世で悔やみきれない思いをした事にも関係しているのだろう。

 死と言うのはそれ単体で、自分が思ったよりも多くの人を巻き込む。

 それはどんな人間であっても善と悪が絡むだろう。


 だが一つ言える事がある。

 それを他者に与えて愉悦に浸れる人間はごく少数であるという事を。


 レナードはその茨の道を進み、自らの使命と闘う事を決意すると言っている。



「僕は沈まないよ。だって…」


 光の翼が一際大きく輝きを増していく。

 その決意が正しいかは分からない、友として止めるべきなのだろうか?


 《二刀・八陣》


 先ほどと同じ技…だが明らかに輝きが違う!


 俺は目を見開いた。

 全周囲に散らせた光の粒子は、その予測を困難にするほど周囲に溶け込んでいる。


(これは…避けきれないな)


 魔力を解放してレナードの動きに合わせるように知覚を研ぎ澄ます。



 ピリッ…


 光の中に真紅の雷光が一閃するのと、レナードが動くのは同時だった。

 残像を幻視するほどの速度でレナードが刀を振るう。


 一つ、また一つと皮膚が裂かれ肉が斬られる感触が襲うが、早すぎて痛みすら感じない。


 それを辛うじて捌き活路を見出す。


(見える…?)


 一撃、一撃と進むにつれて攻撃の速度が緩んでいく。

 レナードは本気の様に見せて、組手を意識しているのだろか。


 いや…違う。

 あの表情は本気だ…


 もはや魔力の残滓など見えぬほどに濃密となった爆心地。そんな中で全てのものが遅くなって行く。


 そう言えばかつてこんな事があった。

 あれはサウスホープ獣人戦争でレクサスとやり合った時だ。

 あの時も知覚出来ないほどの速度でレクサスが攻撃を仕掛けてきたが、最終的に見えるようになった。


 俺は最後の斬撃に魔力を合わせ、吹き飛ばすように掌底を放った。


 バンッ!


 激しい音を最後に周囲は静まり返る。

 レナードは刀を弾かれ斬撃を逸らされた事を、遅れて知った。


 見開くその眼は何を思うだろうか。

 だが俺は手を抜くほうが悪いと思った。ただ単純にそれだけの理由。


「俺も弱いしレナードも弱い。それほどまでに相手が強すぎるんだ」


「…分かっているさ。だけど強くなったと思えば…君との距離が見えてしまうんだ……!」


 一筋の水滴が零れ落ちる。


 やはりスランプ。


 想像していたレナードの葛藤が声として俺に現れる。

 レナードは弱くなんかないし、人族の中では恐らく最強に近い。


「俺は赤龍の力を使わなければ、レナードの足元にも及ばないぞ?」

「でも届く努力をするんでしょう?そして届いてしまう…それが君だ!」


 それを聞いて俺はニヤリとした。


「なんだ分かってるじゃないか。届くか届かないかじゃない、届くまで努力し続ける。それが俺達じゃないのか?レナード」


 言われはハッとしたような表情を浮かべる。

 自分がどれだけ努力してきたか、それを思い返しているのだろうか。


 やがて何かを吹っ切ったように刀を鞘へと納める。

 後ろを向き表情が読み取れないが、考えを巡らせているのだろう。


 だから俺は背中をもう一押しする事にした。


「このままじゃ負ける。俺も、そしてレナードも強くならなければいけない」

「うん、一緒に行っていいのかい?」


 そこでレナードに振り向き、俺は笑顔で答えた。


「俺の背中はお前にしか預けられない」

「…そうだったね。ミミっていう魔族に勝てるかな?…ははっ」


 その後、肩を組み俺達は獣道を拡げるようにして歩を進めた。


 どこからどう見ても仲のいい兄弟や友人の様な後ろ姿。

 あたかも最初からそうであったように、もう自然のままで2人には(わだかま)りを感じさせなかった。




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