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黒城再び

 帝都へと無事辿り着いた俺達は、その日死んだようにベッドへと倒れ込み微睡の中へと消えて行った。


 キツかったー…


 王都領は平地が多いが帝国領は山岳が多い。

 街道から外れたあの道は、峠やら林道、はては連峰の沢歩きで濡れる濡れる。


 そんな心境で迎えた旅の最後は、営業スマイルで皇帝を城に届ける事で終わった。


 そして宿屋に辿り着けばこうもなるさ。

 約束は後日城へ訪問した時にと言うことで、文句なく休ませてもらった。


 熟睡して身体の疲れを癒し、瞬きした感覚で目覚める。


 まだ目蓋が重く、薄らと瞳を開けると窓辺から差し込む陽光の角度は高くなっていた。

 当然のように起きた時のお日様は真上にあった。


 俺はまだ重い身体に鞭を打って起き上がり、隣で寝息を立てる相棒を起こす。

 そして定番となりつつある朝の挨拶。


「おはようレナード。最高の朝だな」

「おはようユウキ。以前よりは気持ちいいかな」


 確かにそうだな。

 この地での問題は解決したし、何より心が晴れやかだった。


 空気が悪いのは変わらないが…

 食堂へ行くと昼時なのもあって賑わいを見せていた。その中にアリサとルインを発見する。


「おはよう二人とも、最高の朝だな」

「えぇ、久々の安眠だったわ」

「ほんとにねぇ!ボクも馬車より眠れたよ!」


 ルインさんは馬車でも爆睡だったはずだが。

 まぁ改造が素晴らしかったからな。あのサスペンションはもはや動くベッドだ。


 移動する道が馬車道ならな!


 とにかく飯を食べたらすぐに黒城へと向かう必要があった。

 昨日約束した言葉は『明日(みょうにち)』という指定であり、特に時間は言われていない。



 そして黒城にて再びの謁見の間へ向かった先で、皇帝陛下からの…ありがたいお言葉。


「貴殿らには時間の感覚がないのか?ん??」


 皇帝陛下、ご立腹。


 俺の屁理屈などゴミのように捨てられていた。


(おい誰だ、最後まで寝てたのは…)

(僕の方が後だったね)

(私は違うわよ!ルインがヨダレを…)

(わわわっ!あれは聖す…)

(ちょっまっ!)


「もう良い…なぜ貴殿らの様な…とにかく此度の攻略見事であった。謝礼として宝物殿から一つ持ち出すことを許す」


 皇帝は頭を抱えて今のやり取りを見ていた。

 だが内心は微笑ましくも思っていそうだが、真意の程は定かではない。


「いえ、獣士の件だけで十分です」


 皇帝が目を細めて厳しい目つきで睨んでくる。

 やだ、この人ちょっと恐い。


「謝礼は旧友と我らを献身に介抱した事も含む。それともこの皇帝自らの発言を撤回させるつもりか?」


「めめめっそうもありません!ねッ?ユウキ!」

「お、おう。お心遣い感謝いだします!」


 噛んだ。

 めっちゃ噛んだ。


 アリサきょどってるし、やっぱり皇帝は皇帝だ。城に戻って雰囲気出せば恐ろしきかな。

 気さくな親戚のオジサンは道中だけだったよ。


「フェニキア、案内せよ」

「はい、こちらにどうぞ」


 謁見の間を何度か曲がり進むと、言われなければ分からないほど小さな横道があった。

 そこは見れば暗闇となっており、誰一人として気が付かない。


 少しブルッとなってフェニキアを見ると、彼女はニヘラとした嫌らしい笑みを浮かべて見返してくる。


「ここを行くのか?」

「嫌ですわ。ユウキは怖いのですか?」


 なん…だとッ!

 赤龍の記憶に覚醒してやはり人格変わったか?!


 常闇の森林もそうだが、人間やはり精神的に怖いものは怖い。

 出るとか出ないとかそう言う次元の話ではない。人が持つ第六感は当たらずも遠くないと思っているのだが。


「まぁな。アリサなんか森林では失禁も…どぁふッ!」


 ガシャーン!


「ハァハァ…ヒートエンドボムを…!」

「アリサ落ち着いて!皇帝の座るイスが無くなる!」


 俺は薄暗い天井を見ているようだ。ルインの喧騒が遠くから聞こえる気がする…

 そう、見えていたのは螺旋階段ではなく天井だ。


 殴られて螺旋階段まで吹き飛ばされたのに気がつくのに数秒を要した。

 レナードが手を貸して起こしてくれたが、その際耳元で囁いた。


「ユウキ…あれはダメだと思うんだ」

「皆まで言うな」


 ルインも何かを言おうとしていたが止めたようだ。

 それは正解であり、このままでは俺の傷口が広がる一方である。


 フェニキアは目を細めて「ふふっ」とか笑っているが、本当に少し意地悪くなっていないか?



 そんなことを考えながら無言で螺旋階段を降りて行くのだが、ある事に気が付く。

 その階段の幅が徐々に狭まっていき、最終的には人一人が通るのがやっとになっていたのだ。


 どの程度の時間を下って行ったのかは分からないが、やがて朽ちた木製の質素な扉が見えた。

 鍵とかそう言う問題ではなく、押せば扉がメキッと音を立てて崩れ落ちそうな感じだ。


「うぁ…こんな扉で大丈夫?ボクが触ったら壊れそう」

「多分大丈夫だと思うよ、こういう物はね」

「えぇ、私もそんな気がするわ」


 こんな所に宝物殿が?ルインさんナイスアシスト!

 …と思った俺がバカでした。


「魔法で閉じられていますので、少々お待ちください」


 そう言ってフェニキアの持つ指輪に扉が反応する。

 そう、なんでも魔法の世界。外見で判断できる要素は少ない。


「まぁ《点穴》を持つ俺には分かっていた訳だがな」


 聞いてもいないのに呟いた一言に、皆が驚いたような顔で反応する。


「まぁ、分かっていた訳だがな……ごめんなさい。見た目に騙されました」

「さっすが!相性抜群!」


 ルインが盛大に抱き着いてきた。


 育ち盛りのバストラインが俺の胸部にクリティカルヒット!


 “ふにょん”と形容する柔らかさ、筋力の硬さが両立した何とも表現し難い優しさ…

 それを押し付けてくるので、俺は継続ダメージを受けて殺されそうだった。


 柔らかい中に少しだけ硬いものが押し返してくる。

 何だこれは?


「ぁっ…んっ」


 ピッとそれに触ると、隣からと吐息が漏れた。


 !?

 やっちまった!


「ごごめん!そんなつもりは!」

「もぅ…いいんだよ…」


 くねくねして更に押し付けてくる。


 だが周囲の視線が痛くなった事に気がついた。

 嬉しくてトリップしかけた所で我に返り、焦ってルインを引き離した。


 まだルインのやつ頬が火照ってかわいい……



 そんな馬鹿なやり取りをしている間に扉に変化が現れた。

 幾重にも折り重なった魔法陣が展開され、それは幽玄で美しささえ感じるものがある。


 カチャリと金属音がして、今にも自壊しそうな扉が開かれて行った。



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