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帝国とリザードマン

 ガルシアは横たわる皇帝を見て肩をすくめた。


「よう、干し芋みたいだな」

「ご苦労だったなガルシア。30年分を労ってやる」

「…すまねぇ、警戒していたのに出し抜かれた」


 30年前?

 それって俺が生まれる前だが、王都の騎士団で父さんと一緒に仕事をしていた時期だ。


「そんなに前から兆候が…?」

「いや、ナルシッサの教えでダルメシア王を心底警戒しろと代々伝わっていてな」


 そういやナルシッサは戦後、王都から国外追放を受けたんだった。

 固有血技の相性があるとは言え、人としても相当犬猿の仲だったに違いない。


「人心掌握の痕跡は一先ず消滅させましたわ」

「フェニキアよ…いや赤龍様と呼ぶべきか?」


 フェニキアは首を振りそれを否定した。


 俺には分かる。

 性別は違えど転生しようが前世の記憶が残ろうが、今を生きるのは自分自身なのだ。


 それに嘘偽りはなく、フェニキアは皇帝の娘である事に違和感がないはずだ。


「私は赤龍ですが、その前にフェニキアとして生を受けた“人”ですから言いますわ。お父様、おかえりなさい」


 そう言ってフェニキアは皇帝へ抱き着いた。

 それを優しく抱き留める父。


 立場が違えど親子に変わりなく、その本質は同じなのだ。


「フェニキア、俺は俺なんだよな?」

「えぇ、私の力を受け継いだナルシッサの子孫。ただユウキはもっと…複雑ですわ」


 複雑か。

 恐らく転生した事が関係しているのだろうが、こればかりは赤龍でも分かるまい。


「ただ一つの真実は、俺自身が赤龍ではなくユウキ・ブレイクである…」

「最初からそう言ってるじゃない」

「そうだよ、ユウキの方が気にしすぎ」


 アリサとルインは俺が異世界からの転生者と聞いても、驚きはしたが特別気にしなかった。

 それが分かっただけで、今までの思い出が変わることはない。



 それはそれとして問題がもう一つ。

 レナードの新たな力についてだ。


「レナードあの力は危険だ。方向性が違う」

「私から言っておきましたわ」

「ごめんね、またユウキに助けられたよ」


 俺じゃなくてフェニキアだと告げ、この問題は解決済みという事で流すことにした。


 レナードなら自ら開いた正しい道へフェイズシフトする事が出来るだろう。

 俺はそのアシストをするだけで良いのだ。


 さて、パーミスト洞穴の攻略や遠征など、皆色々あって疲れていた。

 皇帝自身も俺と別れた後からの記憶がないそうで、心身共に療養を要する状態であった。


 ここから一番近いのはレクサス達リザードマンの本拠地だ。

 皇帝は率いてきた兵に対し、部隊長が率いて帝都までゆっくりと帰還するように指示を出した。


 更に自身はリザードマンの本拠地で療養すると宣言。


 これには場が騒然としたが、俺がレクサス達を獣士と認め害はなく友好的だと告げると、皇帝はこの場で獣士との共存に同意した。


「二つの約束を違えなかったからな。旧友をありがとう」

「やめてください。皇帝からお礼なんてむず痒いです」



 パーミスト洞穴の最深部で得た情報として、以前は帝国とリザードマンが良好な関係を築いていた事を伝えた。

 王国のゴブリンと同様、直ぐに変わることはないかもしれない。


 だが、一歩ずつ確かな足取りを進めばよい。


「レクサス、皇帝を頼む」

「承知した!皆行くぞ、最高のもてなしをしてやろう!」


「♪れーもん、れーもん、つやつやお肌が…」


 何やら隣から不穏な歌が聞こえて振り向くと、ルインさんがご機嫌でお歌を唄っていた。

 それを聞いていたガルシアが人知れず笑っている。


 あぁ、本当にもっと自分らに素直になればいいのに。そうすればもっと早く手を取り合えるのに。


 そんな事を感じずにはいられなかった。そして彼には礼を言わなければならない。


「ありがとう。昔から助けられっぱなしですね」


 それを聞いてガルシアは両手を上げ、なんて事もなく答えをくれる。


「人間だから誰でも行き詰まる事もある。だがな、ストイックになるのは自分の中だけで良い」


 そして彼はこう紡いだ。


「それを周りに撒き散らす内は三流だ」


 勝てないなぁ。

 この人から見れば、俺は何歳まで行っても子供扱いだな。


「努力します。でも頼れる仲間がいるのも良いですよ」

「お前は何だろうとボストンの子だよ。今ので確信した」


 彼らの友情に何があるのかは、子の俺に知る由もない。

 だが、俺もレナードとはずっとこんな関係でいたいと思わせる物があった。



 大事なことを最後にしっかり言えた俺は、《人心掌握》の件で話したかったため、学園長ノイントに通信用魔道具で念話を飛ばす。


『学園長聞こえますか?王と話がしたいです』



 しかし、いつまで待っても返答はなかった。


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