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フェニキアの影武者

 リザードマンの拠点では一悶着あったものの、大きな騒ぎとはならなかった。

 彼らも彼らで帝国との小競り合いに疲れていた。それはグライスと戦った理由でもある“若い世代の不満”があるのだろう。


 誰も血を見たくはないのだ。


 さて、皇帝が操られていたとは言えもう1人危ない奴がいる…それは影武者の偽フェニキアだ。

 彼女は《人心掌握》の影響を受けていなかった訳だが、彼女のこれまでの使命を考えれば甘言に惑わされたと言う事である。


 だが明確にフェニキアに対して牙を向けた事も事実。落とし所が必要である。


「貴女はどうなさりたいのですか?」


 ……


 2人はそっくりだ。

 影武者だから当然だが、整形技術はないので生来の顔で鏡を相手に自問自答しているようであった。


「ふむ、理由はどうであれ影武者が主人に刃を向けた。この地にはおられんだろう」


「お父様…」

「なんだ?」


「黙って下さいません?貴様の油断でこの様ですわ」


 ーッ!?


 皆が目をひん剥いてフェニキアを見た。


 やばい!

 “お淑やかな人”と言われた所以が!?


「…失言だった!フェニキアに任せよう」

「はい、お父様」


 ニコリとした純粋な笑顔は、歳の近い男共をキュンとさせる物があった。

 直前の畏怖さえなければ。


「私は貴女よ。そして皇帝から皇女と言われれば遂行するわ」


 その言葉、仕草に一切の歪みもない。

 故にフェニキアから出る言葉は一つであった。と言うか、最初から決めていたのであろう。


「貴女以上にフェニキアを知るフェニキアは居ないでしょう」

「私は…フェニキアを全う致しますわ」

「それでこそフェニキアですわ」


 そう言って忠誠を尽くす影武者。

 彼女はいつから自らの名を呼ばれる事が無くなったのだろう?

 それに、彼女は将来的に幸せな家庭を持つ事ができるだろうか?


 答えは否だ。


 齢16にして未来が閉ざされる絶望。その未来を押し付けた両親。いや皇帝が無理を言ったか?


 このフェニキアの回答は正しいのか?未来なき生が正しいのか?

 俺には…答えが出ない。


「なぁ、たまには休みあげて恋をさせてあげなよ」


 ー!!


「な…何を!私はそのような事望みません!」

「暇を与えるのと同義ですわ」


 んーやっぱりそうなのか。

 チラリとアリサを見るが、彼女達もあまり良い答えを持っていないようだった。


 だがそこでルインが意味深な言葉を投げかけた。


「ボクは決まった道からユウキが助けてくれたからね。そう言う人がサッと現れるかもねー」


 そう言えばそうだった。

 闇ギルドで暗殺稼業を淡々とこなす傀儡になりかかっていた所を、俺が無理やり引っ張ったのだった。


「まぁそう言う事で、縛り過ぎると彼女が潰れるぞ。それは路頭に迷うのと同じじゃないか?」

「考えておきますわ」

「そもそも影武者自体いらんだろ」


 皇女と言っても皇帝は実力主義、他国とは戦争しない。ならば影武者の存在意義は何だ?


 分からなければいいのか?

 ならば簡単じゃないか。


「そうだ、お前ら義理の姉妹になれよ」


 !?


「ばっ!私如きが皇室に入ると言うのですか!」

「だから帝国では子供に継承権がないから意味ないって」

「あっ…そうだね。ドールとは違うね」

「お前ら気付けよ…」


 半ば呆れるように頭を抱えてしまった。

 少し考えれば分かるだろうに、おそらく昔からの仕来りのような物で続いていたのだろう。


 顔の似た者を影武者として進呈するとか何とか。

 不要なやり方は排除すれば良い。それが出来るのは1人だけだ。


「良かろう。後で貴様を養子として迎えよう」

「ーッ!そんな…ことって……」


 フェニキアは優しく肩に手を置き慰めるようにトントンと叩いた。

 それはまるで本当の姉妹のようであった。


「今までごめんなさい…貴女の名前を教えて」

「ソフィア…です、お姉様」

「ふふ、口調はもういいのね。ソフィア」


 2人は長い付き合いだった。それこそ幼馴染のような年月を共にしていたが、決して交わることの無い世界。


 そんな概念諸共吹き飛ばしたバカがいる。

 やはりこの世界に必要なのは、常識に縛られずに善行へと愚直に突き進む者だと皇帝は確信した。


「良き采配ぞ。ユウキ・ブレイク」

「恐悦至極」



 影武者問題は解決に向かい、皇帝も快方に向かったことから帝都へと戻る事になった。

 皇帝と皇女が長い間玉座を離れるわけにもいかない。

 俺達は和解したリザードマンに謝辞を述べ、帝都へ向けて出発した。


 しかし馬車の荷台では既に事が起きていた。


 皇帝陛下はソファへと鎮座していらっしゃる。

 フェニキアはさも当然とばかりに布団へ転がって談笑しているじゃないか。


 実に仲睦まじい光景だが、定員オーバーだ。

 皇帝、フェニキア、ソフィアの三名様御来店。


 つまり俺たちは峠道の徒歩が確定したのだ。

 これには盛大なため息と共に、帰路へと着くのであった。




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