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赤龍の籠手

 フェニキアは中へと入り一直線で奥に向うので、俺たちはそれについて行った。

 周囲には所狭しと装飾豊かなアクセサリーや武器が保管されており、其方に目がいってしまう。


 ここは不思議と埃一つなく、かび臭さも感じない。

 扉の魔法陣が室内を良好に保つ機能をしていたのだろうか。


 そんなことを考えていると、フェニキアが古臭い箱の前で止まった。

 その箱自体に魔力が宿っており、《点穴》を持つ俺には淡く輝く炎が映し出されている気がした。


 フェニキアはそんな事など気にも留めずに手を当てると、炎はフェニキアの手に纏わりつき吸収されていく。

 何事も無かったかのように箱を開けると、そこから出てきたものは“籠手”だった。


 俺の髪の色をそのまま移したかのような真紅の装飾が施された一品。


「ユウキ、これを持って行ってください。あなたの役に立つと思います」


 俺はフェニキアに言われ装着して驚いた。

 まるで何も持っていないかのような馴染みだ。


 金獅子のナックルも軽かったがそう言った話ではなく、付けている事も忘れるほどだ。

 握ったりするが関節の動きを邪魔せずしっくりくる。


「なんだこれ…まるで身体の一部だ」

「それは私が以前使用していた物で、サービックの真贋です」


 グライスに貰った金獅子のナックルが壊れてから、武器は大斧シュレッケンしか持っていなかった。

 威力は申し分ない代物だったが、魔力を吸うわ疲れるわで手に馴染む物が欲しかった。


 そしてフェニキアは思い出したように付け加える。


「あっそうだわ。私の特性を受け継いでいるとしたら、ユウキは炎に対して耐性があります」

「ん?熱さを感じないってこと?」

「少し違います。超高温の炎だろうが溶岩プールを泳いでも死にません。ただ触れられているような感覚はすると思います」



 思い返せば獣人戦争から妙なことが事が多々あった。


 リザードマンの老将ノーデストに《アンリミテッド・バースト》で死にかけても無事だった。あの時から赤龍の能力に目覚め始めたのだろう。

 郡鳥戦では、アリサの上級炎魔法(燃焼剤付)の直撃を浴び、燃え盛りながら熱さを感じる事もなかった。

 それどころか、敵である鵙から化け物呼ばわりされた気がする。


 人外な事が多くあり、思い出せば悲しくなる結果となってしまった。


 やはり俺、人ジャナイの…


「私の特性を少なからず理解しているのでしょう?」

「あぁ、赤龍の本質はなんとなくな。フェニキアはこれからどうするんだ?」


 フェニキアはその質問に微笑み返して答えた。


「ここに残って研究を続けますわ。何分隠した資料が山のようにありますので」

「相変わらず芯がお強いことで。俺たちは明日にでも王都に帰還する」


 赤龍であったこともそうだが、皇帝は《人心掌握》から解き放たれて前へと進むことが出来る。

 魔族と言う明確な侵略者に対して、我々も防衛に動かなければただ蹂躙されることになる。



「リザードマンと和平を結んだ後、国内の治世に努める予定ですわ」

「僕もそれが良いと思います。今の帝国内は荒れていますので」

「政治的な事は分からないが、良くなる事を願ってるよ」


 無用な口出しなどしない。

 生兵法は大怪我の基と言うしな。


「闘技場の出入りは自由にしてください」

「助かる。あぁ皇帝とちゃんと話がしたいんだけど」


 戻りながら少し今後の話をしているとき、背後からアリサの声が聞こえた。


「あっ…フェニキア、あのね…」


 フェニキアがアリサの方に振り替えると、手に持つ指輪を見て何か納得したように頷いた。


「アリサにぴったりのアクセサリーね。皇帝には今後必要になるから渡したと言っておくわ」

「うぁー!綺麗だね!」

「うん、何かこう…惹かれる物があって」


 アリサが持っていたのは宝石が随所に鏤められた、スカイブルーの色をした指輪だ。

 だが宝物庫にあるだけあって、一つ一つの宝珠からは計り知れない魔力が宿っているのが見える。


「アリサの栗毛によく似合うよ」

「やだ…ユウキったら」


 まだまだ問題が山積みのため一先ず皇帝の所へと帰ると、皇帝も皇帝で忙しいのか謁見の間で少し待たされることとなってしまった。


「すまないな、これほどまでに事務仕事が忙しくなったのは初めてだ」


 そう言いながら玉座へと座ると、肩をたたいていた。

 疲れている所悪いが、王都の状況が不明で聖都まで行っている余裕があるか分からない。


 これには早急に対策が必要となっていた。


「王都へは転移可能なので直ぐに状況を調べます。それと聖都ですが…」



 そこで皇帝は右手で制し、水盆の様なものを用意させた。

 水面に光が反射して上空に大きな光の円が現れると、そこに立派な白髭を携えた老人が映し出された。


 その姿に皆の眼が見開く。

 その人こそ、聖都サンクチュアリのトップである教皇だった。


「初にお目にかかる、ワシが教皇である。凡その話はゾディアックから聞いておる」


 それに姿勢を正し、失礼のないようにして受け答える。

 …レナードがな。


「私、レナード・ドールと申します。ご尊顔拝見、嬉しく存じ上げます」

「よいよい、獣士の話は聞いておる。こちらにも来るか?」


 そこで俺が交代する。

 ダルメシア王と王都の状況が不詳。まずは帰還し確認を優先する予定だと伝えた。


 今使っている水盆は本来3国間の通信として使われるものだが、他国トップの要請に返答がない状況だとの事。

 俺も何度水晶を通じて連絡しても、返答がないのだ。


「聖都に来たらゆっくりしていきなさい。こちらに…」

「おうユウキ!久しぶりだな。こっちは大丈夫だ」

「「グライス!?」」

「既に和睦しておる。我々は神の与えられた試練を乗り越えるのみ…安心して来なさい」


 状況は暗転しているように見えて、大陸的に見たら好転しているようだ。

 教皇が温厚な人物で、これには非常に安堵した。



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